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8夜◇長らえばまたこの頃やしのばれん~藤原清輔朝臣
長らえば またこの頃や しのばれん
憂しと見し世ぞ 今は恋しき
(意訳:生き長らえれば、辛いこの頃もまた思い出になるだろうか。苦しかった昔が、今となれば懐かしく思われるように。)
藤原清輔朝臣 百人一首
普遍的な救いのような、支えのような。
そう思っていたけれど、今は恋し..と繰り返すうち、ふと違和感がわいてくる。何かがこころに引っかかり、ちくりちくりと主張する。
ああ、これだ。
不揃いな石が、どこからともなく目に浮かぶ。
わたしには、苦しかった昔のことは、恋しどころかいつか拾った小石のようで、捨てられないのに、にぎれば痛い。
乾いた石の、でこぼこに触れ、ざらざらを撫で。どうしたものかと途方にくれて、しばらくのあいだ言葉に詰まる。
恋し、懐かし。それは本来、こんな手触りかもしれない。これでいいのかもしれない。
気がつくまでに、随分ときが経ちました。
心がゆるんで、もう一度。今度はすっと、歌が馴染んでほっとする。