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やむことのない音楽(チバユウスケさんありがとう)

悲しみのはしっこはいつも
忘れられて放っとかれる
いつの間にか何事も
無かったような空気だ
夜明けのホラーが好きさ
救われたような気がして
その後見る夢がどんなに
酷いものだったとしても
(The Birthday『ROKA』より)

 *

訃報から数日経って
何も感じられないような暗闇の奥から
深い悲しみがぼんやりと見えてきた時
最初に浮かんだ一節だった
夜明けのホラーという
常人にはあまり思いつかない組み合わせが
意外な説得力を持って響いてくる歌
生きるということの本質
生き続けることの困難
その先にある希望
あらゆる真実を軽快なメロディにのせて
さらりと聴かせる曲
The Birthdayの音楽性を
端的に表しているようにも感じられる

チバユウスケさんを知ったのは
1996年
ミッシェルガンエレファントが
メジャーデビューした時だった
当時 事務所の先輩だった吉井和哉さんが
大好きな新人バンドとしてラジオで
紹介していたのがきっかけだったのか
音楽関連の会社に勤めていた私は
仕事柄それより前に聴いていたか
どちらにせよ
誰に薦められなくとも
『世界の終わり』を1度でも聴いたら
忘れられるはずがなかった
アルバムは常にデッキに入れっぱなし
四六時中 できる限り最大音量で
小粋なロックに身を委ねていた

1度だけ 偶然の幸運でライヴも観た
客席に居たアベフトシさんとの
ささやかなエピソードが
思い出の中でも一際輝いているけれど
短時間ながら圧倒的なステージだった
アベさんのギターの隣で
ダンスを踊るチバさんの姿が
脳裏に焼き付いている

魂の叫びのような天性の歌声と
シンガーに相応しい絶対的なカリスマ性
そして優れたメロディメーカーであり
クールな佇まいの奥に垣間見える
チャーミングなキャラクターも魅力的だ
幅広い年齢層に愛されるチバさん
あえて彼を一言で表すなら
詩人だと思う
いくつになっても
子供のように純粋な視点で
愛を持って人や世の中を見ていた

歳と経験を重ねての変化なのか
ミッシェルやROSSOの頃は抽象的な詞が
多かったのに The Birthdayでは
かなり物語性のある歌詞が増えたように
(後追いの印象を振り返れば)
私は まず感じた

ミッシェルの後期の頃から
個人的に生活上の変化が著しく
いろいろな事情で音楽全般から
やや離れていたこともあって
ミッシェル解散以降の活動については
何年もの間 知らずに過ごした

久しぶりに
音楽の溢れる日常が戻ってきた時
心にすっと入ってきた新しい音楽のひとつが
The Birthdayだった
アベさんを思わせる切ない曲や
人への愛を素直に言葉にした歌
昔のチバさんからは想像もつかない
大人の寛容な世界がそこにあった
そういう意味で最も意外だった
『誰かが』はPUFFYへの楽曲提供だが
セルフカヴァーが本当に好きで
全人類に聴かせたいと思った
音は紛れもないロック
研ぎ澄まされたロックンロール
懐かしさではなく
私は新しい時代の音楽に惹き込まれ
聴いているうちに多くの曲を知り
いつの間にか後追いが
リアタイになっていった

初めて行ったライヴは
2017年NOMADツアー 11月10日Zepp Nagoya
この日のセットリストが
偶然ながらも私にとってはベストで
『爪痕』では不覚にも感涙
かけがえのない思い出となった

その後も 2018年 2019年と機会に恵まれ
コロナ禍で数年空いたものの
2023年2月 居住地の名古屋で
the 原爆オナニーズ40周年記念の
ツーマンライヴで
最高の演奏を聴くことができた
たっぷりとアドリブを入れた『Red Eye』は
ロックの枠組を超えた芸術だった
お祝い事のゲスト出演とあって
終始笑顔を覗かせていたチバさん
まさかそれが最後になるとは思いもよらず
本当に良いライヴだったから
改めてThe Birthdayの音楽を大好きになった
これからも観に行こうと思っていた──

https://www.instagram.com/reels/audio/659321102634770/


聴きはじめて間もない頃
私は『星の首飾り』がとても好きで
よく再生していた憶えがある
詩人のチバさんには
星空とか屋根の上とか
ロマンティックな世界観がよく似合う
近年の曲では『星降る夜に』
ライヴで聴けたことが奇跡のよう
静かな美しいメロディに耳を傾ければ
暫し現実を忘れ荘厳な気持ちになって
それでも歌詞は
現実離れした絵空事ではなくて
誰にでも当てはまる心情を扱い
現実を生きる人々に寄り添った
やさしい言葉が胸にしみる

チバさん
素敵な夢をありがとうございました
これからもずっと
貴方の音楽とともに

 *

たとえば音楽が
空にいくら吸い込まれようとも
止むことはないと
思えたよ君の声が聞こえる
(『星降る夜に』より)

トップ画像(2017年 NOMADツアー)
新保勇樹さん @shimboyuki

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