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剣客商売第12巻 第4話 十番斬り

 正月15日。小兵衛は、町医者小川宗哲宅で村松太九蔵を見た。
 その名におぼえがあった。20年前・・・村松忠右衛門という剣客、一度会いたいものと思っていた。その忠右衛門が亡くなった。小兵衛は悔やんだが、思い出すこともなくなった二年後のこと。息・太九蔵が、四人の剣客を相手に決闘し、四人を只一人で討ち果たし、江戸を立ち退いたと噂。
 その太九蔵が四十前後の中年となって、小川宗哲宅へ重病の身をあらわそうとは、おもいもかけぬことであった。

 死病を抱えた男が、治療を受けようとする、その訳は。

 今まで作ったものは「目次」記事でチェックいただけると嬉しいです。
 ではでは。机上ツアーにお付き合いいただけますよう。


地図(画像)

地図1 1月15日・村松太九蔵

 村松太九蔵は、南〇⑪戸越八幡宮近くの家から、⑩行慶寺の和尚の紹介状をもって、北の◎➀小川宗哲宅へ治療にきた。※〇数字はマイマップ
 太九蔵さんの必死さと、質のいい痛み止めの欠如と、小川宗哲さんの高名がわかる。多分別れを繰り返し、死病を得て、故郷(死に場所)に帰ってきたのだろう、ということも後から分かる。札幌にいたとき、シニアの会に入った。全国から帰ってきていた。退職というタイミングもあるが、子どもの傍で暮らしていたが、戻りたくなった…という人、南半球で理想の暮らしを得たが、心に急かされて…という人にも会った。

地図1

地図2 小兵衛の回想(20年前)

 父:村松忠右衛門(③芝の三田四丁目馬庭念流の道場)逝去。
 二年後夏、息・太九蔵が、④白金の先の⑤今里村の草原で剣客四人を相手に決闘し、江戸を立ち退いた。四人とは⑥南日ケ窪に一刀流の道場を構えていた内田助五郎・伊太郎兄弟とその門弟二人。

父の道場は、慶應義塾前・相手道場は、東洋英和女学院大学、草原は明治学院大学・近

南日ヶ窪(麻布地区 旧町名由来板 六本木西公園)
https://www.city.minato.tokyo.jp/azabumachitan/azabu/koho/documents/ropponginishi.pdf

地図3 1月16日(村松・万福寺辺で一人斬る、残り11)

 土地の説明 ⑦戸越村・⑧馬込村・⑨品川宿(遊び場)
 村松宅:⑦荏原郡・戸越村にある⑪戸越八幡宮近くの竹藪中の小さな家
 ⑩行慶寺(道誉和尚):戸越村鎮守・戸越八幡兼帯の寺。杉並木参道の西
 ⑬馬込村の西はずれの廃寺に、一年前から十余名の無頼浪人。
 ⑫馬込にある万福寺という寺の西側の台地と台地にはさまれた坂道を、百姓の娘が小走りに・・・娘は無頼浪人に襲われ、村松が助けた・・・など。
 無頼浪人たちは付近も荒らすが、江戸で強盗、恐喝などを行い、この辺りに隠れ住んでいる。日常的に品川に遊びに行く。
 江戸(新橋)まで10㎞。2時間半
 品川宿まで   5㎞ 1時間15分
 品川水族館まで  4㎞ 1時間

戸越八幡宮(の近くの家)から西馬込(馬込の西の外れ)までの距離
※病気で死にそうな中、15名の浪人を退治すべく、見まわっていた。

地図4 小兵衛・戸越へ見舞に

 小兵衛は見舞いにあたり、先ず、行慶寺へ行き、様子見・小坊主の<村松様は寝ております>で、昼食後、徳次郎の仕事の手伝いをしていたが、村松はその間に一人、斬っている(浪人の数10名)

1月17日 小兵衛のお見舞い

赤ルート 小兵衛(駕籠)。徳次郎は固辞して、供して歩く。②⑮⑯⑰⑩
 ⑪が目的の村松宅だが、先ず⑩へ行って挨拶+様子を聞く。尾行していった徳次郎を待つ、という段取りもある。到着時、村松は就寝(小僧)
黒ルート ⑰雉の宮の茶店から、お尋ね者(為吉)・・徳は尾行。⑬荒寺に入るのを見て、⑩行慶寺に報告に。<小兵衛は弥七に手紙>
青ルート 和尚と小兵衛は、⑬の捕り物の手配。馬込村⑧をぐるぐる。

★ 金貸しを襲う算段中、もどって来ていない浪人仲間を探すため、一人の浪人が出、もう一人が追う。二人の浪人は、品川への道すがらに倒れている山田浪人を発見、すぐ巣窟に引き返して報告、巣窟の浪人全員(10名)が戸越の村松太九蔵の襲撃に向かう。

10人の浪人の足だと、もうちょっと早く着くと思う。
徳次郎は、巣窟から走り出す浪人たちを見て、すぐ小兵衛の許へ伝令を走らす。
自分(徳次郎)は、為吉の動きを追い、一緒に出てこないので、中へ入って逮捕。

地図データ

本文抜書の『51)』等は、文庫本のページ数です。
切絵図はお借りしています。出典:国会図書館デジタルコレクション

天明3(1783)年 小兵衛65歳、おはる・三冬25歳、大治郎30歳、小太郎2歳

1月15日の朝

134)➀本所・亀沢町の町医者・小川宗哲76歳。
 患者 村松太九蔵
136)宗哲は答えて(小兵衛の問い)
「白金の、ずっと先の⑦戸越村(現:東京都品川区戸越)にある⑩行慶寺という寺の和尚の添え状を持ってやってきたのじゃ」

