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ハグされたかったルル

そよ風がキラキラと光の粒をまき散らすような
ある日の午後のことでした。

「つまんない!つまんない!」
「今日もママは大人のお仕事」
「私はいつでもひとりぼっち」
「一緒にお外で遊んだり、お絵描きだってしたいのに、、、」

「つまんない!つまんない!」

そしてルルは気がつきました。

「なんだか、胸のあたりが空っぽみたい。」
「お腹が空いたのかしら、、、」

そこで、ママがお出掛け前に作った栄養満点のお料理を食べ、世界一身体に良いジュースを飲んでみました。

でも、、、
「まだまだ、胸のあたりが空っぽ、、、」
「なんだろう?なんだろう?」
「胸のあたりの空っぽは、もとのまま、、、」

そこに、ようやくママが帰ってきました。

「ママ!ママ!」
「ルルのお腹のあたりが、お腹を空かせているの、、ご飯も食べたし、ジュースも飲んだわ!でも、まだまだ空っぽ。」

「まぁ、、ルル、、どうしたのかしら、、」
「でも明日にはきっとよくなるわ!」
「大変!大変!遅れちゃう!ルル、ママはお仕事だから、良い子でお留守番していてね!」

ママはそう言いながら、またお出かけをしてしまいました。

ルルはまたひとりぽっち。。

「つまんない!つまんない!」
そう言いながら一人ぽっちのルルは寂しくて、
緑の匂いのする森の中に入っていきました。

そこに、クルクルとロールケーキみたいな尻尾をつけたリスが通りかかりました。

「リスさん!リスさん!私はひとりぼっちなの。お願いだから一緒に遊んで!」
勇気を出してそう言ってみたけれど、リスは忙しそうに枝から枝に飛び移るのに夢中でした。

「わたし、どうしたらいいの?」
するとリスはつぶらな瞳でこう言い放ちました。
「自分も好きなことをすればいいのさ、、」

そして、カリカリと木の実をかじり、ほっぺをちょうちんのようにふくらませ、まるで怒ったように森の中に姿を隠してしまいました。

ルルの胸のあたりのからっぽは大きくなるばかり、、

そこで今度は、落ち葉の中に埋もれてみました。
「わぁ!なんてあっかくて気持ちがいいんでしょー!こんなの初めて!フワフワして、おまけに懐かしい匂い、、、」

そう言って、ルルは落ち葉の中で眠ってしまいました。

気がつくと、来たこともない小屋の中。
確かに、落ち葉の中に眠っていたはずなのに。

「いったい、どうしたのかしら?」
ルルは不思議に思いました。

その時!

「きゃ〰︎!」ルルは落葉の中からスルスル、ツルリン、すってんころりん!

