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ロンドン芸術大学で学ぶ価値。卒業して働いて思うこと。

世界中からデザインやアートの留学先として以前から人気なロンドン芸術大学(University of the Arts London)ですが、10年前、20年前と比べ、近頃は日本人留学生の数が肌感覚でも、在学中の留学生から聞いたお話からとっても、かなり減少している事が分かります。特にここ数年は円安の影響も大きいと思います。

そんな中、ロンドン芸術大学への留学を検討されている方へ向けて、わたしがロンドンでグラフィックデザイナーとして働いている今だから見えてきた母校のプラスとマイナス点、そして、在学していた当時、ローカルの学生としての(私はイギリス育ちなので)経験談やエピソード、最近の再建設プロジェクトと学生たちの抗議デモの話など、留学生とは少々違う視点からの話題を交えながら、個人的にロンドン芸術大学の感想をまとめてみました。

Chelsea College of Arts and Design
(Source: Arts London, Flickr)

もちろん、学ぶ目的はみんな違いますし、コースやカレッジによって状況は異なると思います。政権が変わった今、また色々と変化が起こりはじめています(授業料引き上げなど)。

しかし、いつの時代もある「心構え」イギリスで有意義に学生生活を送るためのであり、ロンドン芸術大学が学生に求めるマインドセットがあります。事前にその心構えがあるのとないのとでは、充実感が違うかと思います。(実際、私も通う前に知りたかった、、、)そのマインドセットもついでに紹介したいと思います。

London College of Communication
(Source: University of the Arts London)

以下のコンテンツで、ローカルの学生として学び、現在ロンドンでデザイナーとして働いているわたしの視点で、少しでも留学を考えている方が留学生活をイメージでき、判断材料になればと思い、noteを書きました。


プロフィール

ロンドン生まれ、ロンドン育ち。
2013年にロンドン芸術大学 London College of Communication で Foundation Course in Art and Design を Distinction(最優秀成績)で取得。
2017年にロンドン芸術大学 London College of Communication で Graphic Design 学科をFirst Class Honours(最優等学位)で卒業。
在学中にフィンランド・ヘルシンキのアアルト大学へ一年ほど交換留学。
卒業後ロンドンのデザイン事務所でグラフィックデザイナーとして働いている。

卒業式で着物をたくさんの方に褒めていただき、嬉しかった記憶が蘇る。
一番右の同級生はマレーシアの民族衣装。国際色豊か。

ロンドン芸術大学(UAL)とは

美大といえば、ロンドン芸術大学・University of the Arts London(UAL)というくらい、イギリス国内でも知名度は高いですが、世界的にも有名な大学です。

London College of Fashion(Source: Photo by Simon Menges, Architecture Today)

アートデザインファッションコミュニケーションなどの分野を中心とした、6つの国立の芸術系単科大学(カレッジ)からなる大学(連合体)。
大学・大学院には、英国に限らず世界100カ国以上の国々から24,000名に上る学生が在籍しており、ヨーロッパ最大規模の芸術系大学・大学院(連合体)のひとつである。卒業生からは、ロンドン芸術大学名誉教授でもあるジミー・チュージョン・ガリアーノアレキサンダー・マックイーンステラ・マッカートニージェームズ・ダイソンテレンス・コンランジャーヴィス・コッカーら、著名アーティストやデザイナー、クリエイターを多く輩出している。

Source: Wikipedia

この大学(連合体)に所属している6つのカレッジは以下。それぞれに特化している分野、ハウススタイル、特色があり、学校や通っている人の雰囲気や服装も違う。

セントラル・セント・マーチンズ (Central Saint Martins)
ロンドン・カレッジ・オブ・ファッション (London College of Fashion)
チェルシー・カレッジ・オブ・アーツ (Chelsea College of Arts)
キャンバーウェル・カレッジ・オブ・アーツ (Camberwell College of Arts)
ロンドン・カレッジ・オブ・コミュニケーション (London College of Communication)
ウィンブルドン・カレッジ・オブ・アーツ (Wimbledon College of Arts)

