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どやさワンピース

 ザ・バカンス!と言わんばかりの服を買った。今くるよさんみたいな黄色のワンピースだ。言いすぎかもしれない。だけど、わたしにはそれくらいH&Mで展示されてるのを見たときには、華やかに見えたのだ。
 久しぶりに葛藤するような服に心惹かれた。34歳でハワイでもないのに、キャミソールワンピを着るのはどうなんだろうか、という思いが湧いた。だけど、わたしの足は前に進んでも、目はワンピースから目を離せなかった。身体は素直である。
 夏のセールであり、H&Mであり、高いものではないことはわかっていても、わたしは近づきさえもしなかった。縁がないものと決めこんでいたから。そして、充分服は持っているとも思ったから。それらしい理由をつくって、ワンピースに触れることさえもしなかった。
 Instagramを眺めていたら、ハッピーちゃんが48歳以上のコンテンポラリーダンスの発表会における写真を掲載していた。わたしより歳上の女性が華やかなドレスを着て、素肌を出してキラキラと笑顔でいる姿だった。羨ましいと瞬間的に身体が叫んだ。羨ましい!わたしもライトを浴びたい!羨ましい!わたしもかわいい服を着たい!
 その思いがバスンとわたしの胸を打った。それでも、わたしはぐだぐだと買いに行くのをしぶった。かわいい格好をするのは慣れたはずでも、バカンスに振り切ったワンピースを買うのは初めてのことで緊張したのだ。何事も初めてのことは、どんなに小さいことでも緊張するし、葛藤が生まれる。
 ある朝、眠っている夫を起こして、相談した。
「ねぇねぇ、かわいいワンピースを見つけたんだけど、どやさになりそうで心配なんだよねー」
「そんなん着てみたら、ええやん。どやさかわいいやん。着たらええやん」
 ほんまやっ!とわたしは思った。買う買わないの手前に、試着があった。そのことを忘れていた。まずは着てみて、自分がどう思うかという段階があるのに、縁遠いものだと決めつけすぎて、試着どころか、そのワンピースがかかっているハンガーラックにさえ、わたしは近づかなかった。あほか。
 わたしはその日の午前中にH&Mに行き、せっかく試着するのだから、興味がある服をがつんと全て着てみよう!と決めた。真っ赤なボディーラインが出るワンピース、真っ赤なフリルがたっぷりのワンピース、お目当ての黄色いワンピース、それに合わせた麦わら帽子。いつもの試着なら、買う気がある服だけを試着する。今回は着てみたい服を試着した。この体験は本当におすすめ。ときめきが半端ないので、試着室が空いてるときにはぜひ試してもらいたい。
 お人形遊びのように、次から次に服を着る。ビッチのように見えたり、キュートに見えたりする自分を見るのは、とても楽しく心が満たされる。かわいいとたくさん自分のことを愛でることができて、本当に幸せだった。
 お目当ての黄色いワンピースはわたしが頭で思っていたよりも変ではなく、むしろよく似合っていた。完全なるわたしの取り越し苦労だった。いつも怖いことは脳内で発生する。それ以上に怖いことは現実では起きない。
 夏のセールは本当にありがたい。ワンピースと帽子を合わせて購入しても2,000円ちょっとで購入できてしまった。
 とってもかわいくておしゃれなのに、2,000円ちょっと。感激である。
 きっと今後もわたしはさまざまな服に心惹かれることだと思う。その度に、葛藤が生まれるかもしれない。そして、その度に葛藤を乗り越えて、今まで出会ったことがないわたしに出会いにいきたい。

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