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いまの方がむしろ

途端に、私は私と同じような酔っぱらいが、休憩しているのかと思った。が、すぐにマッチの火は消えた。が、私はマッチの火が煙草の火に変るのを期待したが、私の期待ははずれて、何やらよくは分らないが、蝋燭の火らしいものに変った。(木山捷平「耳かき抄」より)

帰省から戻って、子供は今日からさっそく学校、でしたが、火曜日なので私には個人的な定休日で、たっぷりと休息が取れました。

短いようで長い人生、頑張らなければならない時はあるにせよ、頑張ること自体がよいとは私は考えておらず、つまりどんな状態を「平常」とするか。頑張らない状態を「平常」にしないと、たぶん生きてゆくことが困難になります。

『駄目も目である 木山捷平小説集』(ちくま文庫)

こんどの帰省時、カバンの中に入れておいたのは、ちくま文庫から出た木山捷平の作品集でした。「駄目も目である」の「目」というのは、囲碁の「目」なのかな、あ、「駄目(ダメ)」とは囲碁のあれが語源なのか! と思ったら妙に感動して、少しずつ読んでいます。

父が息子(孫)に囲碁を教えてあげる約束をしていたらしく、やっているのを見ていたら、父が自らつくったという十一路盤を使っていた。その盤で私も父と一局打とうとなりましたが、私の実力は、父曰く「何十年も打ってないという割には、感覚は衰えてない」そうです。

自分には、子供の頃のように「勝たなければ」というプレッシャーがない分、いまの方がむしろ自由に考え、石を置けているような感じがします。

負けようとして打つ人はいないわけですが、しかし必死で負けまいとすることも、負けを呼ぶのだという気がしてきます。

「ねえ、お互に、フリーで行こうや。その方が長生きできらあ」

(木山捷平「貸間さがし」より)

(つづく)

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