私の歩んできた道とこれから(4)


パリ音楽院時代の生活

パリ音楽院に入って、私を本来の姿に戻してくれたロシア人の先生(時には先生、時には母親、時には友人のようでした)とだんだん離れて巣立つ寂しさを抱えながら、ピアノを週2回、そして音楽分析、初見、リズム、室内楽などの授業を受ける日々。

ピアノという楽器って、1人で練習、1人で反省、1人で研究、1人で改善・・という生活で孤独、舞台でも基本的にソロプレイヤーなので、みんな割と一匹狼。
だから特別この時から孤独だったというわけではないのですが、基本的に勉強、練習、一人で乾杯!(笑)という生活。

フランスに来る前から続けていた、レッスンを録音、その後家に帰って録音を聴きながら全部ノートにメモをすること。
自分と先生の演奏を比べたり、自分の思っている演奏と自分の本当にしている演奏の違いを埋めていく作業は必ずしていました。
レッスンを3倍にも4倍にも意義のあるものにしてくれる大切な作業でした。


3人のピアノの師

音楽院での私のピアノの先生は3人いました。ミッシェル・ベロフ先生が教授で、エリック・ルサージュ先生とドゥニ・パスカル先生がアシスタント。
1週間に教授のレッスンが1回、アシスタントのレッスンが一回。
演奏活動で長期にわたって居なくなる先生もちらほらいる中、3人の先生は演奏活動の傍いつも予定通りにレッスンをこなしてくれました。

ここでやっぱり明記しなければいけないのは、どのレッスンに行っても、先生への敬意はあるけれど生徒と先生が対話でき、質問でき、意見を言える雰囲気であるということ。
フランスも一昔前は日本のように先生が喋って生徒がハイと追従するレッスン風景だったのかもしれませんが、この自由に一緒に音楽を作れる雰囲気は私の人生を変えました。
敬意と服従は違う。
結構この感覚って日本の音楽界で感じるのは難しいんじゃないかな、と思います。私だけかな。

ベロフ先生は天才肌なのであんまり口では説明してくれないことが多く、それでも何かをもぎ取ろうとする姿勢で毎回臨みました。
ベロフ先生は必ず、レッスンの初めに一回通しで最初から最後まで弾かせます。
そしてレッスンした後最後の質問は、「次は何持ってくるの?」
次って一週間後。つまり、毎週新しい曲を持ってこい、という事です!
毎週必死で譜読みして、私はほぼ暗譜でしか弾けないので暗譜も大体して、毎週ある程度長いきちんとしたレパートリーを持っていくのは並大抵のことではなかったし、日本とフランスの音楽教育の大きな違いである、「量を読む」ことに重きを置く方針の先生でした。
毎週レッスン前は緊張でお腹壊してました(笑)
ピアノ演奏の要!と言える手首の使い方は、今でも思い出し私もレッスンの時に伝えて行っている大事な教えです。

ルサージュ先生は温かくいつもナチュラル。
今でも大事に大事にしている教え、音と音を一つだけの動きで繋げることを辛抱強く教えてくれました。
プレイエルで先生がやったシューマン室内楽曲全曲シリーズ4回のコンサートで譜めくりに使ってくれた事、(曲が終わった後に必ず!まず私に目を見てMerciしてくれる紳士!!譜めくりは色々したけどそんな人他にいなかった・・😳) 一生の思い出です・・・!
あたたかい自然な人柄のままの演奏をする先生。また会いたいなぁ。

数回しかお世話になれなかったパスカル先生は、きっと世界一のピアノの先生とはこの人だ、というような方。
先生のレッスンを受けると、全てがわかった気がして、開眼!!!となるのです。
まだ精力的に教えていらっしゃるので、もし機会があればみんな先生のレッスン受けてほしい。
思いもしなかった視点から、素晴らしいアイディアを下さいます。
大人気の先生でいつも生徒さんがひっきりなしに色々なところから聴講にも来て居ました。
卒業の後挨拶に行ったら、コンクール、どんどん受けていきなさい、良い結果が絶対に取れるから!と励ましてくださいました。


音楽学習の頂点?演奏という仕事

・・・・コンクール。
在学中に数回受けて受賞などしたものの、なぜか毎回、喉に物が詰まったような感覚。

・・・・人前での演奏。させてもらう機会はだんだん増えていたけれど、毎回自己嫌悪、何でこうなっちゃうんだろう、毎回踏ん張っても踏ん張っても空回りのような感覚。
本番前は数日食欲が落ちて、本番後は自分のミスタッチの音が頭の中で傷ついたCDのように何度もリプレイされて眠れない。
いっぱい舞台を踏めば慣れるよ!と色々な人に励まされて頑張ってみた。

・・でも、弾きたくない。弾きたくないんだ。
だって、人前では取り繕わなければいけない。
人には本当の自分は隠さなければいけない。
それでいくら人に良いと言われても、全く嬉しくない。

ピアノと私は喧嘩してる。そう気づいたのはパリ音楽院を卒業してからだいぶ経ってからでした。


次回に続く!

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