真直ぐな雅:雅也と直美の何事もない日々【創作大賞2024】応募作品
※この作品は、初出はシロクマ文芸部のお題をお借りした参加作(2024.04分)であり、マガジンに纏めたものを一つにしたものです※
第1章: 予感
変わる時。それは時として唐突に訪れる。春の嵐の如く強く吹きすぎ、一瞬にして全てを攫っていく。
彼が唐突に言い出したことは、正にそんな喩えが当てはまるものだった。
「今が丁度いいんだ。チケットも取りやすいし。なあ、今度の週末、スケジュール、空けとけよ」
は?スケジュールって、いきなり何なの?チケットってくらいだから、近場ではないわよね。問いたい台詞が心の中でこだまし、口を突いては出てこない。
「チケットと宿の手配は、俺がしとくから。じゃあ、そろろそバイトの時間だから。会計済ましとくから。またLINEするから」
そう言って、伝票を手にして慌ただしく店の出入り口へと向かう彼。口を挟む余地を与えてくれぬところは昔から変わらない。
お昼を一緒に食べようと、連れだって入ったレストランで一人、グラスに残ったアイスティーをストローからすする。ズズっと品のない音を立てて、残り僅かになった紅茶が私の口元に運ばれてきた。
高校時代から気の合う友人のまま、そこから先には一歩も進まぬ私たちの関係。それにも、変わる時が来ているのだろうか。私は心の中だけでそっと呟いた。
第2章: 風車の風吹く街で
風車が一定距離を隔てて立ち並ぶ道で、私たちは記念撮影をしていた。
「もう少し近くに寄ってください。……はい、OKです。それでは撮りますよ。良い笑顔くださいねー。はい!OKです、お疲れさまでした」
撮影クルーが愛想の良い笑顔と共に、並んで立つ私たちを一枚の写真に収めてくれた。背景は勿論風車。
「どうですか?1回だけ撮り直しができますが」
アフターフォローを告げてくる係員に「あ、それでOKです、ありがとうございます」と彼が答える。そうして、プリントアウトされた写真と、撮影データが入ったSDカードが引き渡された。支払はお財布ケータイ。便利な時代になったものだ。
ここは、風車とチューリップが人気なアミューズメントパーク。立て板に水で今回の日帰り旅行を決めた彼が手配した場所だ。これもスマホの予約で。居ながらにして、とは正にこのことか。
週末、デートなるものをしているはずなのに、私の心は凪いでいた。少しはドキドキとかときめきとかあるかと思ったが、相手が彼では無理だったようだ。
「どうよ?花も見頃だし天気はいいし。良い週末になっただろ?」
相変わらず自己完結している。まあ、悪い気分ではない。私だって週末のドライブは好きだし、花も風景も好きなものたちだから。何だかんだ言って、長年の付き合い、私のツボを心得ているのが彼だ。
「ここは海が近いから風が気持ちいいんだ。初夏にはチューリップも満開になるし、インスタ映えってゆーのか?それで有名ならしい」
「ああ、私のフォロアーさんも、ここで撮った写真アップしてたな」
「だろう?だからさ、一度来てみたかったんだ。直美と」
「え……雅也、それ、ウケ狙いとか何かのネタじゃないわよね」
「ばーか、んな訳ないだろ?マジだよ、マジ」
そうか、マジか。マジなのか……。
真面目な想いに、私はどう答えたらいいだろう。自分は今、何を感じているだろう。しばし自問自答しながら、私は雅也の右腕を自分の左腕でそっと掴んだ。
私が手を伸ばすのと、雅也が手を差し出したのは、ほとんど同時だった。
第3章: 花に埋もれて
花吹雪で一瞬、呼吸が止まった。実際には止まりそうになった、と表現すべきところなのだが、私としては確かに止まったのだ。
凄い。
見上げた夜空に桜が瞬またたいている。
今、私たちがしているこの状況は他人ひとに見られたら少々、いや、かなり恥ずかしいものがあるのだけれど。この圧倒的な美しさ、生命がもたらす美、その波に打たれた今はどうでもよい気がしていた。
