残業後のぐるぐるバット
こんな風に仕事もせずにだらけて寝ている人間はどこにもいない。私だけだ。だから私には権利がないと思っている自分と、この機会に休みをしっかり享受して満喫しようと思っている自分がいる。眠くて昼まで寝てる自分を厳しい自分が白い目で見る。着実に元気にはなってきている。お風呂に入る間隔が短くなったし(毎日お風呂に入るのはまだ難しい)、外に出られる日も多くなってきた。夜眠れるようになってきたことも大きい。今の目標は午前中に活動すること、朝ごはんを食べることだ。
銀行へ行きたかったけど、銀行前に着いたのが15時だったので諦めた。住宅街を散歩していたら、小さな公園で子ども達がたくさん遊んでいて、嬉しくなった。遠くから歓声が聞こえると思って行ってみると、高校の校庭で何かの競技をしているらしかった。私も大きな声を出してはしゃぎたい。体を動かすのが下手くそすぎて爆笑したりしたい。
新卒で働いていた職場でぐるぐるバットをしたときのことを思い出した。私は認定こども園でクラス担任を持ち、毎日忙しく働いていた。今の生活からは考えられないが、朝早く仕事に行って、園が閉まるまで残業し、終わらない分は持ち帰って睡眠を削りながら仕事をしていた。ある日残業していると、先輩の先生が走ってきて「ぐるぐるバットしない!?」と謎な誘いをしてきた。なにそれと思いながらも若手らしく「やります!」と返事をして、お遊戯室へ向かう。ベテランから若手まで数人の先生が集まっている。なぜか主任もいる。誰がなんでぐるぐるバットやろうと言い出したのか、メンツを見てもよくわからない。人数分の突っ張り棒が置いてある。これがバットの代わりらしい。おでこをつけてぐるぐるすると、突っ張り棒もぐるぐるして長さが短くなっていく。ぐるぐるしながら、苦しそうな声と笑い声が聞こえて来る。残業で疲れた頭では、もうこの状況だけでおもしろくてゲラゲラ笑っていた。最後に若手2人だけでぐるぐるバットをさせられ、ぐるぐる回って顔を上げると、お遊戯室には誰もいなかった。隣で2年差の先輩が笑っている。ステージ目がけて走っていきゴールすると、隠れていた他の先生達が出てきて、設置されていた携帯の動画を確認する。私たちのぐるぐるバットは、誰もいないドッキリに加え動画を取られていたらしい。その動画を見て、みんなでめちゃくちゃ笑った記憶がある。ぐるぐるバットという名のライングループを作り、その動画は全員で共有された。仕事中なのに、なぜかぐるぐるバットをして爆笑していて、不思議だった。高校生が体育の授業中にふざけて遊んでるみたいだ。その年の主任からの年賀状には「ぐるぐるバット最高!」と書かれていた。
仕事は大変で責任感に押しつぶされそうで、ずっとここにいたらいつか大きな病気になるんじゃないかと思っていたし、なんなら今すぐ重い病気になってやむを得ず仕事を休むことになりたいと思っていた。実際数年後には転職した先の職場でメンタルが壊れ、仕事に行けなくなっていた。そのくらい辛かったのに、楽しかったことを思い出す。受け持ちの子ども達が本当に愛おしかった。あんなに愛おしい子達がいて、なんで辞めたんだろうと思ってしまう。今から数年後、2024年現在のことをどのように思い出すのだろうか。自分のことを権利がないと思うような罪悪感や劣等感はすっかり忘れて、楽しくみんなとお酒を飲んだり、100円ショップでせっせとシール交換用のシールを集めたりしたことだけ思い出せたらいいな。