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『ジェンダークレーマー』定義の改訂について

1.はじめに

 本稿は、天路めあさんが令和4年2月1日にnoteで提唱された「ジェンダークレーム/ジェンダークレーマー」という概念について、神崎ゆきさんが令和4年4月6日に公開された『ジェンダークレーマーの定義』の内容を踏まえて、その定義の一部改訂を告知するものです。

 わたしは5名からなる定義策定チームのうちの一人、はるかかなたと申します。

 本改訂は定義策定チーム5名(神崎ゆきさん、天路めあさん、手嶋海嶺さん、とつげき東北さん、はるかかなた)によって話し合われ、最終的に神崎ゆきさん、天路めあさん、手嶋海嶺さん、そしてわたし・はるかかなたの4名の連名においてその改訂を公表するものです(とつげき東北さんは定義に関してこれ以上関与しないとのスタンスで、現在はかかわっていらっしゃいません)。

 定義策定チーム総意としての投稿になりますが、チームの一員として今回はわたしが代表して筆を執らせていただきました。

2.改訂内容

 本稿により『ジェンダークレームの定義』を以下の通り一部改訂するとともに、最後段に「なお書き」を追記します(改訂および追記箇所に太字処理を施します)。

<改定前>
【ジェンダークレームの定義】
 ジェンダーの観点から、表現者、表現の監督者・責任者、表現の掲載媒体又は表現の消費者等に対して、女性の権利等を根拠に強く訴えられる一連の主張のうち、現状まで公的に認められていた権利の基準を少なくとも実質上、表現者側に不利に変更する内容のものをいう。

 ただし、自然科学的研究等、公的に正当とみなされる手法に基づく学術研究又は事実認定により、その主張に係る正当性の担保が取れる場合にあっては、この限りではない。

 なお、ジェンダーの定義は、独立行政法人JICAによる、「社会的・文化的につくられる性別」に基づくものとし、この定義に逸脱しない範囲において、同様の定義を認める。

<改定後>
【ジェンダークレームの定義】
 ジェンダーの観点から、表現者、表現の監督者・責任者、表現の掲載媒体又は表現の消費者等に対して、社会的性別(ジェンダー)に基づいた権利等を根拠に強く訴えられる一連の主張のうち、現状まで公的に認められていた権利の基準を少なくとも実質上、表現者側に不利に変更する内容のものをいう。
 
 ただし、自然科学的研究等、公的に正当とみなされる手法に基づく学術研究又は事実認定により、その主張に係る正当性の担保が取れる場合にあっては、この限りではない。
 
 ジェンダーの定義は、男女共同参画基本計画にある『社会通念や慣習の中には、社会によって作り上げられた「男性像」、「女性像」があり、このような男性、女性の別を「社会的・文化的に形成された性別」(ジェンダー/gender)という』に基づくものとし、この定義に逸脱しない範囲において、同様の定義を認める。

 なお、ジェンダー概念そのもの、あるいは公的機関が推進するジェンダー諸施策においては女性の権利拡張を趣旨とするものが多い一方、本定義においては男性と女性および性的マイノリティーは表現の自由において平等に扱われるべきことを本旨とする。

3.改訂理由

 改訂理由は以下の通りです。

  1. 当初定義における「女性の権利等を根拠に強く訴えられる一連の主張~」の箇所は、女性の権利"等"のうちに「男性や性的マイノリティーの権利を含むか否か」という点において異なる解釈の余地がありました。

  2. 「社会的性差に関わらず、表現の自由において表現者は公正かつ平等に扱われるべきことが望ましい」と考える定義策定チームの理念を改めて明示するべく、「女性の権利等を根拠に強く訴えられる一連の主張~」の箇所を「社会的性別(ジェンダー)に基づいた権利等を根拠に強く訴えられる一連の主張~」へ変更しました。

  3. ジェンダー概念を巡る社会環境は国別に大きく異なるという実情を踏まえ、ジェンダーの定義の参照元をJICAの定義から、(本邦の個別事情を十分踏まえていると考えられる)男女共同参画基本計画によるジェンダーの定義へ変更しました。

  4. ジェンダーという用語を踏まえてはいますが、定義策定チームが「ジェンダー平等の趣旨に反する女性の権利拡張」に対して問題意識を共有していることを改めて確認するため、ジェンダー平等を強調した最後段を追記しました。

4.改訂の影響と個別対応

 本稿の改訂によって以下の通りの影響が想定されることから、個別対応を実施する予定でおります。

(1)「女性の権利」に基づいたジェンダークレーマーの定義だからこそ賛同された、という方々の不服・不満

 「女性の権利」に基づいたジェンダークレームは主にフェミニストによって行われるとの認識から、フェミニストに対する有力な対抗言説として「ジェンダークレーム」の定義にご賛同いただいた方々におかれては、本稿の定義改訂に不服・ご不満を感じられる可能性があります。

 noteやtwitterなどのSNSを通じて当初定義にご賛同をお示しいただいた方々には本稿の改訂をご確認いただいた上、改めてジェンダークレーマーの定義に賛同するかどうかをご判断いただく権利がございます。従いまして定義策定チームより以下の個別対応を取らさせていただきます。

