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秋桜の花のように【シロクマ文芸部】
秋桜、コスモスの種は小さい。その小さな種を家の脇に埋めて、ささやかな花壇を作るのが、かつて母の小さな楽しみだっだ。年とともに足腰が弱り、庭手入れの作業もままなくなり、今年、我が家のあるマンションの敷地、その片隅にコスモスは咲いていない。
けれど、コスモスの花はあちこちの花壇で花を咲かせている。母も通院の日々を重ねながら、自宅で時を過ごしている。
花を植えることができなくとも、花を見ることはできる。花壇に足を運べないならば、花の写真を撮って見せたらいい。
そんな思いもあり、私は時間の隙間に花の写真を撮っている。自分の趣味であることが第一なのだが、見てくれる人がいるといないとでは、撮るモチベーションも違ってくるというものだ。
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「写真で見ると花びらが透けるところが分かるんだねぇ」
この写真を母に見せたとき、彼女はそう言って笑った。
自分の手で花を植えたいだろう。自由に散歩がしたいに違いない。けれど、老いは誰にでも訪れるもので、私もやがては母と同じ道を辿るだろうから、分かりきった言葉は掛けない。
その代わりに、私はこう答える。不遜な私に似合いの。
「どう?上手いもんでしょ?あなたの娘の撮影は」
「そうだね。前よりは上手くなったんじゃないの?でもアンタより上手い人は大勢いるんでしょ?何だったけ?インスタだか何だかで」
私の影響で少しだけSNS用語が分かるようになった母の台詞に、私は頷いて笑った。
そんな、どこにでもある秋の日、日記に書くまでもないできごとを記して、拙い記事を終わりたい。皆様の街で、秋桜は風に揺れているだろうか。派手さのない、どこにでもある花を一度じっくり眺めてみてほしい。新しい発見があるかもしれないから。
拙稿題名:コスモスの花のように
総字数:720字
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