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X 裏切り者の死

ー随分と酷い殺され方をしていますが、何があったんですか?

「裏切ってしまったんだ・・・」

ー誰を?

「自分を」

ーなぜ自分を裏切ったことで、あにたが他者から殺されることになるのですか?

「自分の心に従わなかった。自分の心に従わなかったばっかりに、周囲の人も傷つけた。」

ー一体、どういうことですか?

「わたしには守るものがあった。命をかけて守りたいものだった。しかし、その心にわたしは背いた。金銭になびいたんだ。金に負けたんだよ。そのせいで、わたしが住む村は隣国の連中に襲われた。わたしはわたしの家族を守りたかった。今の生活ではこの冬も越せないような有様だった。しかし、金さえあれば、生きていけた。村を襲う手引きをした。もちろん、わたしの家族だけは逃げる算段をしていた。しかし、隣国の奴らは少しばかり早く計画を実行した。襲われた。地獄だったよ。火が放たれ、村は焼かれた。女子供の叫び声が響く。老人が転べば、その上に人が踏んで逃げていく。」

ーあなたの家族は?

「妻も娘も犯され、殺されたよ。わたしの目の前で。なぜわたしがすぐ殺されなかったって?『お前のような恥知らずの裏切り者は、よく見ておくといい。』と兵士に言われたよ。それを聞いた妻はわたしを見て、泣いていたよ。悲しくて泣いてるんじゃない。目を見れば、わかる。わたしに向けた怒りだったよ。『村を売ったなんて、許さない』。そんな目をしていた。」

ーあなたはその場で殺されなかったのですか?

「妻と娘が殺された後、わたしの番だった。もう逃げられない。無理だと思っていた。だなら、わたしはただ座り込んでいた。頭から野太い声がした。『無様に逃げてみろ。俺たちから逃げられたら、生きのびることができるぞ。どうだ?』男はにたりと笑った。狩を楽しみたいようだった。森で鹿狩りをするように、わたしを狩りたいのだとわかった。『5秒やろう。さあ、いけ。5、4、・・・』カウントダウンが始まったとき、わたしは無様に逃げ出した。さっきまでもう無理だと思っていたのに、わたしは微かな希望にすがろうとした。妻も娘を見殺しにしたのに、それでもわたしは逃げようとした。」

ーそれで?

「ご覧のとおりさ。呆気なく、5秒後には滅多刺しさ。」

ーあなたが思うことは何ですか?

「誰かを売るようなことはするもんじゃない。しっぺ返しが必ずかえってくる。例え甘い話があったとしても、誰かを売るようなことはしちゃいけない。」

ーしかし、あなたは家族を守ろうとしたんですよね?

「たとえ困窮していたとしても、他の手段を考えることはできたはずさ。人の道を外れた行ないをする前にね。たとえ、逃げ仰せたとしても、家族には疑念を持たれただろうね。どっち道、逃げおおせても家族とは別れていたかもしれない。」

ーあなたが今世に生きる方々に伝えたいことはありますか?

「切羽詰まったときの判断はろくなもんじゃない。苦しいやら辛いやらをこまめに誰かに伝えて、解決策を相談することだ。そして、その相談者は必ず自分が憧れる人物にすることが大事だ。間違っても、自分の村を襲おうと計画してる奴らに相談するもんじゃない。」

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