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詩『紫由』
⚠️暴力表現
深い 深い 暗い森
山奥の洞窟にゃ 誰も近づきやしない
まるで 私にするみたいに 怖がって敬遠した
村人は臆病だ
臆病者だから すぐにぶつ
ガリ ガリ ガリ
顔の半分を覆うデキモノを爪で引っ掻く
柔らかくなった爪の先は 惨めにも欠けてしまった
一歩 わたしは踏み出す
洞窟の奥には 変な男がいた
男の名前は 虫黑(むくろ)といった
両瞼をジグザグに縫い付けた 不気味な男
虫黑は 私の姿が見えない
だから 安堵してしまった
だから 掠れた声で話しかけた
虫黑は 静かに相槌を打っていた
ただ 静かに
相槌をひとつ
相槌をひとつ
私は 虫黑を哀れに思って 教えた
美しき ひとつ
すると 虫黑は 柔らかく息を吐いた
その顔は 笑っていた
お前にとって それは美しいのか
初めて 誰かから 返事をもらった
初めて 会話を成し遂げた
私なんぞに 言葉が返ってきた
笑うと 皮膚が突っ張った
相変わらず デキモノは邪魔くさい
私は 毎日 洞窟に向かう
毎日 毎日
虫黑に あげた
美しき ひとつ
美しき ひとつ
ある日 虫黑が願った
瞼を開いて欲しい と
私はハサミで 糸を切ってやった
虫黑は 私の名を呼ぶ
紫由(しらゆい)
優しい声で 私の名を呼んだ
美しいもの ひとつ
優しい 子供
そういって 醜いデキモノ 触った
虫黑の瞳は 陽に透ける葉の色をしていた
美しいもの ひとつ
また見つけた
虫黑は物知りだ
寒さの凌ぎかた
食べられる植物
小さな命の捕らえかた 食べかた
トンボを指に留める方法
てんとう虫の飛ばしかた
たくさん 教えてくれた
世界は 美しいと
たくさん たくさん
虫黑
優しい人
悲しい人
美しい人
虫黑は 立派なお人
尊い人
素晴らしい人に近づいたから
仕方ない
仕方なかった
頭が痛い
頭が痛い
村人 怒った
無意識に笑った 私
許せなくて怒った
虫黑の瞼を開いたハサミで 私を切りつけた
切りつけて 殴った
殴って 殴った
頭が痛い
手足が寒い
虫黑
ひとつだけ
ひとつだけ 教えてあげる
大好きなもの ひとつだけ
虫黑
貴方の 膝の上
そこから見る景色
そこから聞くお話
全てが 大好きだった
貴方のお膝の上 大好きだった
それと もうひとつ
美しいもの ひとつ
聞いて 虫黑 聞いて
美しいもの ひとつ
私を見下ろす 貴方の瞳
陽に透かした葉 貴方が持つ瞳の色
なんて きれい
虫黑
明日も 明後日も
一緒にいて
貴方がいる 全ての日々
きれい 嬉しい
幸せは 大きな ひとつね
大きな 大きな ひとつ
虫黑
虫黑
なかないで
次
https://note.com/harubaru_misaki/n/n2fd25bb20c65
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紫由の名前の由来などは、小説にする時に描こうと思います。
多分、詩は次で最後です。