福岡からスペインへ。SHINDO WINESの新たな冒険
国産ブドウへのこだわりとジレンマ
私がワイン造りで大切にしているこだわりは、「その土地のブドウを使うこと」です。
SHINDO WINESがある福岡県や九州島内では、海外で一般的に使われているヨーロッパ系ブドウ、いわゆる「ワイン用ブドウ」(vitis vinifera系)を栽培し、素晴らしいワインを造っている方が多くいらっしゃいます。
しかし、長年海外に在住してきた経験から言わせていただくと、その土地の個性を表現した「日本オリジナル」のワインを造るには、ヨーロッパ系品種のワイン用ブドウよりも、地元で長年栽培されてきた国産ブドウを使うほうが向いていると考えます。
その理由は、ヨーロッパ系のブドウを高温多湿の九州島内で栽培するのは、気候的な観点でなかなか難しいからです。
もちろん地域での向き不向きはありますが、自然に寄り沿ったワインを造るためには、昔からその土地で育てられてきたブドウを使うことが大切だと信じ、SHINDO WINESでは実践し続けています。
しかし、個人的な心情としては、国産ブドウにとどまらず、ヨーロッパ系のブドウでもワイン造りにチャレンジしてみたいという想いが常にありました。
それならば自分からヨーロッパへ出向き、その土地でワインを造ればよいのではないか。
幸いにも、私には海外のワインメーカーたちとの交流があります。
そこで現在まで、スペインとニュージーランドの2か所でワイン造りを実践してきました。
その第1弾として、スペインのカタルーニャ地方にあるコンカ・デ・バルベラのワイナリーで、2022年に造らせていただいたワイン2種を、このたびリリースいたします!
福岡からスペインへ
2022年9月の初頭、福岡でのワイン造りが一段落した合間をぬって、単身スペインへ飛びました。
現地での滞在中は、ワイナリー近くのモンブランという町で先輩のワインメーカーたちと共同生活を行い、彼らのワインに対する思考に触れ、ワインメーカーとしての生きざまを目の当たりにしました。
夕食時にワインを囲んでの会話では、彼らのなにげない言葉の端々に深い知見が感じられました。
現場での醸造テクニックよりも、こっちのほうが勉強になったかもしれません。
また、彼らの知り合いのスペインのワインメーカーたちに会えたことも、大きな糧になりました。
ナチュラルワイン業界でも著名な人物から直接見聞きできたことは、いまの自分のワイン造りに大きな影響を与えています。
カタルーニャでのワイン造り
実際の収穫はまだ肌寒い夜明け前から始まりますが、月の光がとても明るく、それ以外の照明は必要ありませんでした。
カタルーニャの大地は乾燥しきっていて、草ひとつ生えていません。
歩くたびに土ぼこりが舞い、日本でよく見られる湿気が原因のカビ病とは、無縁の土地であることがわかります。
ここで育つブドウを福岡に持ってきても、うまく栽培できる絵がまったく想像できません。
収穫したブドウは、少しだけ使えない部分はあるものの、有機栽培であることを考えれば完璧なコンディションでした。
身をつぶすと甘酸っぱい果汁がしたたり落ち、あっという間に手はベトベトです。
収穫したブドウをカハ(caja)と呼ばれる収穫用コンテナに20kgぐらいずつ入れていき、それをトラクターまで運ぶのが私の仕事でした。
現場では、若手が重いものを運ぶのは万国共通です。
日本酒の蔵人をやっていた時期には、30kgもの米袋を頭の高さまで持ち上げて運んでいたので、作業的にはお手の物でした。
収穫したブドウは宅急便の配送車に似た小型のバンに積み込み、ワイナリーまで運びます。
トラックのような大型車は園地に入りきらないので、バンで園地とワイナリーとの間を何度もピストン運送します。
ようやくその日の収穫が終わると、ワイナリーに戻ります。
ワイナリーではまず、除梗機にブドウを通して茎を分離させ、実の部分だけをホースでタンクに送って仕込みを行います。
仕込みの方法はワイナリーごとに違うと思いますが、私がいた場所では1,000リットルの樹脂製タンクで発酵を行い、蓋の代わりにビニールシートを張って、空気との接触や虫などがタンクに入るのを防いでいました。
このやり方は、SHINDO WINESでもさっそく導入しています。
カタルーニャの気候は、昼は30度を軽く超える暑さですが、夜は10度台まで下がります。
もろみの種類にもよりますが、この気温の落差によってきれいな発酵が行えます。
ワイナリーはほかのワインメーカーたちと共有し、自分たちの仕込みが終わったらきれいに掃除して次の人が使います。
特に使用頻度が多い除梗機やプレス機は、時間帯を決めて予約制で使っていました。
ワイナリーでは、基本的な作業をすべてやらせてもらえました。
