355.高いところから街を見下ろすと
今まで知らなかったけれど、オフィスビルの屋上が開放されていました。
いろんなパイプが伸びて足元に張り巡らされていましたが、歩けなくはありません。
狭い場所でしたが、屋上の四隅から周辺を眺めることができました。
ここは10階相当の高さの建物の屋上。
港区の建物としては全然高くない部類の建物のはずなのに、見る方角によって景色が広がっていたり、ビルが立ち並んでいたり、いろんな風景を目にしました。
最近、こうしたことをしていなかったな、と思いました。
目の前のPC画面ばかり、スマートフォンの画面ばかり、目の前の人ばかり……。
遠くを見る、というシンプルなことを実行したのが、随分久々だなと感じました。
高いところから、街を見下ろしてみます。
遠くには真夏を象徴するような分厚い入道雲が見えました。
頭上は晴天で、眩しく暑すぎて見上げることもできないほど。
夏でした。
夏を感じていました。
まるで何かの物語のような、今日の昼下りの出来事。
広い視野を思い出すように
あまりに多くのことが、この二ヶ月間で巻き起こりました。
アクシデントもありました。
迷惑もかけました。
やっていないことや溜めていたことがここぞとばかりに襲いかかってきて、にっちもさっちもいかなくなりました。
何度も何度も、謝りました。
かと思えば、大事な仲間と呼べる人も生まれました。
仲の良い人達と、思い出になるような場所へ行き、思い出になるようなことをしました。
そこは海が近くて、波の音が聴こえました。
星空がまるで田舎のように綺麗でした。
運動もしました。
野球で貴重な人のつながりもできました。
一つ達成もしました。
絶好調だね、と言われる度に取り繕うように明るく振る舞おうと感謝を持って返事をしました。
新しい仲間とは、綱渡りのような繊細なコミュニケーションを実践しています。
目の前で起こる出来事が、あまりにも鮮烈で、ときに美しく、ときにナイフを突きつけられているように危うく、とにかく目まぐるしかった。
目の前のことにいっぱいいっぱいになって、何を考えているのか、何に取り組んでいるのか、よくわからなくなっている感覚も何度もよぎっていました。
そんな感覚を、たった広い景色を見るだけで一掃してくれるような気が起こりました。
高いところから街を見下ろすと、僕は僕の中の何かから解放されるような、僅かながらそんな想いを抱いていました。
景色は何を解放してくれたのか
完全に解放されたかどうかは今後の僕の行動次第ですが、思ったことはたくさんありました。
まず、見渡した世界は結構遠くまで広がっているということです。
歩いていると、歩ける距離しか見えません。
すぐ先の道がせいぜいなのです。
田舎だったら違うかもしれませんが、ここは東京の23区内なのでそうそう視界が広がることはありません。
その段階ですでに、こんな遠くを見るのが久々だ、と感じていました。
当たり前すぎてこれ以上なんとも表現できないのですが、深い想いも何もなく単に遠くを見た、ということに感情が揺れ動いていたのです。
続いて、下を歩く人の姿が見えました。
どこかの屋上か屋根で作業をしている人も見えました。
ビルが無数に見えます。
このすべてに、人がいるんだということを感じました。
ビルも誰かが建てて、そしてその中で誰かがいる。
車も勝手に動いていないから、何かしらの人生を歩んでいる人が中にいる。
自分は、自分と目に入る人ぐらいしか最近考えることもありませんでしたが、東京には結構な数の人がいます。
みんなそれぞれの人生があって、めちゃくちゃ順風満帆の人もいれば、もがき苦しんでいる人もいて、無風のように日々を淡々と過ごしている人もいるでしょう。
僕の人生はその中の一つで、卑屈になっているわけではありませんが思っているよりも矮小なものなのだ、と自覚しました。
タスク一つに悩んでいても、世界はいい意味で何も変わらない。
やっても、やらなくても、真夏の太陽に熱されている世界は変わらずに進み続けます。
清々とした諦念を感じました。
何でもいいじゃないか、とにかく行動して、やれば、と。
何を気にしているのかわかりませんが、モタモタすることはありません。
思うがままに進み、悩み、信じて、新しいことに挑戦し続ける。
そういう人生でいいじゃないか、と。
そのように思えました。
何かがストッパーで、理屈ではわかっても踏み出し続けられない自分がいました。
もしかして、その姿勢が鏡となってここ二ヶ月間の出来事として僕の前に現れてきたのかもしれません。
止めるものは何もありません。
たった10階上がっただけで、こんなにも遮るものもなく世界を見渡せるのだから。
何が僕の心に引っかかっていて、何が動きを鈍化させていて、何を気にしているのか言葉にしきれませんが。
この景色に比べたら狭いもんだなぁ、と。
入道雲が遠くに見えます。
セミの合唱が鳴り響きます。
頬に感じる日の光は、とても熱い。
このまま映画でも始まってしまうんじゃないだろうか、というような真夏の東京。猛暑の世界。
さあ、行こう。
行動しよう。
やってみよう。
この世界の面積よりも、僕の未来の方がずっと広いのだから。