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AI時代に求められる保育者の力―子ども理解と言語化能力の重要性
先日、「AIが保育にどう関わってくるのか」というテーマを扱う学会に関わらせてもらいました。
僕は直接発表する立場ではありませんでしたが、
話題提供に関わらせてもらい、
多くの気づきを得ることができました。
AIの進化は目覚ましく、保育の現場にも影響を与え始めています。
しかし、この新しい時代においても、保育者に求められる基本的な能力は変わらないのではないかと感じました。
この記事では、AI時代の保育者にとって特に重要となる2つの能力、「子ども理解」と「言語化能力」について考えたことをお伝えします。
1.AIと保育――子ども理解の重要性
AIを活用する未来においても、
保育者が子どもの姿を観察し、考察する「子ども理解」はますます重要になると考えています。
どんなにAIが発展しても、AIが分析するためのデータ(子どもの姿や状況)は保育者が入力するものです。
そのため、保育者がどのように子どもを見て理解するかという「フィルター」の質が、
AIが提供する返答の質を左右します。
具体的で的確な観察と考察がなければ、AIから得られるアドバイスや提案もあいまいなものになりかねません。
つまり、AIを補助的なツールとして活用するためには、
保育者が子どもの本質を見抜き、それを適切に表現できる力が必要なのです。
2.言語化能力がAI活用のカギに
もう一つ注目したいのは「言語化能力」です。
AIを使って指導計画を立てたり、保育の相談をしたりする場面が増える中で、
保育者が自分の保育や子どもの状況をどれだけ具体的に伝えられるかが重要になります。
漠然とした内容しか伝えられない場合、
AIから返ってくる提案も抽象的で的外れになりやすいでしょう。
例えば、「〇〇ちゃんがよく泣く」とだけ伝えるのと、
「〇〇ちゃんは午前中の自由遊びの後に泣くことが多い。特に友達との関わりが多い日が多い」という具体的な情報を伝えるのでは、AIの分析結果に大きな差が生まれるはずです。
言語化能力は現在でも保育者に求められる力ですが、AIの導入が進むほど、その重要性がさらに高まると考えています。この能力の差が、今後の保育の質の差に直結する可能性があるのです。
3.AIを使った壁打ちが生んだ気づき
実際に僕がChatGPTに壁打ちしたときのことを紹介します。
朝の登園時、気持ちが不安定になる子どもへの配慮についてAIに相談した経験があります。
その子は登園後に泣いたり気分が沈んだりすることがあり、
保育者として「気持ちが安定している時に、その姿を認めて自信や意欲につなげる」という対応をしていました。
しかし、どこかニュアンスがしっくりこないと感じ、この関わり方が適切かどうかAIに相談してみました。
AIは次のように返答しました:
「気持ちの安定に焦点を当てる場合、『認める』という行為は、子どもの内面の安心感を強化する方向に働くことを期待して行うイメージです。ですから、『自信』や『意欲』というよりも、『安心感』や『心の落ち着き』を築くための支えとして捉えるとニュアンスがより適切かもしれません。」
この返答をきっかけに、気持ちの安定を促すための他の表現についてAIとやりとりを重ねました。
その中で、「その子は不安定になることで自分に注目してほしいのかもしれない」という視点に気づくことができました。
この気づきにより、具体的な配慮の言葉や行動を改めて言語化し、
保育者間で共有できるようになりました。
4.AI時代に求められるのは「基本の力」を磨くこと
ここまで述べた2つの点から言えるのは、
AI時代になったからといって、まったく新しい能力が必要になるわけではないということです。
むしろ、現在求められている保育者としての基本的な能力、
つまり「子ども理解」や「言語化能力」をさらに磨き上げることが重要です。
AIを活用することで保育の可能性が広がる一方で、
保育者自身の力が問われる場面も増えていくでしょう。
AIが登場したことで、これらの能力がより明確に求められ、
結晶化していく時代になるのだと思います。
5.おわりに
AIは保育の現場を効率化し、新たな視点を提供してくれる可能性があります。
しかし、その可能性を最大限に活かすためには、
保育者自身が基礎力を高め、子どもと向き合い続ける姿勢を忘れてはいけないと思います。
AIを効率よく使うためにも、
保育者としての「基本の力」に磨きをかけていきませんか?