①定義策定チーム4名(神崎ゆきさん、天路めあさん、手嶋海嶺さん、はるかかなた)より定義改訂にかかる告知ツイートを各自行い、周知徹底を図ります。

②ジェンダークレームの当初定義につき、提唱者である天路めあさんに個別質問をいただいた方に対して、DMかリプライにて通知を行います。 

③神崎ゆきさんの当初定義note(令和4年4月6日付)を告知するツイートに対して「いいね」をつけた方に対して、DMかリプライにて通知を行います。

④神崎ゆきさんのnote(同上)に「スキ」をつけた方のうち、Twitterアカウントをお持ちの方に対して、DMかリプライにて通知を行います。

(2)新たにジェンダークレーマーに該当される可能性のある方々
 本稿改訂により性差に関わらず、ジェンダーの観点から行われる表現者等へのクレームやバッシングはジェンダークレームに該当します。

 わたしたち定義策定チームは言うまでもなく、他者の言論を制限する権限を持たないことを自覚したうえで、正当性の担保が取れない表現規制には抵抗的な態度を取っています。

 本稿改訂により誰かによってジェンダークレーマーだと認定されてしまった方々におかれましては科学的・論理的な妥当性をお示しいただき、ご自身の主張の正当性について客観的にご疎明いただいた上、ご反論いただきますようお願い申し上げます。

 表現者側の権利にとって不利な変更を要求するものであっても、「自然科学的研究等、公的に正当とみなされる手法に基づく学術研究又は事実認定により、その主張に係る正当性の担保が取れる場合」、わたしたちは例外的にジェンダークレームに該当しないと規定しています。

5.改訂がなされない箇所の再確認

 定義に関しては一部改訂を加えましたが、『ジェンダークレームの分類』には変更ありません。

 具体的にジェンダークレームを判定する際の指針となるカテゴリーですので、再掲致します。

【ジェンダークレームの分類】
①科学的・論理的な妥当性に乏しい根拠をもとに、表現や表現者を性差別や犯罪等と関連づけ、相手やそのファン・顧客をバッシングするもの。

②性的な事柄に関する生理的嫌悪感の発露や相手の人格否定を露骨に表明するもの。

③表現者やそのファンについて、性別や内心、意図を一方的に決めつけるもの。

④対象とする表現物の主旨・テーマに関わらず、「私たちが考える正しい性教育・性道徳」の宣伝媒体となる責任を求め、表現の修正や撤回を要求するもの。

⑤背景や文脈から作品や発言を切り取り、性的に曲解して非難するもの。あるいは言葉狩り。

6.改訂の効果

 本稿の改訂によって例えば以下のケースがジェンダークレームに該当することが明確化されました。

(1)子育て/性転換をテーマとした漫画に対するバッシング

 当該ツイートに対しては、一例としてこのような引用ツイートが確認されています。

これ「自分」が「自分」の妻になっていたという設定なのに、そこ破綻してて完全に「妻=作者のま●この絶叫」そのまんまでワロタ。中身男ならコミュニケーションがここまで壊滅的にはならんだろw  

 「作者のま●この絶叫」という性差別的な表現は、作者の人格を女性器に貶めてバッシングしている点においてジェンダークレームに該当します。

 従来の定義でも、【「作中人物=作者のち●この絶叫」そのまんまでワロタ。】という難癖はジェンダークレームに該当していたことを踏まえると妥当な結果であると考えています。

(2)BL漫画に対する表現規制強化の要求

 当該ツイートに対してはこのような引用ツイートが確認されました。

たいへん申し訳ないんだけど、エロですらない男性向け作品のコラボを腐女子も兼ねているフェミニストがさんざっぱら燃やしてきた歴史があるので、その被害者である我々としては、「BLも大人しくゾーニングされてください」以外の感想が無いです。それが平等ってものでしょう。

 「表現の自由は、最も規制されているジャンルを基準として平等に規制強化されるべきである」という主張は、表現者全体の権利を著しく不利に変更します。

 BL作家のツイートの主訴は東京都の不健全図書指定制度に対する疑問の声でした。都の同制度は法学界より、表現の自由の観点から違憲の恐れがあるとの指摘も少なくありません。

 「BL漫画についても成人指定(ゾーニング)を受けるべき」との主張は、一見すると男女平等と言えるかもしれません。

 しかし性別(ジェンダー)に関わらず、「性的な表現に対する公権力の恣意的な規制には反対していく」というわたしたちの基本方針に鑑みれば、「一部のBL作品は不健全図書指定のみならずレーティング規制をも受けるべき」との当該ツイートの主張は学術的な根拠に基づいているとはいえず、表現者から見たジェンダークレームに該当すると判断します。

