シャローンの初陣11 最終話-サイレント ネオ-ムーン ソング
それから間もなくのことだった。
西門陥落の報を聞いたアガシが十機あまりを率いて、慌てて西門に向かっているという。
シャローンは兵士に命じて、すぐさま臨戦態勢を整えた。
すると、しばらくたって砂埃が上がったかと思うと、アガシの軍が姿を現した。西門にはムーキングダムの紋章である鳳凰の旗がはためていた。
アガシはくやしさのあまり、一瞬気を失うほどだった。
「キングダムの小娘め! 多少は頭がきれるようだが、戦闘の方はどうであろうか!? いさぎよく兵を率いて俺と勝負しろ!」
すると、西門が開いてシャローンが乗る量産型のシェルが姿を現したではないか。
量産型とはその名の通りで、CAの中では安価に手に入るものである。
また、シェルという機体は一般兵士向けのものであり、性能、耐久力ともに上位機であるエクスぺリオンやパンツァーに比べると非常に劣るものだ。
「一騎で出てくるとは、さすがは鳳凰の雛! その一騎打ち、承諾した!」
アガシはやっとシャローンという人間が、相当の人物とわかったようである。
しかし、それはあまりに遅かった。
アガシはパンツァーの剣を引き抜き、シャローンに猛然と向かっていく。シャローンの乗る量産型シェルは立ち止まり、微動だにしない。
「どうした、怖気づいたか小娘!」
十数メートル前方に近づいたアガシが叫ぶ。その刹那、シャローンは背中からサーベルを引き抜くと、一気に動力をあげて前に向かった。
剣と剣が交わる低い音が辺りにとどろいた。
両者は通り過ぎ、互いに背中を向けて立ち止まった。
すると…ゆっくりとアガシの乗るパンツァーの頭部が、胴体からズルズルと落ちていくではないか…
「なんということだ…鳳凰の雛もまた、鳳凰であったか…」
アガシは後悔と共に、この世を去ったのだった。
大将を失った北閥の軍はもはや部隊の体をなさず、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。また、前線で戦っていたアガシの軍団もコンクエスト党やマリア党についにおしきられ、総崩れとなったのである。
こうして、シャローンの初陣は見事な大勝利で終わったのだった。
このシャローンの初陣、西門強襲は尾ひれがついておおいに喧伝されることになり、シャローンのカリスマ性を高めたのであった。
すなわち、巷ではシャローンがたった一騎でアガシらを撃墜し、西門を奪還したということになったのである。
これを世にいう”シャローンの単騎駆け”となった。
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