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春を呼ぶ風。-Ⅱ-

2月の夜。

あの日はとても寒くて、布団の中でぬくぬくしながら彼と電話をしていた。この時間が好き。

少しして、彼は改まった様子になり、
「何か俺に不満ない?」と聞いてきた。

「ないけど、どうしたの?」
嫌な予感がした。
今までの人生で嫌な勘なら百発百中と言っていいほど当たってきた。それ以上聞きたくない。

「このまま付き合ってても宵ちゃんを傷つけることになるだけだから、別れたい。」

彼が何を言ってるのかわからなかった。
お互いに大切に想い合っていると思っていたから。私を見つめる彼の眼差しはいつも優しかったから。
何か他に理由がある。そう思いたかった。
でも、何度話しても「女の子として見れない」の一点張り。
彼女として、女として、1番言われたく無い言葉。

私は、一旦距離を置くことを提案した。 

私のため。

誰の言葉も、今までの事実も、何も信じられなくなった。
1週間はまともにご飯も食べられなかった。
気づくと涙が頬を伝っている。

ああ、
私は彼と過ごす時間が何よりも好きだった。
彼は格好つけだけど、最後に格好がつかない人でそんなところが愛おしくて好きだった。
頭を撫でたあと持っていた荷物を落としていた。
焼肉では美味しく焼けたお肉を私に渡してくれるが、脂がいっぱいのお肉を食べ続けた彼は「胃もたれした。」と言ってしばらくダウンしていた。

私のためにしてくれたことの数々を思い出す。

こんなにも私を大切にしてくれる人が今までいただろうか。

私と彼。

そんな時、幼なじみに連れられてファミレスに行った。
開口一番、
「宵を傷つける男なんて宵の人生にいらない。
あいつといる時の宵が幸せそうに見えて何も言わなかったけど、宵にはもっといい人がいる。
私の言葉がわからない?」
と言い切って私を見つめた。

私は、はっとした。
彼は、私に足りないものをもっている。
これは逆も言えるのだ。

彼は、私が持っているものを持っていない。

補完関係だった私たち。
考えれば、私が彼を補う方が多かった。
ずっと私が支えてもらう側だと思ってた。
いや思い込んでいた。

マルチタスクのできない彼のために、
計画を立てて会える時間を作っていたのは私。
デートの場所も彼の家に近い場所をわざと選ぶようにしてた。
彼の状況を踏まえて、LINEの内容を考えていた。
たくさんある。

でも私にとって別に苦じゃなかった。
自然とやっていたから。

でも気づいてしまった。

何事も諦めず取り組む私に対して、
彼は自分の限界を知っているかの様に途中でやめてしまうこと。
そんな彼の悪い癖を見て見ぬ振りをしていたこと。
私の大好きな彼の言葉が、私を傷つけたこと。
私のためではなく、自分を守るための言葉だったこと。
私を大切にしてくれる人は彼だけではないこと。

ああ、彼は私といると辛いのだろう。
格好つけの彼だ。
容易に考えつく。 
別れよう。そう決めた。

暖かくて強い風が私の背中を押す。
春が来る。

つづく

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