 定義策定チームは、アニメ・イラストにおける表現の自由について、「最も規制されているジャンルに合わせて範囲を狭めること」ではなく、「最も規制されていないジャンルに合わせて範囲を広げること」を基本イメージとして共有しています。

7.ジェンダークレームに該当しないもの

 ジェンダークレームには該当しないものの、ジェンダークレームが関連するようなケースについても考え方を共有します。

 再確認になりますが、改定後のジェンダークレームの定義は以下の通りです。

【ジェンダークレームの定義】
 ジェンダーの観点から、表現者、表現の監督者・責任者、表現の掲載媒体又は表現の消費者等に対して、社会的性別(ジェンダー)に基づいた権利等を根拠に強く訴えられる一連の主張のうち、現状まで公的に認められていた権利の基準を少なくとも実質上、表現者側に不利に変更する内容のものをいう。

 以上の定義を踏まえ、先日観測された次のようなケースがジェンダークレームに該当するかどうかを判断します。

 (イラストレーターの方の元ツイートが削除されているため、スクショを残した第三者のツイートを引用します)

 当該ツイートに対しては次のような引用ツイートが確認されました。

 フェミニストのみなさん、出番ですよ!
 早くこのポスター廃止に追い込んでくださいよ。

 今回のケースの場合、「フェミニストのみなさん」「早くこのポスター廃止に追い込んでください」という要求は、「表現者、表現の監督者・責任者、表現の掲載媒体又は表現の消費者等」その人に対して行われたものではありません。従ってジェンダークレームには該当しないと判断します。

 一方で、もしこの投稿の主張が実現した場合、その呼びかけに呼応した者が行ったであろうポスターの廃止要求はジェンダークレームに該当します。その意味で、この種の投稿は他者によるジェンダークレームを呼びかけ、唆(そそのか)しているため、ジェンダークレームの教唆に該当すると整理します。

 (なお「教唆」には法律用語として「犯罪などを犯すように仕向けること」という意味を持ちますが、それ以外の用法として「あることをするように唆すこと」との意味があり、本noteでは後者の意味で用いています。)

 ジェンダークレームの呼びかけ/教唆/そして扇動は、ジェンダークレームそのものに引けを取らぬほど表現者にとっての迷惑行為、表現の萎縮行為になりえます。こうした問題意識についても共有させていただければと思います(実際にこのイラストレーターの方はジェンダークレームの教唆/扇動を受けた結果、このイラストを取り下げ、最終的にはアカウントに鍵をかける事態に至ってしまいました)。

8.最後に

 本稿の改訂は、ジェンダークレームが拠って立つ根拠を「女性の権利」から「社会的性別(ジェンダー)に基づいた権利)」へと拡張することが主眼となっています。

 一方で、特定の属性(フェミニズム/フェミニスト等)を擁護するために本稿の改訂を行ったわけではありません。また同時に特定の属性を貶めるためでもありません。

 ジェンダークレームが「行為」に基づく定義であることは、改めて強調させていただきたいと思います。

 ジェンダークレーマーという言葉が提唱され、このように厳密に定義が検討されてきた背景には定義策定チームが共有する明確なビジョンがあります。

 以下、神崎ゆきさんの当初定義策定noteから引用します。

ジェンダークレーム、ジェンダークレーマーは「表現の自由」および「誹謗中傷」に関する社会問題を取り扱うために、提唱された言葉です。
このことを重々ご承知置きの上、くれぐれも「中身の無いレッテル」にならないように気をつけて、運用していただけると幸いです。

 そもそも『ジェンダークレーム/ジェンダークレーマーは「表現の自由」および「誹謗中傷」に関する社会問題を取り扱うために提唱された言葉である』、という原点を再確認させていただきます。

 その際、政治的思想や属性を主軸に据えてしまうと本質を見失いかねません。その人物の内心がどうであれ、あるいは自称している属性が何であれ、その人物が行ったジェンダークレームが免責されるわけではありません。

 人々の自由と尊厳を奪うのは、具体的に表で現れた「迷惑行為」であるからです。

 ジェンダークレームという、特定の職業や趣味を持った方々の自由や尊厳を毀損させる行為に対してわたしたちは危機感を抱いています。

 それと同時に自分たちがクレーマーに陥ってしまわないよう、わたしたちは自分たち自身にストップをかけなければなりません。

 このことを重々ご承知置きのうえ、くれぐれも「中身のないレッテル」にならないように気をつけて運用していただけると幸いです。

 本改訂が、ジェンダーの観点から行われるクレームやバッシングに対するモヤモヤをみなさんが言語化する一助となりますように。

 わたしたちの試みが、ジェンダークレームという社会問題を解決するためのささやかな貢献になることを心より願っています。

―ジェンダークレーマーの定義策定チーム
 神崎ゆき、天路めあ、手嶋海嶺、はるかかなた。

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