コンクリオン家の悲劇5 サイレント ネオ-ムーン ソング
一族の命運を握り出発したエピ・コンクリオンの一行。
CAに乗り昼夜駆け抜け、早くも関所の前にいたった。
関所を守はシャギ10将の1人、ユーゴだった。
さらに、エピの一行を追って、同じく10将の1人マトンが迫っている。
それでも、エピ・コンクリオンはさすがの落ち着き様である。
腹心のオルデン・カミンスキが進み出て言った。
「エピ様、間もなく日が沈みます。強行突破するのは下策、私が商人に化けて関所に忍び込みましょう。夜中になりましたら開門します」
カミンスキはそういうやいなや、事前に準備していた通行手形を懐から取り出した。さすが経験豊富な如才ない男である。
エピはカミンスキの策をとりいれ、近くの森で身をひそめて夜中になるのを待った。
そして、夜中になって関所に近くと、カミンスキは以心伝心とばかりに関所の門を開いた。
実をいえばレッカから大量の黄金を渡されており、ここぞとばかりに門番の兵士に配ったのだ。
シャギ党はもとをただせば素性あやしき野盗だったものがほとんどだった。
黄金に目がくらみ、カミンスキに協力したのだ。
エピら3機のCAは音もたてずに関所の突破を図る。
しかし、運悪く警らに出ていた関所を守る一団に出くわした。
「こんな夜中に何事だ! まてい!」
だが、エピらは何も答えずに突進すると、その一団に槍や剣を突き立て、蹴散らしてしまった。
とたんに薄暗かった関所内にサーチライトが照らされ、甲高い警報音が鳴った。
「兄様どういたします!?」
ラターシャが慌ててたずねる。
「動ずるな、この先は流れが速いジャコウ川がある。その川には一本の細い橋がかかっている。ラターシャとセンはその橋を渡ったところで待て」
エピはそういうとCAを躍らせ、一気にスピードをあげた。
ラターシャ、センが後を追ったのは言うまでもない。
しかし、異常に気付いた関所の隊長であるユーゴが目を覚まし、早くも数十機を引き連れて追いかけてくる。
「兄貴どうする!?」
とセン。
「お前たちは先に行け!」
エピはそういうや否や踵を返し、向かってくるユーゴに突進していく。
機を突かれたユーゴは先頭のまま向かってきたが、矛を振り回すエピ専用のCAパンツァー・カスタムとすれ違った。
『カーン、バシッ』
CAを切り裂く独特の低い音が響いた。
「あああああ…」
次の瞬間、ユーゴの配下が恐怖の声を挙げると、一目散に逃げ出した。
ユーゴの乗るCAシェル指揮官型の胴体から寸断された頭部がごろりと落ちたのだ。
エピは眉一つ動かすことなく、再びラターシャとセンの後を追った。
だが、まだまだ苦境は続く。
逃げ出したユーゴの配下と入れ替わるように、追撃してきたマトンの一隊が姿を現してエピの後を追い始めた。
エピは橋の真ん中までいくとそこで立ち止まった。
追いついたマトンの一団が橋の前で止まった。
「エピ・コンクリオン殿、お待ちなされ!」
野太い声でマトンが言った。
「関所を破り、かつその隊長を殺し、さらに何をするつもりでしょうか!?」
「ほう、また逆賊の子分が我が矛の餌食になりにきたか」
「なにぃ…」
「よいか、良く聞け、逆賊のシャギ党よ。我々は貴様らを同等の者とみてはおらぬ。ゆえに何をこたえることがあろうか!?」
「エピ殿、言葉は選んだ方が良いというもの。偉大なるシャギ様はあなたの武勲を惜しみ、出頭すれば命までは奪わぬとおっしゃっておる。潔く矛を捨て、私と共に参られい!」
これはマトンの嘘である。
エピはそれを聞くと、大笑いして叫んだ。
「気に入らぬと兵を簡単に殺し、市民からは略奪をくわだてる。家臣を信用せず、恐怖政治を敷いている…そんな逆賊シャギの言うことを誰が信じようか!? さあ、ごたくはもういらぬ。さっさとかかってこい、シャギの犬め!」
「下手に出ればいい気になりおって、者どもかかれ!」
マトンが命令すると、配下たちが声を挙げながら橋に近づいていく。
しかし、細い橋なので、CAは1機ずつしか渡れない。
しかも、カイバで名の通るエピ・コンクリオンが立ちふさがっているとあって、威勢の良い声とは裏腹に誰も向かって行かなかった。
「何をしておるか、貴様らは砂漠で恐れられたシャギ党ではないのか!」
マトンが鼓舞するが、それでも恐れて近づかない。
しびれを切らし、マトンがCAの拳で近くにいる配下をなぐりつけた。
それを見た配下は驚き恐れて、エピに襲い掛かった。
だが、さすがのエピである。
1対1であれば、赤子の手をひねるかのごとくだった。
次々と機体を矛で貫き、傷一つ追わない。今までの鬱憤を晴らすかのように、次々と敵を墜としていく。
「射撃で射止めれば造作もないものを…」
マトンはくやしがるが、どうにもならない。
そうこうするうちに、配下は1人残らずやられるか、逃げてしまった。
「所詮犬の集まりよ」
エピが吐き捨てると、マトンは怒って剣を抜いて向かっていく。
しかし、結果はユーゴと同じ、マトンはのど元を一突きされて撃墜された。
エピは涼しい顔で「もう終わりか」とつぶやくと、ゆうゆうと橋を渡った。
エピのこの戦いぶりの見事さは、鬼神のごとくと月歌で噂になるほどだった。
エピ一行は3日3晩、まともに食事をとることも寝ることもなく行軍し、ついにムーンキングダムにたどりついたのだった。