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企業価値向上に寄与するのは業績が先?働きがいが先?1100万件超の社員クチコミサイトをAIで分析すると

1,100万件を超える社員クチコミ・評価スコアを有する就職・転職プラットフォームOpenWork CEOの大澤です。

HR業界では時々議論される、この話。

『業績があがれば働きがいがあがるのか?』
『働きがいがあがれば業績があがるのか?』

今回、この因果性ジレンマ(にわとりたまご論争)に対し、科学的なアプローチをした論文が発表されたのでご紹介したいと思います。イラストは子供っぽいですがw、査読も通っているしっかりした論文です。

note論文数式のコピーのコピー

紹介する論文はこちら。

一般社団法人日本金融・証券計量・工学学会 19巻(2021)に掲載された

従業員口コミを用いた働きがいと働きやすさの企業業績との関係(西家 宏典, 長尾 智晴, 2021)

です。原文を読みたい方はこちらをどうぞ。


結論

時間がない方向けに結論からお伝えすると、このにわとりたまご論争に終止符は打たれませんでした。すごいざっくり図解するとこう。

note論文数式のコピーのコピー (1)

さすがにざっくりしすぎなので、もう少し解説するとこう。

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「働きがい」や「働きやすさ」の改善は、2-3年の遅効性をもって企業の成長性や収益性にプラスの影響を及ぼすことがわかりました。

また、企業のサステイナブル成長率(企業の利益がどの程度内部投資に回るかの比率)は、1年の遅効性をもって「働きがい」を向上させることがわかりました。

これ以降は興味のある方向けの、論文の解説資料となります。お時間ある方は見ていってください。


機械学習素人でもわかる『働きがい』『働きやすさ』の定量化レシピ

そもそも、「働きがい」「働きやすさ」ってどうやって数値化してるのよ?と勘の鋭い方ならお気づきだと思います。順をおって解説していきましょう。

まず基礎知識から。厚生労働省が平成26年5月に発行している「働きやすい・働きがいのある職場づくりに関する調査報告書」によると下記のように定義をしています。

働きがい=働く価値がある
働きやすさ=働く苦労・障壁が小さい

このような抽象度が高く、主観が大きく影響するものを定量化するのは一苦労ですよね。そこで本研究では、人それぞれの主観をスコア化してしまえばいいじゃない、という(狂気的)天才的な発想転換をしています。(※人工知能をかじったことがある人なら割とノーマルなアプローチ)

手前味噌ですが当社が運営するOpenWorkは日本最大級のクチコミ数を誇り、また品質面も国内の研究機関や海外のヘッジファンドが投資に活用するほどの品質となっています。OpenWorkのクチコミは下記の通り構成。

8つの定量評価(待遇面の満足度、社員の士気、風通しの良さ、社員の相互尊重、20代成長環境、人材の長期育成、法令順守意識、人事評価の適正感)

8つの定性評価(組織体制・企業文化、入社理由と入社後ギャップ、働きがい・成長、女性の働きやすさ、ワーク・ライフ・バランス、退職検討理由、企業分析[強み・弱み・展望]、経営者への提言)

3つの実数値(年収・給与、残業時間、有給休暇消化率)

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なお、この定性クチコミ/評価スコア項目構成は、OpenWork(旧Vorkers)が創業時に経営学や社会システム論、行動経済学や各種研究論文等々を駆使してゼロから作り上げ、"働く"を網羅的かつ数値的に図れるようにしたものです。

…昨今は、ほぼ同じような構成や回答項目をお使いの企業クチコミサイトも増えてきています。(社長としては冷静に粛々と対応していますが、個人としては模倣サービスには怒り心頭です)

が、あくまでOpenWorkが独自のロジックに基づいて開発した項目ですので皆様、ご留意ください。OpenWorkは企業様・ユーザー様のどちらにも誠実なサービスを心がけ、レポート回答ガイドラインを設けて責任を持って運営しております。運用ポリシーなどはこちら

心がダークサイドに落ちそうになったので、本題に戻りましょう。本研究では、「働きがい」「働きやすさ」を下記のクチコミからスコア化をしました。

働きがい=働きがい・成長
働きやすさ=ワークライフバランス、女性の働きやすさ

それぞれクチコミ例を見てみましょう。こんな感じです。

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では、これをどのようにスコア化していくか。まずは論文から数式を引用しましょう。

名称未設定のデザイン

…カモフラージュでお洒落に数式をデザインしても、読者の方は離脱してしまうと思いますので、わかりやすさ重視で簡単に説明したいと思います。

センチメント分析(テキストから感情(positive, negative, neutral, mix...)を分析する手法)を活用します。だいぶ端折って説明するとStepは2つ。

Step1:教師データの作成。一定のルールをもとに、この文章は「働きがい」がある。この文章は「働きやすさ」がある。と機械に食べさせるデータをつくります

Step2:教師データから学習した機械が、インプットされた文章を「働きがい」がある、「働きやすさ」があるといったようにスコア化していきます

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人工知能や機械学習ときくと、全部機械がやってくれるというイメージがあるかもしれませんが、そんなことないんですよね。

