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スタートアップとの共創でデジタルツインを加速させる大林組の挑戦

「MAKE BEYOND つくるを拓く」をブランドメッセージに掲げ、建設、都市開発における革新を重ねてきた株式会社大林組(以下、大林組)。2020年よりPlug and Play OsakaのファウンディングパートナーとしてSmart Citiesプログラムへ参画後、Champion*としてプログラムを担当されるお二人に、スタートアップとの取り組みについてお話を伺いました。


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土木本部生産技術本部 先端技術企画部 技術第一課
同 本部長室i-Conセンター現場支援第三課
湯淺 知英 (Tomohide Yuasa) 氏(写真左)

夢洲開発推進本部 大阪関西万博・IR室
安東 政晃 (Masaaki Ando) 氏(写真右)
*Championとは・・・Plug and Play Japanが提供するアクセラレータープログラムに参画する企業パートナーの担当者の呼称。プログラムの窓口として、スタートアップと事業部門とのビジネスマッチングやPoC案件におけるニーズヒアリング、プロジェクトマネジメントなどに携わる。基本的に各企業2名体制でChampionを担当する。

ーーそれぞれの所属部門における活動内容についてお聞かせください。

湯淺:私は今、土木本部内で新しい技術を導入するための企画部門である先端技術企画部に在籍しています。また、東京大学内に設置された「i-Constructionシステム学寄付講座」の共同研究員という立場でも活動しています。こちらは、建設業にイノベーションを起こすための各民間企業や大学の先生方で構成された組織です。こうした社内外の活動を通して幅広いニーズを拾いつつ、Plug and Play Japanのプログラムを通して得られる情報を、弊社の課題解決を目指す研究開発メンバー等にうまくつないでいくことが私の役割と考えています。

安東:私が所属する大阪関西万博・IR室は、万博への積極的な参画と夢洲開発への貢献を目的に活動しており、大阪におけるスマートシティの推進・実装に絡めながら、万博に向かっていく「共創」を幅広い形で模索しています。

3つのステップを描く、3社との共創プロジェクト

ーーPlug and Play Japanのプログラムを経て立ち上がった共創プロジェクトについて教えてください。

湯淺:現在、施工段階の建設現場におけるデジタルツインに関連するプロジェクトが進行しています。アナログ情報をデジタル化してデータ基盤を構築する「デジタイゼーション(Digitization)」、取得したデータをAIなどの技術を活かして活用し、業務プロセスを刷新する「デジタライゼーション(Digitalization)」、デジタルツインの基盤構築を経て、新たな価値・体験を創出する「デジタル・トランスフォーメーション(DX)」、これら3つのステップを意識して取り組みを進めています。

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大林組との実証実験を開始したスタートアップ3社。
(左から)BeeInventor Ltd.、Qlue Enterprise Pte. Ltd.、Kinix株式会社

それぞれのスタートアップ企業との協業内容について:

BeeInventor Ltd.

◼スタートアップ事業概要
香港発、建設プロジェクトの効率化を目的とし主に作業員の位置や生体情報管理・監督用に資するプラットフォームの提供

◼プロジェクト概要
大林組の台湾の土木工事現場にて半年間のPoC契約を締結。BeeInventorが開発するウェアラブルIoTヘルメットを導入し、建設現場における作業員の位置情報や生体情報をリアルタイムにデジタル化。加えて、ヘルメット着用者ににアンケートを実施して使い勝手や持続性を検証。

◼取り組みに関するコメント
台湾にある建設現場で活用して、性能や使い勝手を確かめることができました。今後の目標は、国内市場に展開することです。作業員のプロダクトの技術要素の向上もさることながら、法規制や制度などによる障壁も大きいため、いかにそれを克服できるかが現在の課題です。

Qlue Enterprise Pte. Ltd.

◼スタートアップ事業概要
ジャカルタ発、AIやIoT技術を活用した地域の情報収集・共有アプリの提供

◼プロジェクト概要
大林組が3Dまちづくりプラットフォーム「SCIM®️」の研究開発に取り組んでいる横浜市綱島のTsunashimaサスティナブル・スマートタウン(綱島SST)にて、Qlue Enterprise社の映像分析技術を活用したまちの防犯サービスの実証を推進。現地に設置したカメラの映像データをAIに機械学習させた後、実フィールドにおいて不審者や不審物の自動検知を実施予定。

◼取り組みに関するコメント
複数部門から協業案が出ていましたが、スマートシティソリューション部と先行して実証実験を行っています。本格実証に向けて、複数部門との横断プロジェクトも検討したいです。

