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豚提督オジャム7 サイレント ネオ-ムーン ソング

うっそうと生い茂る暗い森の中に不自然に現れたのは、要塞のような建物だった。
灰色のぶあつい壁で囲まれており、まるで監獄にさえ見える。
もちろん、オジャムはこの施設がなんなのか全く知らなかった。
それどころか、武装商船の2人の人買いも、詳しくは何なのか知らなかったのである。
わかっていることは、この施設では10歳~18歳までの子供を、やたらと集めているということだけだった。
しかも、恐ろしいことに、ここに入って出てきた者は1人もいないと言われるいわくつきの建物だったのである。

ひげの商人はオジャム以外の子供をひきつれて、外に出ていく。
子供たちはみんな背を丸めて、とてもさみしそうに出て行った。
いつも人差し指を加えているサシャもつれていかれる。
サシャはじっとオジャムを見ていた。
オジャムは立ち上がって「さっちゃん!」と手を伸ばしたが、どうにもならなかった。

窓の外には軍人が何人もいて、子供たちを順番に数えて、ゲートの中に招き入れていく。
しかし、サシャだけはゲートの前で止められて、中に入れずに立っていた。
「上出来だ、しかし、この子供はあまりに小さすぎる。10歳以上というのが決まりだ」
軍人たちの上司らしきかっぷくの良い男がひげの商人に話しかけた。
「申し訳ございません。何分、子供を集めるのもなかなか難儀でして…しかし、この子は素性は申し上げられませんが、それはいい身分の子供です。ええ、間違いありませんよ!」
ひげの商人はすっかり軍人の前では態度を豹変させ、下手に出てへいこらしている。
「ほう…しかし、まだ5,6歳であろう…研究には不向きだ、この子はとても耐えられない。連れて行け」
「分かりました。しかし、子供集めには銭がかかります。どうか、約束通りお金は払っていただければと…」
ひげの商人が両手を差し出した。
「ふん、二言目には金、金、金…どいつも、こいつも、同じことばかりいう」
不機嫌そうに軍人が吐き捨てる。
「へえ、申し訳ありませんね、旦那。しかし、こちとらも生活して、家族を養わねばなりませんで」
「…仕方あるまい。しかし、10人という約束は守っておらん。報酬は半分だ」
軍人が言うと、ひげの商人は驚きと怒りを隠せなかった。
「そ、それはあんまりですぜ、旦那! ここまでの輸送費やら子供を手に入れるのにかかった費用、半分ではこちらが大赤字ですよ!」
「しかし、約束は約束だ…」
「そんな……そうだ、もしものことを思って、とっておきを用意しておきました。おい!」
ひげの商人がいうと、目つきの悪い男がオジャムを部屋から連れ出した。

「旦那、ごらんください。この肥えよう。こう見えても、なかなかしぶとそうな子供でしょう。砂漠の中をさまよっているところを引っ掴まえました。
本来なら奴隷として売り払う方が高く売れるでしょうが、今回は特別ですぜ! 煮るなり焼くなりしてください。きっといいだしが出ます!」
などと、ひげの男が不吉なことを次から次へと口走った。
軍人はじろじろと足元から頭に目をやり、オジャムの品定めをし始めた。
「ふーむ、年齢は?」
オジャムではなく、ひげの男が間髪入れずにこたえる。
「歳は17歳です。ええ、先月17歳になったばかりですとも」
「なるほど…それで、名前は…」
「え、名前ですか…名前はその、えーと…」
とひげの男が慌てる。
「…まあ、いい。ここに入れば名前などあってないようなものだからな」
軍人は子供の多くが売られてくるのを知っているので、それほど名前を重要視していなかった。
「それで、お前は今まで何をしていた?」
軍人がオジャムにたずねる。
「えーとですね、こいつは…」
とひげの商人が間に入るが、
「貴様に聞いておらん、黙れ!」
と軍人が怒鳴った。
全員の視線がぼろ衣をまとったオジャムに集まった。
オジャムは大きく息を吸うと、
「余は提督である、頭が高い、控えおろう!」
といつもの決め台詞をはいた。
すると、軍人はあきれて言った。
「この子はだめだ。どうみても、頭がおかしい。これでは実験に使えん、連れて行け。報酬は7割とする。これが不服なら、この場で貴様らをつかまえて豚箱にぶちこんでもいいのだぞ!」
有無を言わさない口調の軍人。
商人はすごすごひきさがり、7割の報酬を受け取らざるを得なかった。

商船に戻ると、明らかに2人の男は機嫌が悪かった。
7割の報酬では儲けがほとんど出なかったからだ。。
それもこれもオジャムのせいだと、2人は憎しみの目を向けていた。
「このデブにしろ、チビにしろ、ついてねえや」
「本当そうだ」
「チビなんざ相当危ない橋を渡って捕まえてきたというのに…無駄骨だ! 名家のガキをつれてきたら、高く買うと言ってるくせに、実際は買い叩きやがる!」
ひげの男が吐き捨てる。
「ああ、そうだとも。あいつら何をしてるかしらんが、どうせ子供は生きて帰らないという噂だぜ。年齢や頭の中身なんざ関係ないではないか!」
目つきの悪い商人も怒りを隠さなかった。
そうして森をぬけたところで、オジャムとサシャを商船から叩きおろし、
「とんだ疫病神だ! 骨折り損のくたびれ儲けとはこのことだ。お前みたいな本当のバカはどこにでも行くがよい。ああ、きっとお前は行き場をなくして、野垂れ死にするのが関の山だろうがな!」
2人の商人は吐き捨てて去って行った。
こうして、再びオジャムは宿無し、無一文に戻ってしまったのである。
途方に暮れるオジャムの後ろで、たった1人の小さな”家来”サシャも指を加えて立っていた。
つづく…(オジャム編は残り2話)

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遥ナル
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