〔短いお話〕年少さんの卒業記念日
昨年買った青梗菜の種がたくさん残っていたこと思い出した。
古い種だからほとんど芽が出ないんじゃないか。そう思い、ファブリック製のプランターへ土を敷き詰め、適当にバラまいた。本当は一粒ずつ間隔をあけて撒くものだが。
3日後。ところどころに黄色い点々。発芽が始まったようだ。
その2日後には生まれたての小さくてかわいらしい双葉たちでにぎやかになった。いわゆる密集状態。
甘かった。
恐るべし自然の力。
これではいけない。早く間引かんとあかんなぁ。
そやけど・・
もう少し大きくなってから間引くほうが美味しく食べられるんとちゃう?
しっかり成長する芽は今の時点ではわからんし。
成長したほうが量も増えるしな。
私の中の食いしん坊小人がささやく。とりあえず一週間くらい様子を見よう。
「早く大きくなってや」
まだ頼りなげな初々しい双葉ちゃんに丁寧に霧吹きで水やりをする。
種まきしてから、三週間。
欲をかいたおかげで、青梗菜の芽は好き放題に伸びて絡まり、間引きにとても手間取った。
同じ日に種をまいても芽を出しても、成長スピードは種ごとにちがうんやな。これが多様性というやつか。まあ、どうでもええけど。
雨が降らないうちに、作業するか。
絡まっている芽をゆっくりほぐし、小さい子から一つずつ土から抜いていく。試しに一つ、口に含んで味わってみる。
意外と主張の強い味。カイワレ大根ほどではないけれど。生より火を入れて食べたほうがええかもな。サラダ向きの味ではないみたいやし。
あ! まさか芽には毒はないやんな。まあ、お腹壊すかどうかで判断しよ。
元気に育ちそうな芽を20本くらい残して、作業終了。摘み取られた小さな間引き菜は、まるで幼稚園の年少組さん。引き続き小さな畑で頑張る芽は、年中組さんになるまで成長を見守ろう。
間引き菜についている土を払い、ボウルに水をためて間引き菜を入れてかき回す。土が完全に取れるまで何度か水を変えて洗う。
ざるで水を切ってから、一本ずつ根の部分をペティナイフで切る。
野菜炒めにするほどの量でもないので、卵焼きにしてみた。焼きあがった玉子焼きを六等分して一つ食べてみる。
ネギ入りの玉子焼きの方が好きやけど、チンゲン菜の間引き菜も悪くない。
調理していただくことは小さな野菜(年少さん)の卒業式みたいなものだ。今日、7月1日は年少さんの卒業記念日だ。
小さな間引き菜は、卵と一緒に焼かれたことで無事卒業終了。
ごちそうさまでした。
(おわり)
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