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【発酵を巡る旅】清酒発祥の地・奈良県の正暦寺で開催される菩提酛清酒祭に参加してきました!!

清酒発祥の地と言われている、奈良県奈良市にある正暦寺。
かつて、寺院で日本酒を造る「僧坊酒」が主流であった時代(平安時代〜江戸時代頃)に、掛米・麹米ともに白米を用いた透明度の高い酒造り(南都諸白)を実現し、現代の日本酒の原型となる技術を確立しました。

それだけでなく、まだ微生物の存在が発見される以前にも関わらず、腐敗を防ぐための火入れ殺菌を行ったり、酒母造りという手法を生み出したりと、巧みに微生物を操る様は、まさしく日本人と微生物が密接に関わってきた歴史の現れです。

そんな、日本酒の聖地である正暦寺で年に一回、公開で菩提酛作りが行われる「菩提酛清酒祭」に参加してきました!!

実は、菩提酛仕込みの日本酒造りは、明治時代に開発された「速醸酛」の活況に伴い徐々に衰退し、一度姿を消していました。

しかし、日本の誇るべき知恵と技術の詰まった菩提酛仕込みが忘れ去られてはならないと、奈良県内の酒蔵と酒屋、そして奈良県工業技術センターが立ち上がり、「奈良県菩提酛による清酒製造研究会」を発足。
平成8年から研究が開始され、見事に菩提酛を復刻し、平成11年から、その仕込みを公開で行う「菩提酛清酒祭」が始まりました。

…昨年、奈良市にある酒屋「なら泉湧斎」のご主人からこのお話を伺って以来ずっと興味を持っており、年に一度のチャンスを逃すまいと、昨年からスケジュールを確保して、万全の体制でこの日を迎えました。

朝10時前に正暦寺に到着すると、ちょうど米を蒸し始めているところでした。肌を突き刺すような寒さの中、もうもうと立ち上る蒸気。
少し甘酸っぱいような香りがします。

この香りの正体は、乳酸菌。

そう、蒸しているのはただの米ではなく、3日前から水の中に生米の状態で浸水され、乳酸発酵した米なのです

菩提酛を理解する上で重要なのが「乳酸菌」であり菩提酛が現在の速醸酛の酒造りと異なる点は、ズバリ「そやし水(=乳酸酸性水)」を自家製造している点です。

日本酒製造の際には、必ず「乳酸」が必要になります。
それは、酒母や醪の状態を酸性にすることで、雑菌汚染による腐造を防ぎ、アルコール生産に必要な酵母だけを増殖させるためです。
食品に酢を加えると保存性が高まるのと同じように、酸性の環境下では腐敗菌が繁殖しにくくなります。

そのため、かつては天然の乳酸菌を取り込むことで醸造に必要な乳酸を生み出していましたが(乳酸菌とは、乳酸を生産する細菌の総称)、乳酸が生産されるまでの間に雑菌に汚染されるリスクがあり、また、酛すりの作業や長い発酵日数が必要となり、蔵人の体力も消耗するため、現在は醸造用に工業生産された高純度の乳酸を用いる「速醸酛」が主流となっています。

無論、菩提酛の作り方は前者。
写真の住職さんが手にしているのが、まさに天然の乳酸菌たっぷりの「そやし水」。水の中に生米を浸して3日ほど置き、天然の乳酸菌を増殖させたものです。
(余談ですが、こちらの住職さんは雨男らしい。)

ぷくぷく、小さな気泡が立ち、ヨーグルトのようなまろやかで甘酸っぱい香りがします。
菩提酛仕込みならではの甘酸っぱい味わいは、これに由来するそうです。

通常、このように空気中にいる自然の乳酸菌を増殖させるためには、雑菌が繁殖しにくい冬場に酛造りを行う必要があり、"生酛造り"は冬場もしくは低温管理された環境で行われます。

しかし、本来の菩提酛は、夏場に仕込みが行われるのです。

それを可能にするのが、正暦寺に住み着く特徴的な乳酸菌。
そやし水には、夏場30℃の環境でも雑菌に打ち勝つ強力な乳酸菌が存在し、しかも、高温環境下でこそ活発に活動する性質があるそうです。
これは、正暦寺に住み着いている特定の乳酸菌だからこそ成し得ることで、どこでもこの「そやし水」を作ることができる訳ではないのですね。

