3年後の『音を聴くひと』
分かってあげられない。しかし分かっていないことは分かっている。(梨木香歩)
ある方から教えてもらって、気づきましたが、今日は『音を聴くひと』の誕生日らしい。『音を聴くひと』というのは、私・下窪俊哉の作品集で、2013年頃までの短篇小説とエッセイ、『アフリカ』の編集後記などが詰まっている本です。奥付を見ると、たしかに3年前の今日・6月21日が発行日になっています。
2020年、パンデミックの春、社会には緊急事態が宣言されて、妙な雰囲気の中、私は『音を聴くひと』をつくっていたのでした。完成させる前に自分が死んでしまうのは嫌だなあと思って、未完成のPDFを仲間に共有してもらったりしていたのを思い出します。
私は20代の頃から個人的な雑誌をずっとやってきましたが、自分の本(単著)をつくろうと思ったことは、あまりなくて、この本も自らつくったというより、「読みたい」という人の声に導かれてつくったと言えます。
ひとりは、その後、『アフリカ』にも何度か書いてくださっている田島凪さん。初めてお会いした日に、たまたま「そば屋」という私の最初期の掌編を読んでもらったところ、これを収録した本があれば買いたい、と言われて。2019年の夏のことでした。
『音を聴くひと』をいち早く届けたら、こんなふうに書いてくださっていました。
そして、戸田昌子さん。ある夜、突然でしたが、こんなふうなコメントを書いてくださって…
嬉しかったんです。不思議なコメントでしょう。忘れられそうになくて、そのことばの連なりをしばらく見つめた後、「本をつくる計画があるので、使わせてもらってもよいですか?」と思わず返信していました。
とはいえ、小説やエッセイというふうなものを書き始めてから約20年、ふり返ると、思った以上に作品はたくさんあるんですね。何を載せるか、というのは自分だけでは決められそうになかったので、黒砂水路さんに手伝ってもらいました。普段は校正をお願いして、助けてもらっていますが、黒砂さんは私のことには私より詳しいところがあるので…などと言いながら。『音を聴くひと』に収録してある作品の選者は、半分以上が黒砂さんです。
以前から親しくしていた山本ふみこさんは、「下窪俊哉の本を1冊つくったら、その本が導いてくれる、ぜひつくろう」と勧めてくれたひと。そのふみこさんは、エッセイ講座の通信講座の中で、『音を聴くひと』を紹介してくださっていました。
戸田昌子さんは『音を聴くひと』を手にして、こんな感想を書いてくれました。
それから3年後の、今年4月、初めてお会いして話しましょうという機会をもらった日に、『音を聴くひと』から「そば屋」と「テーブルのある部屋」を朗読して、いろいろと話してくれている音声も残っています。
その日の語り合いは、ウェブマガジン「水牛」で毎月書いている「『アフリカ』を続けて」の(23)で、原稿にして残しました。「水牛のように」2023年5月号で読めます。
今日が『音を聴くひと』の出版記念日(?)ということを教えてくださったのは、スズキヒロミさん。
出会い、読んでくださっている方々の、それぞれの『音を聴くひと』があるんだろう。ありがたいことですね。引き続き、よろしくお願いします!
(つづく)