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ミュージカルは音楽の芸術である 『RENT』25th Anniversary Farewell Tour
気が付くと、涙が頬を濡らしていた。
劇場で聴く「Seasons of Love」がくれるものの大きさは、想像をはるかに超えていた。身体中の血の温度が2度ぐらい上がった。泣く時ってたいてい、目の奥が熱くなるのを感じる。でも、目の奥より身体の奥が熱くなっていくのを感じることは、滅多にない。
観てからずいぶん経っているけれど、私の左脳は紡ぐ言葉を見つけられていない。音楽が、理屈を軽く飛び越えて身体の中で生きている感覚があるだけだ。
『RENT』。恐るべきミュージカルである。
スマホのアプリを見る限り、チケットを購入したのは3月。すでに6月7月の観劇予定まで埋まりつつあったが、いつか観たいと思っていた『RENT』。25周年記念で来日公演するというなら、観に行かないわけにはいかない。
日本人キャストの出演する公演ではなく、来日公演をどうしても先に観ておきたかった。
理由はいろいろあるけれど、一番大きいのは「すべての歌詞を英語で聴きたい」からだ。英語そのものが持つリズムと歌詞がなければ、『RENT』の魅力は半減してしまう。
何度かDVDで観たことはあるが、劇場で観るのは初めてだ。ワクワクしながら、渋谷へ向かった。
とにかく曲の持つパワーに持っていかれる
初演から25年を経てなお、『RENT』というミュージカルが放つ強いエネルギーは、耳から入って、ダイレクトに胸を揺さぶる。
「RENT」
オープニング。ミュージシャンのロジャーがギターを奏で、映像作家志望のマークがが出てきて歌い始める。レコード会社の入っていたフロアだという彼らが暮らす部屋は荒れている。暖房はドラム缶、電気は外のホームレステントから盗んでいる始末だ。2人の置かれている状況が分かったあたりでギターの音が劇場を揺らす。
「RENT」だ。
疾走感と、ほんの少しの焦りと、「去年の家賃なんて、払えねええええ! 払わねええええ!」という開き直りに満ちている。
「払えねえ!払わねえ!」と言っているだけなんだが、思わず大声で一緒に「払わねえ!」と歌ってしまいそうになる。コロナもマスクももどかしく、恨めしい。
「One Song Glory」
HIVポジティブのロジャー。自分の「いのちの期限」を感じているのか、力尽きるまでに渾身の一曲を書きたいと歌い上げる。「RENT」の疾走感から、一転しての切なる願いが沁みた。
今でこそHIV感染症は、適切な治療を受ければ発症が抑えられる病気だが、25年前はまだ今と違って「死に至る病」の印象が強かっただろう。抗HIV薬を服用していてもどこか、ロジャーは不安そうだ。
ロジャーにとっては、曲が生きた証なのだと強く感じた。
「Today 4 U」
ロジャーとマークが暮らすビルにコリンズがやってきて、エンジェルを紹介する。明るくポジティブなドラァグクイーンのエンジェルは、歌うだけではなく踊りまくり、ドラムを叩きまくる。
エンジェルの身体能力に圧倒される曲、それが「Today 4 U」。
WOWOWで放送中の『グリーン&ブラックス』の中で、井上芳雄さんが『RENT』が好きすぎてオーディションを受けたことがあると話していた。
受けてくれと言われたのはマーク役だったそうだが、どうしてもエンジェルがやりたかった!と力説していた姿を思い出す。
井上芳雄さん、歌はともかくあんなに柔らかにガツガツ踊って、キュートにカッコ良くドラム叩けるのだろうか・・・それはそれで、観てみたい気もする。
「La Vie Bohème」
モーリーンのパフォーマンスを終えて、みんなでカフェへ。
ベニーが「ボヘミアンは滅亡した」と煽るものだから、全員で「La Vie Bohème」(自由な人生)の大合唱になっていく。
この曲、途中の「I Should Tell You」を挟んで最初から終わりまでむちゃくちゃ韻を踏む。
韻を踏みまくることによって独特なリズムが曲に生まれ、ラップを聴いているような気にもなってくる。不思議な魅力を持った曲である。
「Seasons of Love」
住んでるビルを締め出されたにも関わらず、「こんちくしょう!」とばかりに「La Vie Bohème」で締めくくられた1幕から、2幕はガラリと変わった曲で始まる。『RENT』を代表する曲、「Seasons of Love」である。
Five hundred twenty five thousand six hundred minutes
How do you measure a year in the life?
How about Love?
525,600分(=365日=1年)
人生の1年をどう測る?
愛で測ってみてはどうだろう?
正直、ストーリー展開からはこの「Seasons of Love」という曲は浮いている。心臓を直接掴んで揺さぶるような音楽で紡がれてきた物語は、ここに来て急にゆったりと、隣に寄り添ってくれるかのようなやさしさに彩られる。
この先起こることを知っていると、涙が止まらなくなる場面だ。愛で彩られた季節。愛で彩られた時間。友の1年を、人生を愛で測る。じんわりと染み渡るゴスペルっぽい旋律が心地よい。
「I’ll Cover You(Reprise)」
ともにHIVポジティブのコリンズとエンジェルのカップル。死が2人を別つとき、コリンズはありったけの愛を込めて歌う。
この曲は1幕でコリンズに「恋人になってほしい。一緒に暮らそう」とエンジェルが声をかけ、コリンズが愛のこもった返事をするところで歌われるデュエットソングだ。
Repriseは極上のラブソングに仕上がっていて、音がエンジェルの魂とともに天に昇って行くのが、見えるような気がする。
作品のテーマ・・・?
マジメに書けば、
25年前のニューヨーク・イーストヴィレッジに暮らす貧しい若き芸術家たち。恋にHIVにドラッグにと悩み、苦しみながら必死に生きている。
と、まとめられるのだろう。同性どうしの恋だったり、人種の問題だったり色々「25年前のニューヨークのいま」が詰め込まれている、とも言える。
だが何だか、そうしたいわゆるフツーの説明はとても野暮に思えるのだ。野球に例えると、延々とファウルを打ち続けるバッターのように、芯を捉えられてない感じがする。
終わりに
書きながら気が付いた。私はまた泣いていた。
脳内に流れる「I’ll Cover You(Reprise)」に耳を傾けていたせいだろうか。何なのだろう、この感覚は。目の奥が熱くなるのではなく、また体温がギュっと上がった感じ。勝手に涙が出てくる。止まらない。困った。
ダイレクトに心を揺さぶる音楽たちが、右脳に訴えかける。気が付くと身体の奥が熱くなっている。『RENT』には現代性も詰め込まれていて、そういう文脈で言葉を紡ぐことも出来るし、むしろそれが自然な気もする。
が、最後までジョナサン・ラーソンは曲で観客に語り掛ける。とにかく「NO DAY BUT TODAY」なのだ。今日という日があるだけ。まっすぐに、真剣に、「いま」に向き合うことが、生きるということそのものなのだと。
細かいことは気にせず、音楽に圧倒されに行く。そんなミュージカルである。
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