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2020年代スポーツスポンサーシップの構造に起こる3つの変化とは?(2021)

こんにちは。今回は2021年頃に作成した記事を引っ張り出してきました。
今読むとその通りになっていること、そうでないことがあって面白いです。未来予想の振り返りも後ほど書いてみたいと思います。


今回のテーマについて

今回のテーマは「2020年代スポーツスポンサーシップの構造に起こる3つの変化とは?」です。
ご多分に漏れずスポーツ業界もコロナの打撃を受けており、スポーツスポンサーシップの在り方も大きな変化が求められています。
本記事では、これまでのスポンサーシップの構造を再確認した上で、2020年代にかけてどんな構造的な変化が起こっていくのか、当社の見立てをまとめていきます。

前提:スポンサーシップの売上規模

みなさんはスポンサーシップと聞いて、どんなものをイメージしますか?
あまりスポーツ領域に詳しくない方でも、選手のユニフォームに会社のロゴが入っていたり、試合会場の看板で会社名が露出しているのを見たことがあると思います。これらは、企業がクラブや選手にお金を支払い、対価として肖像権利用の権利や、ユニフォーム等の露出枠を獲得しています。これがスポンサードの基本的な形式です。

企業側はスポンサードによって得られる”肖像権"を活用して、自社商品のプロモーションの機会や、企業ブランドの露出を作り出します。その結果、認知獲得やブランドイメージの向上といった効果※1を発揮します。
※1:厳密なスポンサーシップの定義やスポンサーシップの目的の分類等の説明は割愛します

以下はJリーグとBリーグで公開されている平均売上構成を示すグラフです。

Jリーグ&Bリーグの営業収入の内訳

引用元: SPODIGI「 【2019年度】Jリーグ全クラブの決算・経営情報をグラフ化。営業利益やスポンサー収入が多いのはどのクラブ?」(参照:2021年2月19日)
データ元: B.LEAGUE(Bリーグ)公式サイト「2019-20シーズン(2019年度)クラブ決算概要」(参照:2021年2月19日) Jリーグ公式サイト「Jクラブ個別経営情報開示資料(平成31年度)」(参照:2021年2月19日)

グラフによると、JリーグとBリーグのクラブの売上構成は50%近くがスポンサー収入で成り立っており、次いで入場料収入が12〜22%となっています。また、売上に対するスポンサー収入の占める割合は、下位リーグになればなるほど高まる傾向にあります。

プロとして活動する選手個人においても、クラブや企業から給与をもらっている選手を除くと、スポンサードによる費用が活動資金のメインを占めています。選手にとってスポンサードの獲得は活動を続ける生命線とも言えます。

つまり、プロのクラブや選手にとって、企業からのスポンサードは最も大きな収入源となっており、知名度の低いスポーツになればなるほどその傾向が高まることが見て取れます。

日本のeスポーツ市場規模

引用元: 株式会社 KADOKAWA Game Linkage
「2019 年日本 e スポーツ市場規模は 60 億円を突破。」(参照:2021年2月19日)

eスポーツの市場規模データでも、スポンサー収入が市場規模の75%を占めています。チケット収入や放映権といったメジャースポーツにおける大きな収益源が期待できない分、スポンサー収入への比率が高まっています。

現状のスポンサーシップの構造

以下の図はスポンサーシップにおけるお金の流れの整理になります。

現状のスポンサーシップの構造

Spornia.(2021)

現状は、クラブや選手はスポンサー企業から得た資金を基に競技活動を行い※2、ファン・サポーターはスタジアムに足を運びます。ファン・サポーターは試合を観戦することで看板やユニフォームを認識します。また周辺で行われるイベントで商品に触れることで、企業の名前や企業が提供するサービスを認知することができます。
※2:放映権やチケット、グッズ、分配金など複合的な要素で成り立っています。

また、試合がTVで放映されたり新聞に取り上げられるなど、マスメディアから露出によってさらに露出機会を増やすことができます。
日本政策投資銀行のレポートでは、以下の図でスポンサーシップの広告価値の分類が説明されています。

引用元: 株式会社日本政策投資銀行
「スポーツの価値算定モデル調査」(参照:2021年2月19日)

この図では、スタジアムでの露出(1次露出)が、マスメディアによってさらに露出(2次露出)して、そのコンテンツがSNSでさらに拡散(3次露出)されていくことが示されています。
つまり、スポンサーシップによる広告価値及び認知の拡大は、「スタジアム→マスメディア→SNS」という序列で重要視されていることが推測できます。

スポンサーシップを取り巻く環境変化

現在のスポンサーシップの構造を簡略化して整理しました。 一方、2020年の2つの大きな変化によって、スポンサーシップを取り巻く環境が変わり始めています。

1. スタジアムの入場者数の減少

1つ目の環境変化は、スタジアムの入場者数です。 以下の図は、コロナの広がりを起点にした入場者数の減少数を示しています。

Jリーグの2019年&2020年の入場者数の推移

引用元: J.LEAGLE Data Site 「年度別入場者数推移」(参照:2021年2月19日)

Jリーグの入場者数を見ると、2019年は630万人だったのに対し、2020年には180万人と30%近くまで縮減しています。ワクチンの普及により徐々に回復していくかと思いますが、コロナ前と全く同じ状態に戻るのは時間がかかりそうです。