「スゲーだろ?これも見せたかったんだ……ところでさ、直美。夕方に呼び出して悪かったな。予定のキャンセルとか、させてないよな?俺が誘ったせいで」
「いーよ、雅也が気を使うことないし。急ぎの予定もなかったし。気を使われたら、桜が一斉に散ってきそうで怖いわよ」
そうしたら、私たちは桜に埋うずもれるのね。私がポツリと独り言のように付け加えると、雅也が「ばーか、その前に脱出するわ。直美を連れて」と言って笑った。
私は左手を伸ばして、薬指をピンと張った。
雅也の親指と人差し指が輪を作り、私の薬指を包んだ。
「さーて。そろそろ帰りますか。本格的に暗くなったら冷えるし危ない。立てるか?直美」
その言葉と共に開いていく仮初めの輪、その温もりが嬉しくて少し淋しかった。私たちは、公園の中程にある芝生に寝転がっていた身体を起こした。雅也の右手が私の左手を包む。その五指に、私は自分の指をそっと絡めていた。
風車の街から帰ってきた3日後、相変わらず唐突に誘われた、夜桜見物での一コマだった。
第4章 :夢でも現でも
春の夢。“春の夜の夢のごとし”
平家物語で有名なくだりだ。何となく思い出して口ずさんでみた。
古文の時間は苦手で、授業などは碌に聞いてはいなかったのだけど。
「春の夜の夢のごとし」と言えば、心の中ではこの曲が流れ出す。
この歌がリリースされたころは二つ折りだったんだなぁ。
今はスマホ時代。端末は変わっても、歌は変わらない。
それならば、私たちは……
「これから全てがはじまるんだ。消え去るなんてゴメンだぞ、俺は」
私の肩に手を置いた、その手の持ち主が私に語りかける。
振り向かず、肩に置かれた手に自分の手を重ねる
「お疲れさま。諸関係の手続きとかは終わったんだよね。助教就任おめでとうございます……って言っていいのかな?」
私の言葉を聞いた雅也が薄く笑った。
「一般的なやりとりでは、そう言うからな。別にめでたくはないんだけど、俺としては。これからだから、何もかも」
そう言って、苦い笑いを零した。
アウトドア、ガテン系にしか見えぬ男。
高校時代から変わらない、楠雅也の印象がそれだ。
そうした一面はある。力仕事でも嫌がらず率先して引き受け、文化祭では実行委員を担当した。大学のサークルでも中心人物。社交的というのとは少し違うけれど、参謀役、縁の下の力持ち、という言葉がピッタリの学生。それが雅也だった。
そんな雅也だが、所属サークルは「詩歌研究会」。人文学部に在籍し、詩歌が現代に果たす役割を研究した。その後は大学院に進み、人文学部・日本文学科の博士課程に。その博士論文が認められ、出身大学の助教に就任したのが今日なのだ。
「博士号なんてのはさ。聞こえは大層なものに感じるけど、実際のところ登竜門、まだまだ一兵卒なんだよ。……何か愚痴っぽいな、スマン」
「いいってば。事実を言っただけでしょ?」
「そう言ってくれると助かる。で、だ。直美、本題に進んでいいか?」
珍しく私の同意を求めてきた。
雅也はいつも独断専行、でもそれは「それが最適確」である場合のみ。必要なことを無駄なく、研究者肌らしい彼の行動原理だ。
その雅也が一人で決定しない、それが意味するものとは—
「単刀直入に言う。俺はこれからの人生を歩む中で、直美が横にいることが1番自然だと思っている。ようやっとバイト生活から抜け出した新米大学教員の俺と、パートナーとして一緒に歩いて欲しい。桂直美さん」
唐突ではない。今がその時なのだと、私も分かっていた。分かっていたから私は答える。軽く息を吸い、それを静かに長く吐き出してから。
「私も雅也が一緒に歩いている図が浮かぶわ、これからの時間を描く青写真に。だから、私からもお願いします。楠雅也さん—」
私たちの声が重なり、軽いハーモニーとなって響いた。ハモっちゃったな、そう言って二人で笑いながら、静かに目を閉じる。傍らに大切な人の温もりを感じながら。
総字数:3358字
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