#133 なんで博士論文、書こうと思ったんだっけ……?

ーわたし、なんで博士論文を書こうと思ったんだっけ?ー
最終発表会まで2か月を切っているのに、こんなことを一週間も考えていた。

10月30日月曜日、2回目の中間発表があった。
査読中の論文修正と28日の学会発表の準備が重なり、あまりにも無理なスケジュールに心折れそうで、でも手を止めるのが怖くて、なんとか乗り切っている状態だった。
そして迎えた中間発表。それはもうダメダメだった。
審査員4人に共通するコメントは、「結論でちゃんとはじめの問題意識に戻ってください」というものだった。

私の博士論文は、内容だけ見れば「農産物流通」の研究である。その中でも特に、有機農産物を中心に扱う流通事業者に着目している。でもこの研究の出発点は流通ではなく、「農村風景を、いかに生きた美しい風景として持続させられるのか」ということだった。なのに……流通の仕組みや歴史を探究し、現場に浸るうちに、なぜだか出発点を忘れかけていた。
中間発表の時はにピンときていなかったが、その一週間後の水曜日、私の研究を一番よく知る先生と話していてこの事実にハッと気づいた。

そして金曜日の夜、
「過去に自分が書いた資料などをあたって、自分の研究の出発点を振返る」
と週末のTO DOリスト書いたのだった。


日曜日の今日、過去のnoteを読み返してみた。

流通に目を向けるきっかけとなった出来事や、都市に暮らす自分が農村に対して何ができるのかと考えていたことを、はっきり思い出すことができた。

例えば、下に引用した2つの記事は、当時の自分はこんなこと考えていたんだ、と思い出させてくれた。
1つ目は「認証ラベルがなくても、都市の消費者に環境配慮した農産物を届けているしくみがあるみたいだ」と気づいた頃の記事、
2つ目は「農村に影響を及ぼす都市の人々の消費スタイルを、利他的な方向に向けることがいかに難しいか」と悩んでいた時の記事だ。

有機認証ラベルは、”都市の消費者”には有機農産物にアクセスできる一番身近な手段である。あえて”都市の消費者”と書いたのは、生産地の近くに行けばラベルを貼られていない有機農産物も、直売所などで手に入るからである。生産者との距離の問題か、それ以外の理由かは定かではないが、認証ラベルを介さない消費の仕組みがあるようだ。

都市にはそのような仕組みや機会はほとんどない。しかし、都市の消費者が認証ラベルを信じる以外に、有機農産物にアクセスする手段がないかというとそうでもない。『坂ノ途中』はその手段の一つを提供してくれている会社だ。

#81 今日、何食べる? 食材から料理を決めよう(2020年4月4日)

毎日のごはんには、食の楽しみという自分の利己的な関心から、生産者を取巻く課題や環境負荷といった利他的な方向へと思考を広げていくヒントがあるように思った。

「利他的な」とか「自分事としてとらえる」が重要だけど一番難しいと感じている。環境保全意識の高い欧州とは価値観の異なる日本で、どんなやり方で進めていくのが良いのだろう?

#113 東京暮らし、たどりついた食材選びと調理法(2021年1月30日)

出発点を思い出した頭で、これまでのかなり具体的な個々の研究を俯瞰してみると、具体的研究から得られた小さな発見が何を意味するのか、もともと持っていた問題意識に対してどんな結論が導けるのか、そもそも博論がどういう位置付けの研究なのか、を説明できるような気がしてきた。
今はまだドラフトに過ぎないけれど、序章と結論の構成も来週には決められそうだ。


長い学生生活ももうすぐ終わり。
今日のようにちょっと振り返っただけでも、ずいぶん遠いところまで来たんだということ(二つの記事で書いた疑問は、今年書いた2本の論文である程度結論が出ている)、そして基本的な問題意識ばずっと変わらないということがわかった。

今に至るまでに、出会う人や環境には恵まれ、すんごい引き寄せ運だなと自分でも感心するような出来事がたくさんあったこと、出来事のうちのいくつかは、noteで発信していたことがきっかけだったことも思い出した。

2023年は論文を書いていてなかなか更新できなかったけど、博士論文を書き終えたら、またnoteも更新したい。
あとちょっと、完成までは走り切る!

いいなと思ったら応援しよう!