特に教師データをつくり、精度の高いモデルを作るまでは血のにじむような労力が必要となります。

余談ですが、AWSのcomprehendを使うとこのセンチメント分析も教師データなしである程度の精度でできるようになってきました。ロジックのブラックボックス問題は残りますが、簡単な分析がしたいときにはとても便利ですよね。

さて、また脱線したので本論に戻ると、今回はこのようなセンチメント分析による「働きがい」「働きやすさ」の変化度を軸に研究をしています。
図で表すとこんな感じです。

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なぜ絶対値ではなく、変化度と財務指標との相関性を研究するかというと、
・先行研究で変化度の方が財務指標への影響が強いことが明らかになっているため
・実際に従業員が感じるのは絶対値よりも変化度のため(もとから高い・低いよりも、昔と比べて良くなったか・悪くなったかの方が当人たちには影響する)
からです。

働きがい・働きやすさのスコア化に関する説明はこのくらいにしておきたいと思います。数学的な興味がある方は是非本論をお読み頂き、当社の採用HPへお進みください。


研究したこと

研究した内容をわかりやすく図にすると下記のとおりです。

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一応、定義がぶれそうな財務指標の計算式も示しておきます。

ROE=当期利益/(前期・当期自己資本平均値)
売上高営業利益率=営業利益/売上高
配当性向=配当/当期利益
サステイナブル成長率=ROE×(1-配当性向) ※企業の利益がどの程度内部投資に回るか、と読み替えてもらえればと。


3分でわかる研究結果

研究結果は冒頭にも書きましたが、再掲するとこういう結果になりました。

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まずは働きがい・働きやすさ→企業財務について。

働きがいが改善されると、3年後の売上高変化率・売上原価変化率に対して統計的にプラスのに寄与することが示された。これは、働きがいの上昇はその後の企業成長の要因になっていることが考えられます。

また働きやすさが改善されると、2-3年後の売上高営業利益率に対して統計的に有意にプラスに寄与することが示された。これは、働きやすさの改善により、退職率の低下や採用力の強化につながり、人件費が押さえられていることが考えられます。

次に企業財務→働きがい・働きやすさをみていきましょう。企業財務が働きやすさに影響を与えるというデータはそこまで顕著にはあらわれませんでした。

一方で、ROEやサステイナブル成長率が改善されると、1-2年後の働きがいに対して統計的にプラスに寄与することが示されました。サステイナブル成長率は、企業の利益がどの程度内部投資に回るかと捉えることができるので、内部投資が新規事業をはじめとした様々な施策に投下されることで従業員の働きがいにつながっている可能性があります。

また、働きがいと働きやすさ、株式パフォーマンスはもう少し噛み砕くとこういう結果になっています。

note論文数式のコピーのコピー

株式パフォーマンスについては若干考察に苦しむ内容もありました。

まず、働きがい・働きやすさが改善すると、9-12ヶ月後に統計的に有意なαが出ていました。働きがい単体でみると、なんと0-4ヶ月後の株式パフォーマンスに影響があり、一方で働きやすさのスコア変化は、株式パフォーマンスには影響がありませんでした。

このαは説明がいささか難しいんです…株式の要因分析に広く利用されるFama-French 5 Factor Modelによる要因分析を行い、一般的に株価の説明変数となる市場変動や企業規模・時価簿価比率などだけでは「説明できない要因=α」が存在するかを調べています。αがでたときには、この働きがいや働きやすさが株式パフォーマンスに影響を及ぼしていると考えてOKです。(詳しく説明するとちょっと違うのですが…興味ある方は是非論文読んでください。)

働きやすさだけを改善しても株式パフォーマンスに影響はなさそうなのは分からないでもないですよね。働きがいとセットでこそ、労働生産性は向上しそうですよね。

疑問が残る点としては、働きがいだけを改善した場合の方が、早々に株式パフォーマンスへ影響があるということです。しかも0-4ヶ月というタイムラグは説明がつきにくい…本件については、今後の研究に期待をしたいところです。


さいごに

長々と書きましたが、いかがでしたでしょうか?

まとめ
・「働きがい」or「働きやすさ」は財務指標に2-3年遅れて影響する。
・「働きがい」&「働きやすさ」は株価にも1年遅れて影響する。
・「財務指標」は「働きがい」に1-2年遅れて影響する。
・「働きやすさ」だけを改善しても株式に影響しない。

アンゾフとチャンドラーの「組織は戦略に従う」「戦略は組織に従う」的な議論のようにも感じますが、個人的にはどちらも大事よね、と思っています。

一経営者としては、どちらかだけ(組織バカ・業績バカ)をやっていても駄目で、世の中に大きな価値を届けられる事業創出も必要だし、企業文化自体が最大の競争優位になるような組織づくりも大事だと思っています。

私たちOpenWorkも両方を追い続けていきますし、世の中に事業も組織も大事にする企業・経営者が増えるようなサポートを続けていきたいと思います。

面白かった・もっと話を聞いてみたいという方は採用面談でお会いしましょう!メッセージで大澤と話したいと書いてくれれば、できるだけ時間取ります!

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最後までお付き合い頂きありがとうございましたー。


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