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ハルの生き方: BEASTERS感想①

2020年に完結している『BEASTERS』(板垣巴留著)全22巻一気読みしました。面白いとは聞いていたけれど、本当に面白かったです!

続きが気になって気になって読むのが止まらなくなるのも久々のこと。良い時間を過ごさせていただきました。

ということで感想がいろいろあるのですが、ポジティブなものとネガティブなものの2本立てで書いてみようと思います。まずはポジティブにお気に入りヒロインのハルと、もう1人の主人公ルイについて。


!!!ネタバレ要注意!!!
結末までの内容を含んだ感想です


ハルの生き方

だいぶ変化球なヒロインでしたね。正統派とはとても言えない、非常に掴みにくいキャラクターでした。そもそもヒロインがビッチ設定ってすごい。あんまり聞かなくないですか?メインヒロインがビッチ。

作中、ルイが「ハルの女心は難解」と心中でため息ついていましたが、同性である私にとっても彼女の女心は難解です。

彼女は草食獣の中でも小さくひ弱なウサギ、小柄なメスという、社会的弱者の象徴のような女の子です。幼く頼りなく「守ってあげたい」と思わせる見た目をしています。

しかし中身は非常にたくましい。女子の中でイジメに合おうが毅然と立ち向かい、決して負けない。案外さっぱりと明るく豪快な性格も、見た目とのギャップがあります。

『BEASTERS』14巻 この気の強さが魅力

ただしその行動があまりにも突拍子もないのです。そもそも主人公と初めての会話シーンで、いきなり脱ぎ出す女です。いや私が知らないだけでそういう世界があるんですか?学校内で17歳の女の子が?後輩の男の前で?普通に怖いよハルちゃん。

軽やかにいろんな男子とベッドを共にしていることも彼女にとっては「対等であるため」の手段です。どうしたって他者に見くびられ下に見られることを避けられない彼女の、プライドを守るための行為とされています。


対等のあり方

さて主人公であるレゴシは22巻にわたって様々な壁にぶつかるわけですが、その行動の起因となるのは大抵ハルです。彼女は最初から最後まで振り回しまくりの魔性の女です。何より最終決戦後の逆プロポーズ→即離婚、は笑っちゃいました。なんで?と。

私はそれを見て、彼女は対等というよりは、優位に立ちたいんだと理解しました。優位というと言葉がずれてしまうかもしれません。k全ての決定権を自分が持ちたいという意味です。これって当然の権利だと思います。

男と女として1対1で向き合ったら、生物として弱すぎる自分は同じ土俵に乗ることも難しい。気を抜くと死んでしまうような環境に生きている彼女は、どうしたってレゴシに守られる立場です。肉体的なハンディは変えられないから、精神面では主導権を握るくらいでちょうど良いと思ってるんじゃないでしょうか。そう思えば、それまでの彼女の行動も一本筋が通っているように感じます。

彼女はレゴシに守られることを良しとしていないし、レゴシの望んだように2人の未来を作っていくなんて真っ平ごめんなのでしょう。世界を救ったトロフィーなんかではなく、あくまで関係を築くイニシアティブを取るのは自分でなければいけないのです。自分の人生は自分で決めていく。その結果肉食に食べられることになったって構わないわけです。

難解なハルちゃんの女心がちょっと分かった気がして、あの逆プロポーズは(読んだ当初こそ驚きましたが)なかなかお気に入りシーンとなりました。

受動的にならざるを得ない環境にあって、自分の人生を自分で決める権利を死守したい。その思いのあまり、「対等でいたい」とか言いつつ若干マウントを取りがちなところも彼女の魅力ではないかと思うのですが、いかがでしょうか。


ハルはある種の完成系

この作品では主人公のレゴシやルイを含め、誰もが何かしらのコンプレックスを抱えています。ハルも例外ではなく、弱者である自分にコンプレックスを感じています。しかし彼らと違ってハルはそのコンプレックスを案外最初から乗り越えていたのではないかと思います。

乗り越えている、といったら大袈裟かもしれません。ただ作中、進行形で苦しみもがいていたレゴシ・ルイと違って、ハルはある種悟っているように見えます。自分はどこに行っても食物連鎖の下位存在である。その上で自分のプライドをどう守るべきか、頭でも心でも受け入れています。

この作品の一つの大きなテーマが「ありのままを受け止めること」。
そういう意味で、ハルは一つの完成系のように私には見えます。

レゴシとルイは世界を変えるために奔走しますが、ハルはそこに参加しません。する必要がなかったのかもしれないなあ、なんて思います。世界が斯くあるなら、私はこう生きる!が10代で既に確立しているのだから。世界を変えるのではなく、在りのままの世界で逞しく生きる覚悟ができています。

かっこいいのですが、現実世界に彼女がいたらきっと友達になることはできないな、と思います。絶対に付いていけないし、普通にドン引きするし、そもそも彼女には歯牙(ウサギだけに)にもかけてもらえなそう・・・。ごちゃごちゃ悩んで行動力に乏しい人間なもので、いちばんハルの嫌いなタイプな気がします自分。


もう1人の主人公、ルイ

最後に、いちばん好きなキャラクターのルイについて。

この作品面白い!となったのはルイが生き生きと感情を出すようになってからです。登場時は鼻につく、大仰で芝居がかったイケスカナイ男というイメージだったのです。(実際にルイにとって学校は舞台、自分は演者だったでしょう)

どんどん強く逞しくなっていくレゴシと対極をいくように、ルイは徐々に表情豊かに少年らしい感情を外に出すようになります。最終巻でメガネをかけようとして似合わないと止めるのも、きっと初期のルイなら迷わずかけたと思うのです。舐められないよう仮面をかぶって周りを威嚇していた彼が、等身大の自分と向き合うことを恐れなくなっています。

虚勢を張って使命を背負って周りの期待に応えることを生き方としていたルイは、ハルの誘拐事件で一度大きく崩れます。無力な自分を突きつけられ、理不尽と戦うこともできず、今まで目を瞑っていたコンプレックスが表出してヤケを起こしてしまいます。

彼の立て直したのが数奇なもので、誘拐犯であったシシ組。中でもイブキというキャラクターが良かったですね。イブキがルイを1人の男として認めつつも、年相応の少年として守っている描写が本当に良かった。

『BEASTARS』10巻 大好きなシーン

もう一人、部活の後輩ジュノがまた素敵。素直に思いを寄せる彼女を前に、表情が柔らかくなるルイは見ていてホッと親心のような気持ちを抱きました。良かったね。

『BEASTARS』12巻 こんな表情されたら絆されちゃうよね

結論ジュノとは付き合わなかったけれど、それで良かったと思います。自身の生き方の優先順位の問題ですから。彼にとってジュノは魅力的な女の子だったけれど、父親の残した会社を守ることが最優先だった。その選択も、自分の本心に蓋をしたものではなく、きちんと向き合って決心したものだからこそ。後日談にて恋愛感情のない政略結婚相手に、誠実に人生を共にしようとしている描写が心を打ちます。


『BEASTERS』、アニメ化もしていて存在は前から知っていたのに、今更読んだことに後悔をしています。もっと早く読めば良かった!

感想はたくさんあるのですが、キリがないので特に印象深いハルとルイについて書いてみました。もう一つちょっとネガティブな感想となってしまうのですが、結末について書きたいので別の記事にしたいと思います。

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