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『すーちゃん』は、ごまかさない。

益田ミリ『すーちゃん』幻冬舎 2006

益田ミリ『どうしても嫌いな人』幻冬舎 2010 文庫はこちら

あっさりとしたイラストと、声が聞こえてくるような文章が印象的な益田ミリさん。日常に寄り添ったコミックやエッセイを書いている作家さんです。

益田さんが世に広く知られたきっかけでもあり、映画化もされたコミック『すーちゃん』は、第1弾の発売から15年経つ今でも、読書中思わず「うんうん」と頷いてしまうシリーズです。
そんなシリーズの中から、『すーちゃん』と『どうしても嫌いな人 すーちゃんの決心』の2冊を紹介させてください。

主人公すーちゃんは、30代の女性。都内のカフェで正社員として働き、1人で暮らしています。毎日まじめに働き、職場・友達・家族と人間関係を持ち、「疲れた~」と帰ってくる。自分を変えたい、変わりたいと思いながらも、どんな風になりたいのか自問自答する毎日。心のかたすみで小さく迷いながら、日々は確実に過ぎていきます。

私はすーちゃんが好きです。それは、すーちゃんの、“人との付き合い方”が心地良いから。

すーちゃんは、友人や職場、様々な人間関係の中で“ここまでは聞かない”、“これ以上は言わない”という、ラインを持っています。このラインは決してすーちゃんを気疲れさせるものではなく、すーちゃんは自分にとっての、人と関わるちょうど心地良いラインを知っているのです。

そして、相手によって“敢えて言うこと”もあったりします。
例えばある日、職場の若い女性にすーちゃんは「わたしもオバサンになったもんだわ」と一言。これは何も自虐的に発言をしている訳ではなく、相手に、若さの良さを感じて欲しいと思うすーちゃんの「若者へのサービス」。「若さをうらやましがられるのは嬉しい 自分に未来があるって思えるから」とほほ笑むすーちゃんは、ここでふと気が付くのです。

あたしは、若いあたしに戻りたいとは思わない 今でいい
それは、今もいいということ?
あたし、変わりたいんじゃなかったっけ?
変わりたいと思おうとしているだけなのかも
「今でいい」って言ってはいけない空気が世間には流れてるしさ~

『すーちゃん』幻冬舎文庫 P.71より

変わりたいと思うすーちゃんは、寝ても覚めてもやってくる毎日の中で、少しずつ答えを見出していきます。

『どうしても嫌いな人』では、タイトルの通り、どうしても嫌いな人と対峙するすーちゃんが描かれています。

悩む日々、どんどん溜まっていく疲れと焦り。心の中で、すーちゃんの暴言が炸裂します。あるある、こんな経験、私にも。思わずそう、やっぱり頷いてしまいます。

そこには、よくありがちな「嫌なヤツだと思ってたけど、実は良い人だった」なんて展開はありません。どうしても嫌いな人を、すーちゃんはどう克服するのでしょうか。

益田ミリさんの書く作品のすばらしさは、こういう心の中のホコリや澱のようなものを、ユーモアでお茶を濁さず、きちんと描き切っているところだと思うのです。それでいて、泥のように重たくならないのは、ライトなイラストと、作品を通して見える益田さんのお人柄の良さなのかもしれません。

シリーズ中では、すーちゃん以外の登場人物も、それぞれ自分の人生に迷ったり、立ち止まったりしながら生活している姿が描かれています。
読んだあとの心地良さは、ありがちな「ほっこり」という言葉では片付けたくない読了感。日々の合間にふと、読みたくなる本です。

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