 小兵衛の遠い記憶。
 村松忠右衛門(③芝の三田四丁目馬庭念流の道場)逝去。
 二年後の夏に、忠右衛門の息・太九蔵という若者が、④白金の先の⑤今里村の草原で四人の剣客を相手に決闘し、江戸を立ち退いた。四人の剣客は、⑥南日ケ窪に一刀流の道場を構えていた内田助五郎・伊太郎兄弟とその門弟二人。

141)小兵衛が早めに辞して、②鐘ヶ淵へ帰って間もなく、四谷の御用聞き、弥七が、徳次郎と共に隠宅へあらわれた。
「浅草までまいりましたので」
 弥七と徳次郎は、酒飯を馳走になり、五ツ前(午後8:00)に帰って行った。
142)そのころ・・・。
 ⑦荏原郡・戸越村にある⑪戸越八幡宮の近くの竹藪の中の小さな家で、村松太九蔵が寝床から起き出している。
 村松は外出し、約一刻後もどって来た。

翌日(1月16日)

144)⑦戸越村から南へ半里ほど行くと⑧荏原郡・馬込村(現・大田区馬込)に入る。
 ⑫馬込にある万福寺という寺の西側の台地と台地にはさまれた坂道を、百姓の娘が小走りに歩いていた。
 一年ほど前から、この辺りの⑬廃寺に十余名の無頼浪人が棲みついた。
 襲われた娘を村松が助け、百姓家の前庭へ。
147)夜が更けた。
 ⑪戸越村の家で、村松が寝床から出て来て、薬湯を煎じはじめた。
「まだ、死ねぬぞ・・・まだだ。まだ、十人あまりもいる・・・」

148)そのころ・・・。
 ⑬馬込村の西の外れにある廃寺の中で、11名の無頼浪人が・・
「どうしたのだ、杉本と永井は?」
「・・・江戸へ行くぞ」
149)40がらみの大男の浪人、佐久間重六という。
149)「⑭麻布の飯倉のな、岡山吉左衛門という弓師の家だ」(金貸)
150)「手引きするのは香具師の為吉という男。五百両は下らぬそうだ」

1月17日

151)秋山小兵衛は、徳次郎を連れて、⑦戸越村へ向った(武蔵屋に用意してもらった見舞いの<鼈とその生き血>持参)
 小兵衛の駕籠が、⑮三田から⑯白金台町へさしかかったのは、四ツ半(午前11:00)
152)通りを南へ下った左手に⑰〔雉の宮〕という社があり、別当は宝塔寺という。
 茶店から三十がらみの男。徳次郎がはっと顔をうつむけた。
「大先生に申し上げます。お尋ね者の為吉というやつを見かけました」
「よし、それでは、荷物をよこすがいい、抱いて行こう」
「申し訳ございません、すみしだい⑩行慶寺へ駆けつけますでございます」
153)坂道を下り切ったところで、振り返って見ると、件の男・・・為吉は、ゆっくりとした足取りで坂を下りつつあった。
154)「さ、先ず、⑩戸越の行慶寺へ行っておくれ」
 ⑩行慶寺は、戸越村の鎮守・戸越八幡兼帯の寺で、杉並木の参道の西側にあった。
 本堂・庫裏も藁屋根で深い木立に囲まれている。・・・和尚の歓待を受ける。
 小坊主が様子を見に行ってくれる・・村松は寝ており、日暮れに夕餉を共にすることにした。「泊って行きなされ」
157)昼餉を終え、半刻すると、徳次郎が⑩行慶寺へ駆け込んで来た。
158)二人の駕籠舁きに四谷の弥七へ手紙を届けさせ、徳次郎は腹ごしらえして、為吉の見張りに出て行った。
158)為吉は⑬荒寺へ入って行ったきり、出て来ない。
158)道誉和尚の口添えで、近くの民家に若い僧と小坊主が待機した。
159)馬込村の民家の人びとから浪人どものうわさを、和尚も小兵衛も直接に聞きとり、そのひどさに驚く。
 日暮れ近くなり、手配も整い、小兵衛が村松太九蔵を見舞うべく立ち上がると、和尚も・・・二人して⑦戸越村へ引き返した。
 村松太九蔵は⑪にいない。⑩にもいない。
161)⑧馬込村の民家に待機させておいた若い僧が駆け込んで来た。

162)これより先。
 ⑬馬込村の巣窟から浪人が外へ出てきた。帰らない浪人を探しに⑨品川へ向う。別の一人が後を追った。
 ⑨品川への近道の坂道を下って行くと、人が倒れている。
163)「去年の夏の、あの男にやられた・・・」(山田)
 三島浪人は、顔も住居も知っている。山田浪人を背負って取って返した。
164)首領の佐久間重六をはじめ浪人どもの走り出て行った。
 為吉は後に残っており、徳次郎の捕縄にかかった。
165)一方、山田浪人を斬った村松太九蔵は、⑪戸越村の住居へもどった。
「あと、十人か・・・」
 薬湯を一口のみ、そのとき、この家にせまる、ただならぬ殺気を感じる。

 ・・・浪人が村松の左腕を斬りはらった。さすがの村松も躱し切れぬ。村松の背中に佐久間が太刀を打ち込んだ。
 小兵衛が駆け込んで来たのは、このときである。・・・十人斬り

172)夜が更けた。
 村松太九蔵はまだ生きていた。
 <鼈汁をいただき、証拠とする遺書を渡し、礼をのべて>
177)村松太九蔵の歿年、44歳

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