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豚提督オジャム5 サイレント ネオ-ムーン ソング

無一文になったオジャムはボロ衣をまとい、砂漠の真ん中に捨て置かれた。
極悪非道で通るシャギ党の兵士も、オジャムの落ちぶれようをあまりに憐れに思ったのだろうか…シャギのいいつけを破り、ボトル1本の水と黒パンが2つ入った布袋を置いていった。
オジャムが置き去りにされた西の砂漠地帯は、シャギ党の兵士が慈悲深くなるほど、恐ろしい場所であった。
すなわち、昼は50度まで気温が上がるが、夜は氷点下にまでさがっってしまうのだ。
何の土地勘もないオジャムはここを1人、1本の水とパン2個だけで突破しなくてはならないのだ。

オジャムはよたよたと暑い日差しの中、カイバを目指して歩き始めた。
といっても、全くのあてずっぽう、目印は何もなかった。
360度見渡す限り、陽に照らされた砂漠が広がっているだけだ。
すでに持っていたボトルの水はほとんど残っていなかった。
「おーい」
オジャムはためしに叫んでみたが、もちろん返事などない。
砂塵を巻き上げる乾いた風の音がするばかりだ。


それでも何とか歩き続け、大きな岩を見つけてその陰に隠れるように座り込んだ。
残りの水を飲みほし、硬い黒パンをかじる。
水気がないので、飲み込むこともままならない。
生活力が全くといってないオジャムの運命は、ほぼ確定していた。
つまり、シャギがいうように2,3日で野垂れ死にして、砂漠で骨となるということである。

オジャムは岩陰に寝転がると、もう何の気力もなくなってしまった。
砂漠に吹く乾いた風が、みじめなオジャムの耳に悲しく響く。
思えばあまりに哀れな運命と言えよう。
オジャムはゆっくりと目を閉じた。

それから、どれくらいたったのだろうか。
砂漠を照らす太陽は橙色に変わり、間もなく暗い世界が訪れるだろう。
水がなくなったオジャムは、もう息もたえだえ、動く気力もなかった。
砂漠の甲虫がオジャムの顔をするする歩くが、何の反応も示さない。
こうして、あまりに悲惨な人生の最後を、オジャムは砂漠の真ん中で迎えるのであろうか!

いや、実際はそうではなかった。
何という幸運だろう。
地上をいく小型の武装商船が、オジャムの方に近づいてくるではないか。
オジャムは音を聞くと、ぱっちりと目を開け、どこにこれほどの力が残っているのかというぐらいの元気が湧いた。
そして、一目散に商船の方に走り出したのだった。
オジャムはわかっていたのだ。
これを逃せばあの世行きということが。

一隻の武装商船は闇にそなえ、すでにライトを照らしていた。
そのライトの先にぼろ衣をまとったオジャムが、手を振りながら狂ったようにかけてくる様子が映し出された。
武装商船は驚いて急停止した。
オジャムはよだれをたらし、目を大きく見開き、砂だらけの顔で立ち止まった。
武装商船をあやつる2人の商人は…1人はひげをはやしており、もう一人は目つきが悪い中年の男たちだった。
2人は顔を見合わせると、首をかしげた。
「どういうことだ、砂漠の真ん中に妙な身なりの太った小男がおるぞ!」
ひげの商人が言った。
「そうだのう、砂漠で野たれ死んだ亡霊ではあるまいか!」
目つきの悪い商人が震えながら言う。
「馬鹿をいえ! あの身なりを見ろ。きっと乞食のたぐいだろう」
「し、しかし、なんで乞食がこんな日が沈む砂漠の真ん中にいるというのか」
目つきの悪い男の問いかけに、ひげの男が再び首をかしげた。
「それもそうだのう…まあ、あんなものは相手にしない方がよかろう。ほっておこう!」
ひげの商人は再び武装商船を走らせようと、動力を上げる。
だが、これを逃せば後がないオジャム、動き出した武装商船の一部にしがみついたのだ。
最初は気付かなかった武装商船の2人も、オジャムが船にぶらさがっているのを見て驚きあきれた。
また、このような往生際の悪い奴ならば、何かたしになるかもしれないと思い直したのだった。

武装商船は止まり、銃を持ったひげの男が降りてきたのである。
「おい、お前は何者だ…」
ひげの商人が銃口をオジャムに向けた。
オジャムはごくりと生唾を飲んでから、大きな声を出した。
「余は提督である! ひかえおろう、頭が高い!」
これを聞くとひげの男は頭をぽりぽりかきながら面倒くさそうに言った。
「哀れな奴じゃ、暑さで頭がおかしくなったようだ。まあ、しかし、ものはついでだ。特別に船に乗せてやる。運が良い奴だ」
ひげの男はそういうと、オジャムを武装商船に招き入れた。
こうしてオジャムは、目の前の窮地から脱したのだった。
しかし、これには理由があった。
つづく…
→一気読みをしたい方にお勧め!

オジャム1

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遥ナル
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