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確かな足跡

──自分はね、すぐにでも国の役にたつ人間をこしらえたい、という声をいく度も聞きました。なんて言い草だ。こういうことを言う者は、国を喰いものにしているんです(小川国夫『弱い神』より)

4月も残り数日、東京には再び緊急事態宣言が出て、自分が住んでいる横浜には出ていないのだが、外出支援の仕事でゆく先は東京の南端の大田区で、しかし多摩川を渡ったすぐそこは川崎で(神奈川県なので)「宣言」は出ていない。しかし川を挟んだ街と街はすぐそばにあり、ウイルス対策に県境がどうしてこうも影響するのか、と思いもするけれど、そもそも国も都も具体的なウイルス対策とはかけ離れたことをやっており(検査を拡充せず、状況把握に励んでいないから考えられないのかもしれない)、店や施設に休めと言う割にはオリンピックをやると相変わらず言っており、一体何がしたいのか不明だ、と考えるともう何が何やらサッパリわからない。太平洋戦争の頃に自分みたいな人が日本にいたら、こんな気持ちだったのではないかという想像をしている。これに近い人はいたろうと思う。

今日、仕事先でNHKのテレビが映っていて、みんなで頑張って乗り越えようといったメッセージを文字にしてどーんと写していた。私はそれを見て、「欲張りません勝つまでは」を思い出した。

日本らしいといえば日本らしいのだろうが、こちらはそういう上っ面な(表層的な、安っぽい、実体の伴っていない)メッセージに辟易している。

思えば、そういう上っ面な(しかし妙に巧みな)キャッチコピーばかり溢れる社会に生きている。街に出ても、公共交通機関を使っても、その類の文字情報に溢れており、ウンザリ、文字をみるのが嫌になるよね、という話をよくしている。

海にはそのような文字がなくて、快適だ。昨日は辻堂から江ノ島にかけての砂浜を裸足で歩き続けたが、文字は(全くではないが)ほとんど見ない。振り返って、自分(たち)の歩いた跡を見ると、あれは信頼できる、と思う。波がきて、すぐに消される運命にあるが、確かなものだ。

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暁は直接のものだ。無関係なものは何一つなかった。そのときまで、ぼくらは大勢で歩いて行った。(飯島耕一「ぼくらは大勢で歩いて行った」より

人と人が、対面で会い、話す場を今後、身近に、いかにつくってゆこうか、ということをよく考える。

空中で(オンラインを、画面を通じて)会うということはある程度は進むだろう。それによって私も、これまで簡単に会えなかった人たちと画面越しに話せるようになり、それはそれで嬉しい、大きなことだった。

思えば、もう何年も、メールだけで仕事を進めている仲間もいる。

しかし、それは皆、その前に培ってきた場の力があるから出来ることであって、いきなり空中だけで、電波の上だけでやるとなると、感触はまた違ったものになるだろうと思っている。

最近は各種SNSも、たとえば10年前とは違うものになってしまった、という気がして仕方ない。そういう道具は普及すればするほどビジネス色が強くなり、そうすると元々感じられていた個々の色が薄れてゆく。

やはり自分にとって大切な場は、自分(たち)でつくったものの上で営んでいたい、と思う。

自分には、限りなく個人的な、小さな場として『アフリカ』があり、どれだけ電波の上で遊んでいても最後はそこに戻れる、そういう意味では、よかった。

http://africakikaku.weebly.com/

ホームグラウンドは『アフリカ』の方にあり、他のことは、SNSも全てアウェイなのだ。だからいまあるソーシャル(社会的な)メディアが全てなくなってしまっても、こちらの営み自体には影響がないし、…いや、影響は嫌でも受けるだろうが、どうなっても続けようと思う限り続くし、紙だからネット環境にも電気の環境にも関係なく、いちおう残る。

これからは再び、ますます? ホームの方に力を入れてゆこう、と思う。しかし今時、SNS抜きに、どれくらいのことができるのか? あ、いや、SNSも止めようというわけじゃない、でもそれだけではないので、これから、どんなふうにやってゆければよいか… 模索してゆこう。

(つづく)

※ホームとアウェイということばのニュアンスに少しひっかかってますが、そのまま公開してしまいます。

晩年の作家・小川国夫の姿と声、言葉を伝える、下窪俊哉『海のように、光のように満ち──小川国夫との時間』(アフリカキカク)、2021年4月末発売。2010年の夏に制作、映画館で販売した冊子のリニューアル版、現時点での、とりあえずの決定版です。ご予約、受付中。

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よむ会」の次回は、伊藤亜紗・編『「利他」とは何か』(集英社新書)を取り上げます。5/3(月・祝)の午後、いつものゲストハウス彩(鎌倉)にて行います。ぜひ、ご一緒に。

道草の家の文章教室」は、そのゲストハウス彩(鎌倉)とオンラインの両方でやっています。

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