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「濱口竜介監督特集上映を見に十三の第七芸術劇場に行って来ました」

「濱口竜介監督特集上映を見に十三の第七芸術劇場に行って来ました」

拝見したのは4本、「不気味なものの肌に触れる」(2013年 日本)(@シアターセブン)その後1時間ほど空けて「永遠に君を愛す」(2009年 日本)「天国はまだ遠い」(2016年 日本)「Walden」(2022年 日本)(@第七芸術劇場)でした、16時から21時までの6時間久しぶりに十三に行きました。

 私が十三駅で初めて降りたのは大学3年の時でした。高校を卒業して受験した大学(大阪市大)を落ちて、浪人が決定し、そこから浪人のための予備校の受験をしたのですが京都の近畿予備校の試験に落ちて、京都の駿台予備校も不合格。その時に、ボクは予備校さえも入れない奴なのだ!ということを肌で実感ました。そうして、必死で探して見つけたのが今はなくなっているが大阪北予備校という予備校。たまたまここの試験がラッキーだったのか合格し、しかも学費が安い特待生クラスに入ることが出来て結局は学費が安く済むこととなりました。そこから1年近く毎日のように十三に阪急茨木駅から通いました。18歳の時に初めて電車で通学(?)をして満員電車というのはこんなに混んでいるのか?ということを実感しました。予備校で黒板消しのアルバイトがあって授業の間に黒板を消して黒板けしを掃除機みたいなので吸引すると教材などがタダになってさらに割引みたいなものがあるという制度に立候補したので毎日遅れることなく予備校に通いました。
 高校時の私に唯一の取柄は「皆勤賞」だったこと。このささやかな習慣は社会人になってほぼ遅刻しないという私の特性がとても役に立ったと思います。一度だけ数学の全国模試で全国上位に入って予備校に掲示されたことがありました。当時の十三は18歳の子どもにとってはとってもいかがわしい場所でパチンコ屋さんや飲み屋さん風俗店が軒を連ねていました。こんな場所に名門「北野高校」があると聞きました。
 社会人になって1990年代から2000年代にかけて、大阪のお客さんと十三にあるネギ焼きの「やまもと」(今は場所が変わり劇場のはす向かいできれいなお店になっています)に行ったり、焼き肉の「請来軒」(ここも場所が変わってました)に行ってその後「トリスバー」に行ったことなどを記憶しているだけでした。

 十数年ぶりの十三駅に降り立つと、当時の記憶のような風景、ビルが建て替えできれいになっているのと、そのままの姿が残っている場所、そして線路わきの「請来軒」があった場所は火事が起きたこと聞いていましたが、あの時の独特の雰囲気は残っていました。老舗の和菓子屋さんがたくさんあることもこの日実感しました。古い商店街なんやな!と昭和と現在が混交しカオスな状況の十三。飲食店の方が人よりも多いんとちゃうか?というような印象。そしてこの町はインバウンドの観光客がほとんどいないということも実感できました。梅田より北には新大阪駅以外はインバウンド観光客は来ないんやろか?あとは京都や神戸に行くのかもしれません。



 十三サカエマチ商店街という道路の幅がむっちゃ広い商店街の真ん中あたりに「サンポードシティ」という大型の雑居ビルがあります。ここの5階と6階に映画館があります。http://www.nanagei.com/

以前からマニアックな映画を上映していることで一度行ってみたいな!と思いようやく行くことが出来ました。ここと大阪の九条にもシネ・ヌーヴォという面白い映画館があるらしいので今度行ってみたいと思います。http://www.cinenouveau.com/

 行こうと思った理由は「濱口竜介監督の過去の作品が見られるから」というものでした。この日は2回上映で4本の作品を拝見しました。機材のデジタル化が進んで2000年代後半から高画質な映画向けの映像の制作が出来る環境が整ってきました。いまではiPhoneで4K120FPSが撮影できる時代になりました。音声をきちんと収録していることが映画製作者の矜持を感じます。ドキュメンタリー作品なども何本も制作されているから尚のことなのでしょう。 
 4本どれも個性にあふれた作品でした。

 「不気味なものの肌に触れる」は衝撃的なラストの展開と身体性を強く意識させる演出にこだわっていることがとても興味深いものでした。振付に砂連尾理が参加していて、ダンスのシーンが独特の印象を残る作品でした。そしてラストシーンは「悪は存在しない」のようなある種、衝撃的な展開。こうした激しい展開から目を背けないで正面から演出される濱口監督の姿勢が強度の高い映画を制作することとなるのでしょう!

 「永遠に君を愛す」では、結婚式当日の出来事を主軸にして新郎のこと新婦と新婦の浮気のこと浮気相手の元カレとその男のことを好きになった美大生などが交錯して描かれます。この2本は脚本が濱口竜介監督ではないのですが、独特な後味の残し方はまさに濱口ワールドなのでは?また「永遠に君を愛す」では濱口監督の映画の特徴でもある「オープンダイアローグ」的な対話が行われるなどのシーンを垣間見ることが出来ます。

 「天国はまだ遠い」というのは濱口監督が脚本・演出をしたもの。高校生の時に事件に巻き込まれて亡くなった姉(小川あん)のことを再取材してドキュメンタリーにしようとする妹(玄理)と、姉が憑依した男(岡部尚)との3人の物語。38分の短編ながら中身が濃くて死とは?なんだろうか?ということ。個人とは何だろうか?家族とは?そして魂とは?みたいなことを考えさせられるものでした。ある悲しみに対しての、失われてしまったものへの魂の救済がここでも「オープンダイアローグ」的な手法を使って描かれています。小川あんの話を先日、知り合いの國武さんから聞いていて、この日の上映で見てビックリでした。

 ちなみに濱口監督は東日本大震災で被災した多くの方にインタビューを行うというドキュメンタリー作品を監督されています。2011年から2013年にかけて。「なみのおと」「なみのこえ新地町」「なみのこえ気仙沼」というシリーズ。これらは山形国際ドキュメンタリー映画祭でもとても話題になった作品群でした。あの時の監督が濱口監督だったことを知ったのは「ドライブ・マイ・カー」の後になってからでした。特集上映ではこれらの作品の上映も行われるようです。



 どちらにしても濱口監督が東大から東京芸大映画学科に行って映画を作り続けて今に至る二十数年の歴史を垣間見ることが出来る上映会です。この上映が組まれるきっかけになったのが濱口監督が「他なる映画と1」「他なる映画と2」が出版されるというタイミングだそうです。

私はこの上映をジュンク堂の堂島店で濱口監督の著書のコーナーに映画上映のチラシが置かれていたことがきっかけでした。まだまだ大阪の文化芸術のシーンについていけていない私ですがこうして少しづつ経験を積み重ねていければと思いました。十三土産に喜八州総本舗の本店で「きんつば」を買って帰りました。

PS:帰宅して濱口監督のことを調べていたら私の祖母が住んでいた鳥取の東郷町に素敵な映画館をされている家族がいるという記事を読んで、この素敵な生き方に感動してしまいました。詳細はhttps://tottolive.com/archives/1051

映画館は https://jigtheater.com/information/

デザインが素晴らしいです。鳥取県倉吉市で生まれた私は、今度ここにぜひとも行ってみたいと思います。







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