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詩『虫黑』

日永に 弦を弾く
瞼を縫い付け ひとりを選んだ

ある日 少女が傍にやってきた
名は紫由(しらゆい)
朗らかな声が 可愛らしい

紫由は 雨が降るとやってきた
雨のしずくが 音色を包み
弾けるしずくは 声を隠した

紫由は わたしに話す
美しいもの ひとつ

春の新緑
川の水光
蝉の柔らかな体

紫由は 美しいものを見つける

昨日
一昨日
もっと 前 もっと 前

過去を美しいとした 紫由
わたしは 意地悪を思い立つ
その美しきの中に わたしは存在せぬか
寂しげに装い 尋ねる

紫由は 口をつぐみ 心のうちを語る
明日より 辛いものはない
今より 悲しいこともない

きっと 紫由は泣いているのだろう
わたしは 紫由に 願った
瞼を開いてくれ と

翌日 紫由は 鋏を使い
わたしの目を ひらいてくれた
視界に映るは 柘榴のように 透き通った赤
小さな岩壁のように 赤が 面の皮を覆った
可愛らしい 女の子の姿

紫由
彼女は わたしが名を呼ぶと 目を丸めた
わたしは 続けて 話す
美しい こと
美しい もの
わたしも ひとつ 教えたい
触れた赤色は ガラスのように硬かった

紫由
今までも 明日も その先も
美しい ひとつ
優しい 子供




続き

虫黑(むくろ)は、アルファポリスにて連載中の『やわらかなつの』の御伽噺に、いずれ小説として書こうと思います\\\٩(๑`^´๑)۶////



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