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泳げるようになった夏休み〜おじいさんの先生の話
ずいぶん昔。
私が、まだ小学生だった頃の話。
体育が苦手だった。
大きい声で叱られたり、
早く早く!
と先生やまわりの子に言われると、ますますできなくなる。
特にプールの授業は苦手。
顔を水につけることもできなかった私は、小学6年生の夏休み、市の子ども水泳教室に行くことになった。
泳げない子たちばかりのクラスで、小さい子たちと一緒に練習。
私は、そこでも泳げるようにならなかった。
数日後、数人が、手洗い場へ集められる。
なんだろう・・どきどきして行くと、
そこには、とっても優しそうなおじいさんの先生がいた。
その日から、超少人数クラスがスタート。
プールには入らず、それぞれが手洗い場で、
桶に張った水に顔をつける。
プールほどは怖くないんだけど、
水に顔をつけるのはやっぱり苦手。
息を止めて
ちょっとだけつける・・
おじいさんの先生は、
全然怒らなくて‥
鼻先をちょっとつけられただけで、
「できたね!」ってほめてくれる。
それに、急かされなかったから
焦らずに練習できた。
ゆっくり、
安心してやれたから、
できたんだと思う。
そうして、
少しずつ、少しずつ、
水に慣れていった。
やがて、
プールに入って
顔をつけられるようになり、
浮けるようになり…
最後の日には、
全員ちょっとだけ、泳げるようになった!
泳げるようになんて
絶対なれそうにないって
思ってたのに!
だから、とてもうれしかった。
そして、「自分にもできるんだ」
って自信になった。
この先生に出合わなかったら‥
ずっと泳げないままだったかもしれない
と思う。
のんびりな子も、怖がりな子も、
ゆっくり段階をふんでやればできるんだ!
という思いとともに、この経験を思い出す。
「その人に合ったやりかた」で
「その人に合った速さ」で
必要なことを、順番に、必要な時間をかけてする。
そして何より、「安心してできる場」であること。
教えることに対する、私の思いは、この時から、つながっているのだと思う。