本来は酒造が困難な夏場に日本酒を製造販売することが可能であったため、秋祭りの需要も重なり菩提酛仕込みの日本酒は飛ぶように売れ、お寺の利益にも繋がったそうです。

なお、研究会では、正暦寺に住み着く3000種類もの微生物を採取し、酵母菌と乳酸菌の存在をしっかりと確認されたそう。ただ、麹菌の存在は確認できなかったため、麹は外部で製造しているそうです。
(むしろ、麹菌がいたとしたら、お寺で麹造りもされたのでしょうか…?ドキドキ。)

菩提酛清酒祭では、一般の方にも菩提酛のことを理解してもらうために、その工程の一部分が公開で行われます。

今回のスケジュールとしては、1/5〜7でそやし水を作り、1/8の菩提酛清酒祭で米を蒸して酛(酒母)を仕込み、1/20に酛が完成。奈良県内のいくつかの蔵に配布されていく流れになるそうです。

公開仕込みでは、そやし水の元となった生米を蒸し、手でほぐし、温度が下がったところで、酒母を仕込むタンクに投入。そやし水と麹を加えるところまで行われます。

同じ酒母を元に各蔵で酒造りが行われ、それらが「菩提酛仕込みの酒」として販売されます。
酒母は同じでも、その後の工程は蔵ごとに異なるため、それぞれ味が異なり、飲み比べてみると面白いです。

<菩提酛清酒一覧>
三諸杉 (ミムロスギ) 今西酒造 桜井市
嬉長 (キチョウ) 上田酒造 生駒市
やたがらす 北岡本店 吉野郡
百楽門 (ヒャクラクモン) 葛城酒造 御所市
つげのひむろ 倉本酒造 奈良市
菊司 (キクツカサ) 菊司醸造 生駒市
両白 (モロハク) 西田酒造 奈良市
升平 (ショウヘイ) 八木酒造 奈良市
鷹長 (タカチョウ) 油長酒造 御所市

菩提酛作りに使用される米は「ヒノヒカリ」という、奈良県特産のうるち米だそうで、正暦寺の裏手の山で栽培されています。
(元々の僧坊酒は、年貢として納められた米が活用されていたそうです。歴史と文化の面白さを感じますね。)

念願だった菩提酛清酒祭ですが、良い意味で地元感が強く、終始一人の住職さんが仕切るという、ゆるゆるとした進行にほっこり。
なぜか餅つきが行われていたり、菩提酛仕込みの日本酒を試飲&購入できるブースは整備係不在でわちゃわちゃだったり、3人までしか乗れない軽自動車で丁寧に送迎してくれたりと、そのシュールさが素晴らしい。
ちょっぴり奇祭っぽくて楽しかったです。
日本酒好きは一度は行ってみるべし!!

また、「酒米アクセサリー」という面白い出店も。
モデルで唎酒師の"ほっぺふき子"さんという方が、日本酒が好きすぎて、その美しさをアクセサリーで再現されているそうです。

山田錦50%、60%という記載は、もちろん精米歩合。なんともマニア受けしそうな作品ですよね。
私もネックレスを購入しました。

ちなみに、酒米というのは酒造免許がないと購入することができないため、ふき子さんは酒蔵でお手伝いをする代わりに、精米した酒米を譲り受けているそうです。

正暦寺は空気の澄んだ綺麗な環境にあり、そやし水はすぐ脇に流れている川の水で仕込まれているそうです。

日本酒を飲むことは、「自然の恵み」と「文化」を頂くことに他ならないですね。やはり、日本の素晴らしさが詰まった誇るべき存在であると、改めて実感しました。

「日本清酒発祥之地」の石碑の前でパチリ。
本物の日本酒の聖地を訪れ、年に一回の貴重な祭事に参加することができ、感無量です。
そして何より、これまで頭の中でフワフワしていた「菩提酛」というものを五感で感じることができ、知識と感覚がピッタリと一致。実感に変わりました。

やはり、フィールドワークは大切ですね。
もうもうと立ち上る蒸気、甘酸っぱい香り、実際に耳で聞く言葉。
経験に勝るものはありません。

私の発酵研究旅はこれからも続きます!!!

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