この変化について、コロナによる一時的な減少と捉えることもできますが、個人的には根本的にスタジアムでの露出には限界があると思っています。いくら集客に注力をしても、スタジアムのキャパシティの限界がある中で、2倍、3倍と観客を増やすことは現実的ではありません。
もちろん、客単価の改善など必ずやっていくべき領域はありますが、マーケットのポテンシャルとしては比較的小さい(≒ある程度成熟している)と考えています。

スポンサードの広告価値を算出する方法として「平均観客動員数×試合数×露出頻度」といった、インプレッション数から計算する方法もあります。しかし、この方法でスポンサー価値を評価していた場合、今年も既存のスポンサー企業に同じ額を継続してもらうための説明はとても難しくなるのではないでしょうか。

2. インターネット広告市場の拡大

2つ目の環境変化は、日本の媒体別広告市場におけるインターネット広告市場の拡大です。

日本の媒体別広告費

引用元:株式会社サイバーエージェント「インターネット広告」(参照:2021年2月20日)

2019年には、インターネット広告の市場規模がマスメディア広告の市場規模を差し置いて1位になりました。

マスメディアへの広告出稿が減っている現状を踏まえると、スポーツ界においても、マスメディアでの露出を期待してスポンサードを行うよりも、インターネット上での露出を期待したスポンサードにシフトされていくことが予想されます。

最近では野球のTV中継も減っているなど、スポーツのマスメディアでの露出自体が減ってきている中で、このマーケットも同じく成熟していると見て取れます。

これからのスポンサーシップの構造

「スタジアムの入場者数の減少」「インターネット広告市場の拡大」の2つの環境変化によって、スポンサーシップの構造も変わらざるを得ない状況に置かれています。2020年からの10年間は、スポーツのスポンサーシップの構造自体が大きく変化していき、当社はその変化を加速させる存在で有りたいと考えています。
当社では、これからのスポンサーシップの構造を以下のような構造で整理しています。
また、構造的変化の要素として3つあると考えます。

これからのスポンサーシップの構造

出典:Spornia.(2021)

1. デジタルメディアが広告価値の中心になる

スタジアムやマスメディアでの露出機会が見込めない中で、観客動員数やマスメディアを前提とした露出価値ではなく、主体的にコントロールができるSNSやYouTubeをはじめとするデジタルメディアへと価値の比重は移っていくと思います。

2020年代にどのようなテクノロジーが出てくるかわからないので、一旦デジタルメディアと広く置いていますが、特にソーシャルメディアは、コンテンツホルダーにとってすでに新たな価値を創り出すツールとして浸透しつつあります。

また、新規の顧客獲得において、コンテンツホルダーとファン・サポーターの初期接点は、デジタルメディア上で生まれ、そこからスタジアムに足を運ぶといった順序に変わっていくことが予想されます。

どちらにせよ、コンテンツホルダーとファン・サポーターが直接双方向のコミュニケーションを取れるようになり、その中で広告価値をいかに発揮していくかが重要になると思います。

2. デジタルメディアによるアクティベーションの促進

主体的にコントロールができるソーシャルメディアを活用することで、媒体価値を自ら高めていくことを可能にし、スポンサー企業への価値還元(アクティベーション)を行うことができる打ち手の幅を格段に広げることができます。

この領域の事例は多くないですが、単純にロゴ表示の場をSNS上で創ることもできますし、もう少し踏み込んでコンテンツマーケティングのような形式でアクティベーション施策を作っていくこともできると思います。

ここでアクティベーションという言葉を使っていますが、本来アクティベーションの定義は、スポンサーした企業が、得られた肖像権等を活用して自社のマーケティングやPRを行うことなので、コンテンツホルダー側が担う役割ではありません。

しかし、今後はアクティベーション施策についてもスポンサー企業もコンテンツホルダーもプロジェクト形式で双方で創っていくような動きが進むのではないかと思います。この領域がまさにSpornia.がDS-Portを通じて取りんでいる領域ですので、改めて記事にまとめます。

3. スポンサー価値がより可視化される

デジタルマーケティングの世界では一般的ですが、デジタルの特性を活かすことでより正確にデータを取得して、広告価値の可視化が進むことも予想されます。

今まで広告価値を可視化するために高額なコンサルティングサービスを利用しなければならなかったところが、安価で誰でも見える化できるようになる未来が待っているかもしれません。

自らのデジタルメディア上の影響力が可視化され、影響力相応にスポンサー価値を算定することができれば、アドテクサービスのような形式で、影響力に応じた金額を支払うことも技術的には可能です。

そうすることで、今までマスメディアでは露出できないため、広告価値が分からずスポンサーが付きづらかった人も、影響力相応に対価を得られるようになり、その対価で競技を続けられる人がより増えていくのではないかと思います。

スポーツ業界特有の課題

ここまでお読みいただきありがとうございました。
スポンサーシップの構造の変化について見立てをまとめましたが、デジタルマーケティングの世界にいる人からすれば当たり前に聞こえるかもしれません。実際にその他の業界では、類似の流れが10年以上前から起こっている一方、スポーツ業界では十分に進んでいません。

また、全てをデジタル化してデータで価値を可視化して…といったデータ至上主義な考え方もスポーツ業界に全ては当てはまりません。むしろデータとしては見えない価値にこそ、スポーツが選ばれ残り続けている理由があるとクライアントとコミュニケーションする中で確信しています。

次回は、スポーツ業界においてこの構造変化が進まない理由について、当社が選手やクラブとコミュニケーションを重ねる中で気づいた学びをまとめていきたいと思います。


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