『海の向こうでこんなこと言われた』#16
「本日はドレスコードですが」
遡って、エジンバラ公演で思い出したこと。
ひと月に及ぶエジンバラフェスの期間中、主催者判断で数回のレセプションが行われる。
『テンペスト』でエジンバラへ向かう前に招待状が届き
「こりゃ大変だ、タキシードを用意しろ」
ということになった。持ってる役者は殆どいない。
大慌てで借りるやら購入するやら。
僕は「これからもあることだから」と人に言われ、急いで新調した。
さて当日、会場のエジンバラ城大広間へおよそタキシードの似合わぬ一群がカチンカチンで乗り込んだ。
見ればなんと!
会場はラフな服装の人々で賑わっている。
タキシードは主催者数人と我々だけ!
逆の意味で固まった。
「壤さんじゃないですか!」
と声がして現れた若い男性はツトム・ヤマシタ君。
世界的に活躍している打楽器奏者。フェスに参加していたのだ。
僕が京都堀川高校の普通科、彼が音楽科。
大学時代に彼のお姉さんと芝居をして知り合い、雀卓を囲んだりした仲。
彼もTシャツにジーンズ姿。
片やタキシードで旧交を温めた。
2年後の『卒都婆小町』エジンバラ公演。
前回で懲りたので「ヘヘン」てな感じでめっちゃラフな感じでレセプションに行った。
着いてビックリ!
会場内は全員タキシード!!
受付の人が驚いて
『本日はドレスコードになっておりますが‥どちら様で?』
「えっと‥ニナガワカンパニーです」
『えっ!‥ああ、そうですか‥では、どうぞ』
今度も浮いていたのは我々だった。
‥どういう連絡になっとるんじゃい!!