見出し画像

「ジェンダー」について学びたいけど何読めばいい?ジェンダー研究6年目、私の本の探し方

 「ジェンダー」について知りたい、学びたい。でもどこから始めればいいのだろう?何を読めばいいのだろう?

「ジェンダーを学ぶのにおすすめの本はありますか?」

 文学とジェンダーの授業の初回。学生の質問に、先生は「たくさん、本当にたくさんあります」と困ったように言っていました。そう、本当にたくさんあるのです。長年研究してきた先生はそれこそ膨大な量の本を知っているでしょう。でも質問した学生の気持ちも分かります。興味を持った分野がある時、どこから手をつけたら良いのだろう?と思うときはしょっちゅうあるからです。

 私は大学生になってから読んだ本がきっかけでジェンダー・セクシュアリティ研究と文学研究を始め、今年で6年目になります。なかなか解決しない性差別、ジェンダー研究をしていると言うと、「私もジェンダーに興味あります」「おすすめの本は?」と話が弾むことが増えてきました。最後には自分で見つけた本が一番面白いと思います。ただどうやって見つけるかの一歩目が少し大変。私も全く分からないなか、どうやって本を探したり自分なりに研究してきたか書いてみようと思います。これから学びたい人に読んでもらえると嬉しいです。
(※本文中の著者名は敬称略)

1. どんな本を読もうか?

 ジェンダー・セクシュアリティは本当に色々な部分に関わっています。家族、メディア、科学、ポップカルチャー。どれを見たって「ジェンダー/セクシュアリティ」の視点から考えることはできる。だから、初めは自分の興味のあること・日常で気になっていることから探していくといいかもしれません。とはいえ私は日常で気になっていることから探したのではなく、大学の授業で紹介された『ハッピーエンドに殺されない』(牧村朝子、青弓社)を読んだことが始まりでした。文筆家の牧村朝子がCakesで連載している人生相談を書籍化したもので、セクシュアリティに関する話が多く載っていました。もう、世界の見え方が変わるってこういうことかと思ったのを覚えています。だから「きっかけ」があればそれが大事だと思います。

 でも、いきなり研究書や学術書に挑むのは難しい。「インターセクショナリティ」「ジェンダー表象」「SOGI」等々、初めて見ると「何??」となることばも沢山あるからです。そのため、新書や入門から入るのが良いと思います。

 例えば、ジェンダー文化論・表象文化論研究者の若桑みどりが書いた『お姫様とジェンダー』という有名な新書があります。同じ著者の『表象としての女性像』は分厚く、ある程度知識があることが前提となっているため、初めて読むとしたら多分途中でやめてしまう(とても面白く素晴らしい本なのですが)。でも、『お姫様とジェンダー』は大学の講義を基に、ディズニープリンセスとジェンダーについて書かれており初めて読むのにぴったりです。ジェンダー・セクシュアリティ研究をしていると言うと、よく「『お姫様とジェンダー』読んで興味持ってる」と返されることが多いです。

読みたい傾向の本が決まったら、図書館・本屋・インターネットを使い探してみます。

2.「検索」で探す

 本屋や図書館にある検索システムの「キーワード」に「ジェンダー」「セクシュアリティ」と打ち込んでみる。「AND」で2つ以上キーワードを打ち込めるから、「家族」「ジェンダー」や「メディア」「ジェンダー」といったように検索すると色々と出てくるはずです。インターネットで検索する場合は、検索エンジンに打ち込むより、出版社のホームページ内で検索することがおすすめ。新書を出している大きな出版社とか、ジェンダー・セクシュアリティの本を多く出している出版社など。

