着の身気ままにニュージーランド vol.7 〜なぜなら現地人だから〜
フットサルがしたくなった。もともと毎週末、地元のサッカークラブの練習に行っていたから、ボールを蹴らない生活になって恋しくなってしまった。
ある晩、ホストマザーのシェリーンにこの辺でフットサルできるところないかな、となんとなく聞いてみたら、「きっとあると思うわ、ネットでもなんでも探してみたらいいし、楽しみねぇ」と言ってくれた。検索したらバスで15分くらいのところに女性向けのフットサルクラブがあって、この週に活動があると書いてあったから、水曜日に行ってみることにした。
学校から帰ってきて、課題をやってから準備して出発。こっちに来てからこんなにも早くにボールを蹴りたくなると思わなかった。見知らぬ土地での不安とか、プレーに自信ないとかいう気持ちより、蹴りたい気持ちが勝ってしまった。
本数が少ない路線のバスで15分。スポーツセンターみたいなところに着いた。奥にテニスコートとフットサルコートがあって、近くまで来たら急に緊張してしまった。突然見知らぬアジア人が行ったら変な目で見られるだろうか、とか、そもそも幼く見られてしまわないだろうかとか、なんだか心配事が次々と浮かんできた。
受付に行って、青い目をした男の人におずおずと「あの、女性のフットサルがあるってサイトで見たんですけど…」と伝えたら「君参加したいの!?まじクールだね!でも、今日は活動がないんだ。ほかのチームの見学ならできるよ!来週なら確実にプレーできるさ!!」と、それはもうびっくりするくらいのハイテンションとフルスピードの英語で言われて、何度も聞き返してしまった。「すみません、ゆっくりしゃべってもらってもいいですか…」と何度もお願いして、しかも緊張して声は震えるしで、5回目くらい言い直してもらってようやく理解できた(本当に私が理解できているかはわからない)。向こうのほうで太陽は西に深く傾いて、あたりは肌寒くなってきた、なのに、私は緊張から冷や汗が止まらなかった。
それで、受付の人に言われた通り見学しようとベンチに座ろうとしたら、今からプレーするっぽい女の人が「人数足りないから一緒にやろうよ」と。え、いいの?でも上手くできるか分からないし…といったら、いいのいいの、一緒にやろう!と。
その後すぐにほかのメンバーが集まって、ちょっと自己紹介をして、すぐにゲームがスタートした(準備体操とかしないんか)。ルールもほとんど説明されないまま始まった。ところどころで審判が笛を鳴らしてプレーが止まる。どうやらキーパー以外はゴールエリアには攻守ともに入っちゃいけないとか、コートを囲っている壁にボールをぶつけて跳ね返していいとか、いろんな細かいルールがあったらしい。とはいえ手以外を使ってボールをゴールへ運ぶのは一緒だから、ルールを理解すれば楽しい。
何度かメンバーと交代をしながら40分の試合を終え、最後は握手で終わった。今はもう、動いて温まったせいで汗びっちょりだ。ボールを蹴るのはやっぱり楽しいし、言葉はそんなにいらないし、夢中になれば緊張なんでどこかにってしまう。
コートを出てシューズを履き替えていると、今日一緒にプレーした金髪の女の人たちが「楽しかったわ!また来週ね!」と言ってくれた。初めての、しかも一緒にフットサルをした見ず知らずの黒髪のアジア人に、とってもフレンドリーな人たちだなと思った。彼女たちは私が来週も来るとも知らないのに。私だったら、人見知りを発揮してそんな気の利いた事言えない気がする。
バスに乗ってホームステイに帰るころには、もうあたりは暗くなっていた。夏とはいえ、日が暮れると夜風は冷たい。帰って玄関を開けると、シェリーンの友達のミシェルが、テレビで何やらスポーツ観戦をしていた。野球みたいな、でもなんか違う見たことのないスポーツ。ニュージーランド対オーストラリアの国際試合だった。ミシェルに「一緒に観ようよ!」と言われて、「これ、なんのスポーツ?」と聞くと「クリケットだよ、クリケット」と彼女は言った。
クリケット。名前だけはなんとなく聞いたことがあるけれど、実際どんなスポーツなのかは知らなかった。
円形のコートの真ん中で、守備チームのピッチャーが投げたボールを攻撃チームが羽子板みたいなバットで打ち返していた。飛んで行ったボールは、守備のチームが素手で取りに行く。野球と違って、バッターは走らない。どうやらボールが飛んだ距離によって点が加えられるらしい。ミシェルがたくさんルールを説明してくれたんだけど、複雑すぎてほとんどを忘れてしまった。
私がソファーに座って難しい顔をして試合を見ていると、ミシェルが温かいお茶を入れてくれた。彼女が入れてくれたのはルイボスティー。彼女の出身国、南アフリカ原産のお茶だ。その温かいお茶が、夜風を浴びた私の体を温めてくれる。
私はフットサルでのことを彼女に話しながら、そういえばと思い出して「どうしてニュージーランドの人たちはフレンドリーなの」と聞いた。フットサルで一緒に楽しんだ多くの人たちは、私がどこの国の人間だとか、何歳だとか聞かずに、ただ一緒に楽しもうと言い、また来週ね、と言った。それが私には、どうしても不思議でならなかった。
ミシェルはちょっと間を置いて、
「うん、なぜなら彼女たちはニュージーランド人だからだね」と言った。
ふうん、とぼんやりとしか返事ができず、その後またクリケットの試合を見守る。オーストラリアが点を取るたびに、ミシェルは「あぁ~」と落胆する。ニュージーランドはクリケットではそこまで強くないらしい。試合時間は長く、私が見始めたころにはもうすでに開始から2時間を超えていた。ルイボスティの入っていたマグカップはすでに空だ。
「ニュージーランド人はフレンドリー」そんな言葉を反芻しながら、私はフットサルでの汗が冷えて寒くなってきたので、ミシェルに声をかけてシャワーを浴びようとリビングを後にした。
つづく
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