Source: Wikipedia

そしてここ数年、ロンドンの新たな街づくり計画とともに、次々とUALのカレッジの校舎が再建設されている最中なのです。大学としても大きな変容を迎える分岐点にいるようで、それに伴い、コースの内容も、学生生活も大きく変化しているようです。

2027年9月に完成予定の London College of Communication の新しいキャンパス
(Source: University of the Arts London)

ロンドンの再開発とUALの再建設(CSM, LCF, LCC)〜
進化する大学と学生への影響。

UALはもう10年以上前から、施設の向上、創造的な学習のための環境改善、増加する学生数に対応するため、いくつかの再開発と拡張プロジェクトを進めています。ここでそれらのプロジェクトを少し紹介したいと思います。

Central Saint Martins (Source: Dazed Digital)

UAL内でも特に有名なカレッジであるセントラル・セント・マーチンズ(CSM)は、2011年にキングス・クロスグラナリー・ビルディングに移転して以来、再開発が行われてきました。この再開発で、歴史的な産業ビルをアート、デザイン、ファッション学科の学生のために最先端のキャンパスに変貌。他のカレッジの学生も使える図書館はとても充実しており、隣接している商業施設「コールドロップスヤード」もさまざまな店舗が揃っており、キングス・クロス駅からはユーロスターが走っているなどと、ここ10年でとても便利なエリアに様変わりしました。

2023年9月に完成したLondon College of Fashionのキャンパス
(Source: Photo by Simon Menges, Architecture Today)

そして去年、2023年9月に完成したロンドン・ファッション・カレッジ・オブ・ファッション(LCF)の新キャンパスは、東ロンドンのストラットフォードにあるクイーン・エリザベス・オリンピック・パークに建設されました。

新しいキャンパスには、ファッション学生向けの拡張された教育スペース、ワークショップ、デジタルファッションラボなどが整備され、業界標準の設備と実践的な学習ができる環境が提供されるそう。

さらに、ロンドンのクリエイティブ産業の中心地に位置することになり(隣にはV&A やBBCの新施設)、他分野の企業とのコラボレーション機会が提供され、学生としては素晴らしい経験に恵まれそうです。詳しくは公式サイトをご覧ください。

2027年9月に完成予定の London College of Communication の新しいキャンパスはElephant and Castle の再開発計画の一環(Source: University of the Arts London)

2027年9月に完成が予定とされている、ロンドン・カレッジ・オブ・コミュニケーション(LCC)の新キャンパスは、ロンドン南部のエレファント・アンド・キャッスル駅真上に今現在、建設作業が行われています。

エレファント・アンド・キャッスルという街は、今まさに再開発されている最中。新しい住宅、ビジネス、文化的なスペースが誕生する予定のこのエリアは、ロンドンのクリエイティブ産業とイノベーションの中心地になることを目指しているそう。

そしてその再開発プロジェクトの一環として掲げているのが、「クリエイティブ・エンタープライズ・ゾーン(CEZ)」というプロジェクト。これは、ロンドン南部でクリエイティブ産業を育成し、クリエイティブ・コミュニティのハブを創造するというヴィジョンの元計画されている。UALはその中心的な役割を果たす予定で、学生たちは企業とコラボし、実際のビジネスシーンでの機会を得ることができるそう。詳しくは公式サイトをご覧ください。

新しいLCCのキャンパスは、Elephant and Castle のクリエイティブハブ計画の一環
(Source: University of the Arts London)

エレファント・アンド・キャッスルと聞いて、あまりピンとこない方が多いかと思います。ロンドンのテムズ川を渡った南側に位置しており、実は近年のロンドンにおける都市開発・ジェントリフィケーション(高級化)の象徴的な地域の一つでもあります。この地域は、かつては比較的低所得者層が住む地域であり、住民の多くは移民系のコミュニティが中心でした。昔の在英邦人コミュニティーの間では、「テムズ川の南に渡ってはいけない」と言われていたくらい以前は怪しいエリアでした。

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