3.本を探そう~公共施設・大学編 

 ①図書館のススメ

 本屋や図書館で探すことがお勧めなのは、よく言われるように、探していた本の隣にも面白そうな本がある、といった「ラッキー」がしばしばあるからです。
 最寄りの図書館に「レファレンスサービス」があれば、レファレンスサービスを活用(どこの図書館にもあるのでしょうか。私の地元にはなかった気が)。「○○について知りたいのですが」と聞けば、調べる方法を教えてくれたり、一緒に本・資料を探してくれたりするプロフェッショナルです。私も以前聞いた時、なかなか良い本が見つからなかったことがあったのですが、その人は「悔しい......」と呟き、私が「そこまでしなくても」と言いたくなるくらい熱心に探してくれました(どれほど熱心に教えてくれるかは、「レファレンス協同データベース」を見てみて)。

 さらに図書館では、本の特集を組んでいることもあります。例えば東京都の武蔵野市立図書館では最近「違いは世界を豊かにする」と題した特集コーナーを設け、ジェンダー・セクシュアリティから人種差別、障がいなどに関する本を置いていました。

「偶然」良い本に会える機会も多くなるはずです。

②男女共同参画センター・ジェンダー研究センター

「男女共同参画センター」では本を貸し出していたり、講演・映画の上映会を企画していたりします。自分の住む町や近くのセンターを探してみるのもいいかもしれません。例えば武蔵野市の「ヒューマンあい」では本が借りられ、少しですがマンガもあります。生理用品の無償提供もしており、前にもらった時は中にDV相談の案内や乳癌健診のパンフレットも入っており良いと思いました(私は武蔵野市民ではないのですが...)。

また、大学のジェンダー研究センターのなかには在学生以外にもオープンにしているところがあります。ジェンダー研究センターのある大学を調べ、そのセンターのイベント情報を見たり連絡を取ってみたりすることも手だと思います。

おまけ:公共施設で本を探すもう一つの利点

 私が公共施設(図書館)で本を探すもう一つの理由は、「本のニーズ」を伝えられるからです。パンデミックが始まった年、オンライン授業のため私は地元で暮らしていました。田舎の小さな公共図書館にはジェンダー・セクシュアリティの本は僅かしかありません。研究書もまずない。そこで考えました。

「ジェンダー・セクシュアリティの本をどんどんリクエストして増やせば良いのではないか?」

 小さな町ということもあり、その図書館は新刊であればほとんど買ってくれたんです。その年に出たジェンダー・セクシュアリティ関連の本を次々にリクエストし増やしていくという地味な運動に励んでいたのでした。その後、図書館がジェンダー・セクシュアリティの本を積極的に入れるようになったかと言えば多分違うのですが、でも、記録には残るはずだし「こういう本が求められてる」というニーズが町にも伝わるのかな、と思っています。その県内の別の図書館からリクエストがあれば貸し出せますし。

4.本を探そう~本屋と出版社編~

 ジェンダー・セクシュアリティ、フェミニズムに関する本を出している出版社は沢山あります。また、そうした本を専門に扱う本屋も増えてきていると思います。例えば、エトセトラブックスやloneliness books。エトセトラブックスからは翻訳作品やフェミニズム運動の本が次々と出ています。loneliness booksでは、日本で出版されるジェンダー・セクシュアリティ関連の本には英語圏のものが多い中、韓国や台湾の本、雑誌、zineを売っているところが素敵!エトセトラブックス、loneliness booksともに東京にある本屋ですが、オンラインストアもあります。
 出版社でいうと、私は最近、インパクト出版会とDU BOOKSの本をよく読んでいます。インパクト出版会は学術書・研究書が多く、特に戦時下・戦後の性暴力や戦争加害について研究した本をたくさん出版しているように思います。HPにある一文がしびれます。DU BOOKSはジェンダー・セクシュアリティに特化しているわけではありませんが、レズビアンのラブストーリー『アデル、ブルーは熱い色』の原作や、話題になった『BOYS 男の子はなぜ「男らしく」育つのか』といった「お!」となる本をたくさん出版しています。ジェンダー・セクシュアリティに興味を持つ前から知っていたわけではなく、手に取った本で知ったり、図書館で調べていて見つけたりしました。

本屋や図書館、センターに行くと、先ほど書いたように思いがけない本に出会うだけでなく、映画や講演会のチラシがあるなど、さらに多くの機会が得られ、そこから興味も広がっていきます。

