着の身気ままにニュージーランド vol.2~ニュージーランド上陸編~
春節の時期と重なったからか、上海発オークランド行きの機内の中は満席だった。ダウンジャケットと片方のリュックが収納に入らなかったので、リュックを足元に置き、上着を膝の上にかけて座った。もちろんエコノミーだから私の膝から下はもう、ほとんど身動きが取れない。
中国なまりの英語のアナウンスを聞いていると「当機はこれから11時間半後にオークランド空港に到着予定です」と流れた。11時間半も乗るのか~とちょっと驚いてしまった。いや、本来驚くべきところでは決してないのだけれど、何時間乗るのかちゃんと把握してなかったし、成田から直行便で大体10時間くらいのはずだったからそのくらいだろうと思っていた。よく考えたら上海は日本よりも西だから長くなるのは当たり前なんだけど、11時間半て長いなぁ。ま、そんなことはどうでもよくて。
飛行機が離陸した後、映画でも見ようと思ったけど、そのラインアップのほとんどが中国映画だし、洋画があっても古いものがちょっとだけ。そして当たり前だけど音声は中国語か英語の2択しかなかった、から結局映画は見ずにイヤホンでジブリのサウンドトラックを聞いてやり過ごしていた(ジブリの音楽だけはなぜかオーディオメニューにあった)。
少しだけうとうと寝て、起きると機内食が配られて食べる、というのを2回繰り返したら残り3時間くらいになった。あとはもう、ぼーっとやり過ごそうと思っていたら気が抜けたのか睡魔に襲われてしまい、隣の席のお兄さん(日本人ぽかった)の肩を借りて何度かうたた寝してしまった。通勤電車みたいだった。着陸1時間前くらいにしゃんと目覚めて、入国カードを記入して(寝ている間にテーブルの上に配られていた)、機体は間もなく最終目的地、ニュージーランドへ降り立った。
飛行機から降りるとき、隣のお兄さんに「肩借りてしまってすみません」といったら、全然大丈夫ですよ、僕もあったかもしれないし、と言ってくれた。仕事で来たのかな、若そうだったなと思いながら飛行機を降り、スーツケースが流れてくるのを待って無事にピックアップして(どちらも無事だった)、入国審査と関税・検疫に向かう。
ニュージーランドでも入国審査はデジタル読み込みですぐに通過した。実はこの時、全然眠れなかったから眠いし、機内食がめっちゃ出てきたからお腹はいっぱいだし、足はむくんでパンパンだし、となんだか頭がふわふわしていて、到着に実感がわくような状況ではなかった。
そんななか、厄介なのは関税と検疫だった。入国カードにはかなり多くの質問がある。規制薬物や肉などが持ち込み禁止されているほか、他国で土や水にさわった物(テントとかのアウトドア用品)、ハチミツ、その他「すべての食品」も申告の対象になる。万が一申告漏れがあってその後持ち込みがわかった場合、3~4万円の罰金が科せられるらしい。
私はすでに大量の日本食と、アウトドア用品(リュック、登山靴、ストック)を持ち込むつもりだったのでそれをチェックに入れた。関税で職員に「まず日本食の内容を詳しく教えて」と言われたので「ライス、ミソスープ、フィッシュベースのダシ、あとヌードルとちょっとのスナックとか」といったら「アウトドア用品はどんなやつ?」と聞かれたので、「バックパックとシューズとポール」と伝えた。その内容を職員が入国カードに書き記し、3番の通路に並ぶように言われた。
カートに大量の荷物を載せて、また汗でびちょびちょになりながら列に並んでいると、別の職員がやってきて私のカードを見せてと言ってきた。
渡した途端に彼女は表情を変え「なぜ、どこからアウトドア用品を持ってきたのか!」と鋭い目つきで怒鳴り始めた。赤く塗られたリップがその表情によく似合っていた。「どこで使ったんだ!」と詰めてくるので「日本」と答え、「それはフォレストか、マウンテンか!」というからよく違いがわかないけど富士山とか行ったし「マウンテン」返し、「洗ったのか、どうやって洗ったんだ!」とまた叫ぶようにいうから「水とブラシ」と言ったらそのあと彼女はぶつぶつ言いながらどこかへ行ってしまった。すんごい剣幕だったから、私はそれまでぼーっとして眠かったのに、すっかり目が覚めてしまった。
没収されるかと覚悟はしていたけれど、その後の検疫のスキャニングでは何も言われなかった。ただすんごい怒られて目が覚めただけだった。
そのあとは平和に到着ゲートを通過し、ようやく正式にニュージーランドに入国。ニュージーランドの最大都市、オークランドに到着した。一安心だった。
到着ゲートの前でうろうろしていたら、事前に申し込んでいた送迎ドライバーに声を掛けられた。強面の浅黒い肌のおじちゃんは、ちょっと中央アジア系なまりの英語を使っていた。Studentでしょ、名前は?と聞かれた。
名前を言うと、「あぁ、君ね、ちょっとこっちに来て待ってて」と言われて案内された場所には、さっきの機内で隣の席だった(肩にもたれて寝てしまった)お兄さんがいた。「あぁ、さっきはどうも」と言葉を交わし、その人と、もう一人スイスから来たという留学生の男の子とともに、強面おじちゃんドライバーに連れられて車に乗り込んだ。車種はプリウスだった。
向こうの空には背の高い雲が浮かび、頬を撫でる風は湿気を帯びていた。まさに夏だった。
ドライバーは高速を運転しながら「昔は夏の季節には大して雨なんか降らなかったが、ここ数年は倍量の雨が降ってやがる。おかげで傘が手放せなくなっちまった」。続けてドライバーは、スイスからの留学生ーー名前はフロリアンーーにこう尋ねた。「なぁ、スイスは雪降ってるか?」
フロリアンは「12月の半ばにようやく降ったかな。去年までの5年間は雪のないクリスマスだったよ」と淡々と話していた。
私はフロリアンと一緒に後部座席に座っていた。聞くと来月20歳になるそうで、3カ月、私と同じ語学学校に通うそうだ。スイスではプロダクトデザイン系の職業訓練校みたいなのに通っていたらしく、この前卒業したらしい。「ニュージーランドにはずっと来てみたかったのと、英語上達させたくて」とスイスアクセントの英語で話していた。そのあとはスイスに戻るの?ときいたら、2カ月間ニュージーランドとオーストラリアを旅したあと、スイスに戻って家電とかのエンジニアをしたいんだ、と分厚くて大きなメガネをかけた彼は、そう話していた。
さっきの飛行機一緒だったお兄さんは助手席に座っていて、リモートで仕事をしながら2カ月間、やはり同じ語学学校に通う予定で、その後は未定だと言っていた。この日はあまり話せなかったので、また来週語学学校で会うだろうから聞いてみよう。
そんなことを話している間にホストファミリーの家に着いた。ドライバーに礼を言い、まぶしい笑顔のホストマザー、シェリーンに出迎えられた。
つづく
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