妻の話

 僕はあまり誰かに影響を受けるタイプではない。それでも妻に出会って変わった部分がある。
 元々、対人関係が苦手で歳を取るにつれ治っていったのだが、中学生ぐらいまではお店で注文する事もできなかった。未だに人の目を見て喋る事ができず、そのことを悟られまいといつもビクビクしている。人が多いとこに行くと疲れるため休みの日は布団から出ずに本の世界に逃げる。
 そんな僕を妻は犬みたいで面白いと言ってくれる。妻が昔飼っていたボーダーコリーが目を合わさなかったそうだ。
 そんな妻は僕と対照的で、とても人付き合いが好きで、持ち前の明るさで、高校を卒業し単身東京に飛び出してから、某アパレルメーカーでバイトから部長まで上り詰めた。すぐ誰とでも仲良くなれ、話好きで、友達が多い。子供が産まれた後、挨拶に来た友人は僕の方で0人に対し、妻の方では30人を超えた。「友達は数じゃないよ。」と言ってはくれるがそもそも友人が0人なのでは話にならない。
 そんな妻に圧倒された出来事がある。去年、家と車を同時に買ったのだが、担当の営業マンと仲良くなってどちらも半額になったのだ。コミュニケーション能力ここに極まれり、多分利益は出てないが相手は笑っていた。
 そんな妻を見ていると僕の生き方はあまりに内に篭り過ぎている。損をする生き方だなと思うようになった。お金がどうとかという話じゃない。自分の魅力を相手に伝える能力とは、何にも変え難い力なのではないかと思うようになった。もう遅いかもしれない、それでも僕は、一歩でも半歩でも相手に歩み寄ってみることを心掛けるようになった。
 妻に言われるのだ「大きな声で。背筋を張って。」

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