5. 芋づる読書

 一冊読み始めれば、そこからどんどん広げていける。こちらのものです。本を読んだときにいいことは、その本の中に別の本や論文が引用されていること。一冊読めば、そこに引用されていた本を次は読んでみる。それから著者の別の本を読んでみる。本を出しているだけでなく、ラジオに出演していたり、ウェブで連載を持っていたりするかもしれません。一冊からするすると興味のある本が出てきます。
 例えば、私はパンデミック1年目に『戦う姫、働く少女』(河野真太郎、堀之内出版)という本を読みました。映画やアニメ、ポップカルチャーのジェンダー表象について書かれたもの。そこで分析されている映画を観たり、ちょうど「国立人文学研究所」で、著者による計四回のオンライン講座があると知り申し込んだりしました(「こくりつ」ではなく「くにたち」人文学研究所です)。そこで取り上げられていた『高慢と偏見』と『ブリジット・ジョーンズの日記』から古典作品の翻案に興味を持ち....と、繋がっていきました。

6. メモをする

 メモを取るのも良いと思います。特に大学生は、授業に関係ない本でもメモしておけば、思わぬところで繋がりレポートで引用できたりするから。そして、本を読んだり経験したりするごとに、自分の考えは変わっていきます。だから「その本を読んだとき」の自分の考えをメモやブログに残して置くのはとても良いと思います。

7. 読めないことに無理をしない

 難しい本をちょっと頑張って読んでみる、という「無理の仕方」は私は好きです。でも、「話題になっているのに読めていない」と焦ることは研究などでない限りしたくないと思います。ちょうど現在、『映画を早送りで観る人たち』を読んで「恐ろし~」と思っているのですが、人に置いていかれないようにしないと、と無理やり読む必要はまったくないと思います。仕事でというなら別かもしれないけれど。自分が選ぶ本は、どこかで気にしていることがあったり、その時の自分に必要だったりすることが多いからです。読んでいて、ああ、私はこれを気にしていたのだなと気がつくこともけっこうあります。だから「置いていかれる」と焦る必要はなく、自分が読みたいタイミングで読めば良いと思います。本当に焦るべきは、授業の前日にリーディング課題が終わらない時。

8. 大学でジェンダー研究をすることについて

 大学でないと学べないのか? について。ジェンダー・セクシュアリティについて学べる場所は大学だけだとか、考えることが大学の中だけで良いということはないと思っています。大学の良いところは、本や論文に豊富にアクセスできるところと、研究してきたプロがいるところです。論文は自分で手に入れようと思えばお金がかかりますし、大学の教授から学べることはとても貴重です。その意味では大学で学んだり、研究したりすることは良いと思います。

 ただ、大学には閉鎖的な面も感じることがありますし、学費は高い。学生ローンのことを考えれば青くなるし、返せなければ自己責任がどうのと余計な横やりをいれてくる人もいる。それに、疲れてくると「難しいものなんて読めない。ツイートしか頭に入らない」と思う時もかなしいかなあって、どうしたものかと思います。

 最近「大学は意味ない」と言い、分かりやすく断定する人が「賢い」と評される風潮が残念で、最後にこの項を加えました。ラジオ『アフター6ジャンクション』のブックトーク(荻上チキ)で言っていたように、そんなに簡単に言い切れるものではないから研究しているのです。むしろ、研究すれば「もやもや」が増えていくばかりではないかと思うことがあります。

でも、私はジェンダー・セクシュアリティの視点を知ったことで、文学の読み方がとても広がり、豊かになりました。そして、生きているとぶつかる「小さくあれ、縮こまっていろ、委縮しろ」というプレッシャーと格闘するための考えと手段を得ることができました。その考えや方法をくれたのは誰かが書いた本でした。だから少しでも読む人が増えたらいいなといつも思っています。

おまけ

『フェミニストとしておすすめする本屋6店』

『フェミニズム本すごろく』


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?