Kinix株式会社

◼スタートアップ事業概要
運動の促進を支援するエクササイズゲーム・プラットフォームの提供

◼プロジェクト概要
Kinix社が提供するホームサイクリングによるeスポーツゲームを楽しみながら、利用者の健康状態をチェックができるという技術を、建設現場における作業員の健康状態把握に応用するための実証実験を実施。「技術×スポーツ×建築」という新規事業創出に向けたプロジェクトともいえる。本案件に関する内容は、2021年3月18日に開催したWinter/Spring 2021 Osaka EXPOのパネルディスカッションで紹介。

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Plug and Play Osaka Batch 1 EXPOにて、大林組と株式会社Kinixによるパネルディスカッションの様子(2021年3月18日撮影)

◼取り組みに関するコメント
大阪関西万博・IR室から本取組が始動し、2025大阪・関西万博の大阪パビリオンへの提案を行う「REBORNコンテンツ発掘PROJECT」にてプロジェクトを発表。208件の応募から選抜され、OSAKA REBORN賞を受賞しました。現在は展示会の出展準備やプロジェクトを本格始動させるため、社内・社外を問わず賛同いただけるメンバーを幅広く集めると同時に、本事業のビジネスモデルや投資を得るために必要な活動を準備しています。一から新しいプロジェクトを推し進めることができ、チャレンジングかつエキサイティングな活動だと思っています。

デジタルツインの本質的な価値とは

ーー短期間でスタートアップとの取り組みを加速されていますが、デジタルツインの実装に注力される理由についてお聞かせください。

湯淺:建設業は他産業と比較してもアナログな業務フローがまだ多く、生産性が低いといわれている建設業にとって、デジタルツインはICT技術を駆使して現場の生産性向上の基礎となるもの・取り組みです。
デジタルツイン自体は、あくまでも業務改善のための新しい「道具」に過ぎないと考えております。しかし、その実装なくしては、その先のデジタル・トランスフォーメーション(DX)の実現ができないというのも事実です。DXを進めるうえでの一番のボトルネックは業界の垣根や役割を見直し、意識を変えていくことだと思います。特に産業全体の課題を俯瞰してオープン・プラットフォームを構築するなど、他産業の力も最大限に活用しながら、できるだけ早急に実現させたいと考えています。

ーーPlug and Play Japanのプログラム参画後、どのような発見がありましたか?

湯淺:社内組織としての課題が見えてきました。現場の課題やニーズを引き出すことが実務者レベルで仕組み化されていなかったり、シーズを探索する部門が必ずしも課題を明確に把握していなかったり、その調整を担う役割や担当者が社内で定義づけされていないなど、恥ずかしながら課題がいっぱいです。Championはスタートアップと自社をつなぐ第三者的な立場だと考えていましたが、スタートアップ側と事業部門側の両者のニーズと事情をふまえたうえで、しっかりと聞かなければいけないことが担当してみてより鮮明になりました。

安東:スタートアップとの協業を推進するにあたり、大林組側のカウンターパート(協業を担う事業部門の担当者)を見つけることも一筋縄ではいきませんでした。社内では様々な技術開発やプロジェクトが様々な部門で推進されていますが、スタートアップとの協業といった事例は社内的にも経験や前例が少なく、日々の業務と並行して取り組んでいくにも様々なハードルがありました。それらを越えていく「熱意」がスタートアップとの協業においては重要だと感じますが、そういった熱意を持った担当者は社内体制として整理されておらず、人づてに探し回ったというのが実態でした。逆に言えば、熱意を持った担当者と出会えたことも、アクセラプログラム参画によって得られた「発見」と言えるかなと思います。

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Plug and Play Osaka Batch 1 EXPOにて、全社的な取り組みとしてプログラムの構築から運営まで精力的にご支援いただいたパートナー企業を表彰する"Corporate Innovation Award"表彰時の様子。42社の企業パートナーから3社が選出され、大林組が受賞されました。(2021年3月18日撮影)

ーー今後、どのような活動に取り組んでみたいですか?

湯淺、安東:建設業界は、今まで物理的なインフラを長らく支えてきた産業だと思います。またデジタルやサイバーと一番かけ離れた産業だとも思います。しかし、人類にとって本当のイノベーションとは、そのインフラの根底が変わることではないかなと個人的には思います。またデジタル化が進むことで、物理的な制約条件から解放されるので、今まで人が経験したことがないような体験やワクワクを、シティーレベルで提供することがゴールかと思います。

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湯淺さん、安東さん、ありがとうございました!

Plug and Play Japanでは業界トレンドやスタートアップインタビュー、Case Studyなどを日々アップデートしています。公式Websiteはこちら

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