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幻の休日-カフタス銀の夜事件1-ジャック・ソック覚書-サイレント ネオ-異聞-

「あんた、えらいことになったよ!」
とど子(私は妻のことを、その風貌と愛着からこう呼んでいる。本名はシャリーン・ソック)が、夜中に大きな声で私を突然起こした。
私は1週間の激務を終え、非常に疲れて夕飯を食べてすぐに寝ていた。
あまりの疲れから、夕飯に出た久々のカレーライスを食べている時に寝落ちする有様だった。
まだねぼけ半分、途中で起こされた怒りもあって、私は不機嫌な顔でとど子をにらみつけた。
とど子はグローブのような分厚い手で私の背中をバチンとはたき、
「とんでもないことが起きたんだよ、寝てるどころでないよ!」
と叫んだ。
とど子の声があまりに大きかったので、私は隣の家に迷惑にならないか心配した。
生まれたての赤ん坊と3歳、7歳の子供たちは、とど子の声で目を覚ましてしまった。
赤ん坊はわーわー泣きわめき、私はとんだ休日になってしまったと、さらに不機嫌になったのである。

私はやっと目を覚まし、とど子に「何が起きたんだ?」と尋ねた。
もちろん、「明日では間に合わないのか、疲れているんだぞ!」とも付け加えた。
とど子は焦りながら、「早く早く」と言って下にくるように促した。
とりあえず私は窓を開けて外を見てみた。
いったい何が起きたというのだろう……辺りは、すっかり静まり返っていた。夜中だから当然かもしれないが、人の通りはまったくない。時折見かけるのは、サイレンをならしながら走っていく装甲車と警備のためのCAだけである。
戒厳令が敷かれた町はすっかり異常事態となっていたのである。

一階の居間に行くとテレビがついていた。
いつもは、地球で放送される深夜の恋愛ドラマにかじりついているとど子であったが、珍しくニュースがついていた。
緊急速報のテロップが出て、アナウンサーが取り乱しながら原稿を読んでいる。
私はそのテロップを見ると、驚きのあまり腰を抜かしてしまった。

エビル・メルセデウス17世が死亡

私はすっかり目が覚めて、慌ててメガネをかけた。
見間違いと思ったからだ。
しかし、それは間違いではなかった。
いったいどういうことであろうか…昨日までムーンキングダムだけでなく、北閥の拠点ノーザンライト・シティでも、お祭りムード一色だったはずだ。
すなわち、ムーンキングダムと北閥が歴史的な和解をし、夕方の会議で相互不可侵条約をさらに発展させ、友好条約の調印を結ぶ手筈となっていたからである。

我々軍人の間でも、本当に友好条約が結ばれることがあるのか、多くの者が懐疑的で議論の的になっていた。
というのも、ムーンキングダムと北閥では10年戦争とよばれる長い戦争状態にあったからだ。
時に停戦し、時に不可侵条約を結んだこともあった。
しかし、それは長続きせずに、なんども約束が破られてきた歴史があったのだ。
それでも、今回は不可侵条約を結んでから半年の間、互いに戦闘になることはなかった。
そのため、両国の市民、軍人が期待を持って朗報を待っていたのである。

それが、条約締結が難航しているだとか、条約締結が瀬戸際でご破算になったとかならばわかるが、エビル提督が死んだというのは、全く理解できなかったのである。
聞くところによると、エビル将軍を始め、ムーンキングダムの重臣数十名が同席しており、爆発によって死亡したという。
何人かは生存しているそうだが、重傷でないものはいなかった。

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遥ナル
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