なんと、落葉だと思って森でお昼寝していたのは、、
この世で一番嫌いなクマの背中だったのでした

「ホーホッホー」クマは不思議な声で笑うので、ルルは「ぎゃー!!」と叫びました。

「おやおや、、人間の子どもだね、、」
「いつのまにこの小屋に入ってきたのだい?」

クマはお昼寝中の自分の背中で眠ってしまったルルに気がつかず、小屋まで運んだなんて、夢にも思いませんでした。

クマは言いました。
「これからちょうどおやつの時間。」
「一緒にたべていきなさい」

ルルはこわくてこわくてたまらなかったけれど、ハーブの香りのお茶と、パンケーキを焼く甘く香ばしい匂いにお腹がグーグー鳴り始めました。

「ホーホッホー」
「お腹がすいているんだね、、、」
「さぁ、たんとおあがり。」

ルルはあまりに素敵なパンケーキの焼き色と、大きなバターの香りに誘われ、一切れ口に入れてみると、、

その美味しいことといったら❣️❣️

思わずルルは怖さも忘れ、ぜーんぶいっぺんに食べてしまいました。

「まだまだたーんとあるから、もっとお食べ、、」クマは優しく笑い、そう言いました。

ルルはおしゃべりも忘れ、おかわりのパンケーキも、また夢中で食べ始めました。

「ところで、、こんな森の中、いったい何をしにきたんだい?」
クマはそっとたずねました。

ルルは蜂蜜でベタベタになった唇をなめながら答えました。

「だって、ルルはいつもひとりぼっち。。ママは大人な仕事ばかりなの。」
「きっと、ママはルルのことが嫌いなんだわ!」
「そして、なぜだかこの頃、ルルの胸のあたりは、お腹が空いたみたいにからっぽなの、、」
「ママのお料理も食べ、ジュースも飲んだけど、ちっとも胸の辺りはいっぱいにならない、、」
「森でリスさんと遊びたかったけれど、リスさんも知らんぷり、、、」
「ますますルルはひとりぼっち、、」
「どうしてかしら?クマさんは知ってる?」

「ホーホッホー」
クマは立ち上がると、黙ってルルにハグをしました。

「きゃー!(こわいよー!」
「わー!(固い毛じゃない、、」
「ふんふん、、(なんか、フワフワしてる、、」
「、、、(あったかくてママに抱っこされた時みたい、、」
「、、、(もしかしたら、、、」
「、、、(やっぱり!」

「これよ!これ!私が欲しかったものはこれだったの。。」

たくさん空いていた胸の隙間にはクマのハグのぬくもりが、紅茶に溶けてくお砂糖みたいにゆっくり広がっていきました。

嬉しくなったルルはこう言いました。

「私、ずっとここにいるわ!」
「おいしいパンケーキ、甘いハチミツ、素敵な香りのハーブティー!  
 そしてクマさんのあったかいハグがあるもの!」

それはルルがずっと探していたものでした。。

「ねっ!クマさん、いいでしょう?」

けれどもクマは少しだけ悲しそうに言いました。
「元気になったら、おうちにおかえり、、、」
「胸の隙間のぬくもりは、誰もが持っているものなんだよ。。だから、今度空っぽになった時には自分のことを自分でハグしてあげるんだよ、、」

「それに、君のママだって、本当はとっても君を愛しているんだ、、」

「クマさんはひとりぼっちで寂しくないの?」
ルルは言いました。

「大丈夫!寂しくないよ、、寂しくなったら、
こんなふうに自分をハグするんだ、、」

そう言ってクマは自分を抱きしめました。
ところが、クマの手は短くて、やっとのことで自分を抱きしめているうちに、コロン!
と転がってしまいました!

ルルはその様子がおかしくて、目に涙を浮かべるほど笑って言いました。

「あのね、クマさん、こうするの、、
右手を左の肩に置き、左手は右の腰のあたり、、ねっ!わかった?」

「そうそう、その調子!」

しばらく二人はハグの練習をしました。

そして、森に夕焼けがせまるころ、少し別れが辛そうにクマは言いました。

「さようなら、、もう森に夜が来る。おうちにお帰り、、」

ヒラヒラ手を振るクマの優しい心が伝わり、
寂しかったけれど、ルルは黙って家に帰りました。。

その夜、ルルは思い出しました。

ふたつに結いた柔らかな髪。
こんがり焼けたトーストみたいな二本の腕。
クルミみたいに固くて香ばしい香りの小さな肩。
「どれも大切」って、ママが言っていたこと。。

そして、ルルはそっと自分をハグしてみました。。
森のクマさんと練習した時のように。。

「なんだか、胸があったかい!」
ルルは嬉しくなりました。

自分がとても大切に思えたから。。
そして、いつも忙しくしているママのことも、
少しだけ好きになりました。

ルルは森で会ったクマさんを思い出し、
星空に「ありがとう!」と言いました。

その時、あの美味しくてたまらなかった素敵なパンケーキの香りと、クマさんの笑顔が胸の中にゆっくりと広がっていきました。

そして、胸の奥で声が聞こえました。

「もうひとりぽっちじゃないないもんね!」と。
「うん!」答えながらルルはもう一度自分にハグをしました。

     おしまい

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