普段の環境とは異なるので、どこまでSHINDO WINESでのワイン造りに応用できるかはわかりませんが、絶対に真似したいことがあります。
それは17時になると、誰もが作業の手を止めて冷蔵庫を開け、ビールを飲むことです。
シーズン中は夜遅くまでの作業が多々あるので、このタイミングで飲むキンキンに冷えたビールは絶品でした。
感動のあまり、勢いでインスタに投稿したほどです。
このような刺激的な日々を過ごしながら、白・赤の2種類のワインを造りあげることができました。
軽やかなテイストのオレンジワイン
SHINDO WINESのワインで使っているブドウは、主に巨峰、キャンベルアーリー、ピオーネです。
2021年にワイン造りをスタートしましたが、2023年ヴィンテージまでは白ブドウを使ったことがありませんでした。
個人的には白ブドウでオレンジワインを造りたいとずっと思っていたので、カタルーニャで実現できたのは本当にうれしかったです。
オレンジワインの醸造で難しい点は「プレス」のタイミングです。
ブドウの果皮を漬け込むマセラシオンの期間が短すぎると十分な香味が出ず、逆に長すぎると複雑味が主張しすぎてしまい、SHINDO WINESが目指す軽やかなテイストではなくなってしまいます。
そこで毎日テイスティングを行い、もろみの苦み・えぐみがなくなって口当たりがまろやかになったタイミングでプレスを行いました。
果実味にあふれ、飲みやすい赤ワイン
私が赤ワインの造りかたで大事にしているのは、しっかりと果実味がありながらも、タンニンが強くなりすぎないことです。
白もそうですが、飲みやすさ(drinkability)を意識したワインにこだわっています。
オレンジワインと同様、毎日もろみをテイスティングして「ここだ!」と思ったタイミングでプレスを行いました。
使用したカリニェナという品種は巨峰と比べて色素が強いため、数日間のマセラシオンでも望んでいた色合いになりました。
香りと味わいのバランスがとてもよく、果実味にあふれていてとても飲みやすい赤ワインに仕上がっています。
※本ワインは弊社直売所「SHINDO LAB STAND」でも販売しております。
ワイン名の由来について
今回、一緒にスペインでワインを造らせていただいたアレックスとマイキーの合言葉は"why not?"。
その言葉のとおり、偏った考えを持たずに新しいアイデアにオープンな彼らと一緒にいると、自分までいつの間にか「可能性は無限大」というマインドになり、すごくおいしいワインが造れるかも!と夢見心地になっていました。
彼らのオープンな心構えを見習い、今後もチャレンジを続けていくことで、この先に新しい道が開けるだろうと信じています。
SHINDO WINESが真のオリジナリティを発揮するために、頑張ってまいります。
この学びを忘れないように、ワインの名前を"why not?"のスペイン語に相当する "por qué no"(ポルケノ)と名付けました。
"por qué no"は行動の一言です。
決断に迷ったときにそっと後ろから手を添え、後押ししてくれるこの魔法の言葉に、今後も自分は支え続けられるでしょう。
(サントリーの創業者、鳥井信治郎氏の名言「やってみなはれ」と同じですね)
スペインで学んだ、いちばん大事なこと
スペインでの経験を振り返って改めて感じたことは、ワイン造りの根幹は「気の合う仲間や家族、親族」と一緒に働くことです。
なぜなら、シーズン中は早朝から夜遅くまで1日中作業を行うからです。
これは日本でも、スペインでも、ニュージーランドでも変わりません。
お互いを想い、助け合える間柄でなければ、長時間のきつい作業には耐えられないでしょう。
苦楽を共にすることで、お互いのきずなはより深いものとなり、それがワインの品質にも表れると考えています。
今回のワインラベルに描かれた2人の男の子は、スペインで出会ったワインメーカーの子どもたちです。
彼らはお父さんがワイナリーで働いているときに、その邪魔をしながら遊んでいます。
その傍らには、孫を見守るおじいちゃんやおばあちゃんの姿もありました。
いまは小さい子どもたちも、いずれはお父さんの跡を継いでワインメーカーになることでしょう。
そんな彼らの愛らしい姿がとても印象的だったので、ラベルのモチーフにしました。
家族や友達と一緒に行うワイン造りの現場には、これまでの歴史とこれからの未来を感じさせる、希望と平和に満ちあふれた時間が流れていました。
あの情景を忘れることなく、ワインにたずさわる人々との出会いや交流を、SHINDO WINESでも大切にしてまいります。
SHINDO WINESの最新情報は、阪本のInstagramで随時お伝えしています。