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ケアの視点から学校を深く理解するためのBook List (2025版)
この記事に興味をもっていただいたみなさん、ありがとうございます。
この記事を書いているのは、石橋です。
初めて僕のことを知る方もいらっしゃると思うので、少しだけ自己紹介させてください。
自己紹介
★これまで
まちづくり、組織開発、学びの場づくりなどに取り組んできました。
★キャリア
①NPO設立
・まちづくりや組織開発領域にグラフィックファシリテーターとして伴走
↓
②公立小学校教諭(NPO兼業)
・子どもたちとクラスづくり、職員室の組織づくり
↓
③教育系企業&個人事業
・学校にはない組織の在り方を探究、学校の組織づくりに伴走、探究学習への伴走、リサーチ(インタビューと分析)
↓
④私立中高教諭(社団法人兼業) \\ 今 //
・学校改革真っ只中の学校に参画
キャリアとしては、紆余曲折ありますが、軸は人と人の関係性がよりよくなり、組織風土がよくなるためにはどうしたらいいか?です。
フィールドは、課題も可能性もたくさんある学校組織です。
★今
場づくりや組織づくりを実践してきた中で、2025年に自分の中に立ち上がってきたテーマが「学校組織の解像度を正義とケアの視点で捉えて、深め、クリアにしていく」です。
今年は、正義とケアの観点を深めるための読書会をゆるやかに継続しています。
自己紹介はここまでにして、このテーマが立ち上がってくるまでにここ数年で読んだ本をリストアップしていこうと思います。
今回は、ケアの視点で眺めてみるためのおすすめの本たちです。ただ、ケアの領域は広いので、あくまで、学校組織の解像度を上げるという観点をベースに選びました。また、直接ケアという言葉が出てこない本もあります。
良い本を見つけたら随時更新しますね!
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ケアの哲学的基盤
大学生時代に手に取り、読んだ本です。改めて読むとノディングスの考えのエッセンスが凝縮されています。ケアリングの視点で学校組織やカリキュラムを再構築することの必要性が述べられています。
ノディングスにとっての教育とは、ケアし、愛される能力ある個人の成長を育むことです。
そんなノディングスのケアの倫理についてここではまとめておきます。従来の倫理学では、ルールや正義、公平さなどが重視されてきましたが、ノディングスは「ケア」こそが倫理の根本だと考えました。単に義務を果たすだけでなく、相手の気持ちを理解し、共感し、相手の成長や幸福を願う気持ちが大切だと説いています。さらにノディングスは、人間関係の中で「ケア」は生まれると考えます。例えば、親が子供を世話する、教師が生徒を教えるといった具体的な関係性の中で、「ケアする人」と「ケアされる人」がお互いに影響しあい、成長していくと考えます。つまり「ケア」は一方通行ではなく、双方向のやり取りです。「ケアする人」は相手の気持ちやニーズを注意深く聞き(受容)、理解しようと努め(承認)、それに応じた行動をとる(応答)ことが大切であると説きます。また、従来の倫理学は理性や論理を重視する傾向がありましたが、ノディングスは感情や具体的な経験も大切だと考えます。ケアが相互変容を起こしうるということをノディングスは教育の場を用いて論じました。まず、教師は生徒を単なる教え子としてではなく、個性を持った人間として尊重し、共感を持って接する必要があります。生徒の気持ちに寄り添い、彼らの成長を心から願う態度が大切です。また、一方的な知識の伝達ではなく、教師と生徒の間で活発な対話が行われることが重要です。教師は生徒の意見や疑問に耳を傾け、適切に応答することで、生徒の学びを深めます。さらに「ケア」は単なる概念ではなく、具体的な行動を通して学ぶものだと論じます。また、具体のカリキュラムに落とし込む必要についても述べられています。ボランティア活動や地域貢献活動にも落とし込む必要があり、また教科学習においても、「ケア」の観点を落とし込む必要性があります。歴史の授業で過去の人々の暮らしや苦労を学ぶこと、文学作品を通して人間の感情や関係性について深く考えることも、「ケア」の学びにつながります。数学教師であったノディングスらしい考え方です。
これらの考えはデューイの考えにも連なる物であり、その哲学は綿々と教育というフィールドで引き継がれています。
ミルトン・メイヤロフの本です。前述のノディングスはメイヤロフの思想から大きな影響を受けています。二人の関係を理解する上で重要なポイントは、メイヤロフがケアの概念を包括的に論じた先駆者であり、ノディングスは彼の思想を教育や倫理の分野に具体的に展開したという点です。なので、ノディングスの学校におけるケアの倫理を理解するには、メイヤロフの論は避けては通れません。
メイヤロフのケア論
ミルトン・メイヤロフは、この本の中で、ケアを人間存在の根本的なあり方として捉え、包括的に論じました。彼のケア論の重要な要素は以下の通りです。
成長を助けること:メイヤロフは、ケアを「他者(または何か)が成長するのを助けること」と定義しました。これは、単に世話をすることだけでなく、相手の可能性を引き出し、自己実現を支援することを意味します。
ケアの要素:メイヤロフは、ケアには「知ること」「交互性」「忍耐」「正直さ」「信頼」「謙虚さ」「希望」「勇気」といった要素が含まれるとしました。これらの要素は、ケアする側が持つべき態度や行動を示しています。
専心(devotion):メイヤロフは、ケアにおいて「専心」が重要であると述べました。これは、相手に心を向け、注意深く関わることを意味します。
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ケア×ナラティヴ
この本は、医療やケアの現場における「ナラティヴ・アプローチ」の重要性を説いたもので、ケアの本質を「対話」と「承認」に見出しています。 「ナラティヴ」は、シンプルに捉えると「物語」という意味ですが、この本では、物語ることの重要性、とりわけ、ケアされる側だけでなく、ケアする側のナラティブの重要性についても述べられています。ナラティヴ・アプローチは、人の経験を物語として捉え、その人の語る物語に耳を傾けることで、その人を深く理解しようとする方法です。この本では、解釈、調停、介入と段階をおって説明をしてくれ、自分史の作成など医療現場での具体の実践も載っています。後半はオープンダイアローグについての記述です。 医療やケアの現場では、患者の病気の経験や人生の物語に耳を傾けることで、その人の苦しみやニーズをより深く理解し、より適切なケアを提供することを目指しますが、ケアされる側への共感的理解が生まれる背景には、ケアする側も持っている自分自身も同じ”死にいたる存在”という概念があることだというのがこの本の主張です。
ケアをひらくシリーズからの1冊です。社会構成主義の立場から対人援助における関係性に焦点をあてたナラティブ・アプローチを解説する本です。特に、ドミナント・ストーリーとオルタナティブ・ストーリーへの言及があります。人は社会や文化の中で共有されている「ドミナント・ストーリー」(支配的な物語)の影響を受けていますが、同時に、自分だけの「オルタナティブ・ストーリー」(もう一つの物語)を持っています。ナラティヴ・アプローチでは、このオルタナティブ・ストーリーに注目し、それを語り直すことで、新たな可能性や自己理解を促します。さらに問題を「自分の中にあるもの」と捉えるのではなく、「自分と切り離された外にあるもの」と捉えることで、問題との関係性を変化させ、問題に支配されないようにします。ケアの現場でのナラティブアプローチの有用性として、患者さんが自分の物語を語り直すことで、主体性を取り戻し、エンパワメント(力を与えること)につながることがあげられます。対話を通して患者とケア提供者との間に信頼関係が築かれ、より質の高いケアが提供できるようになります。
上記2冊で説明されるナラティブアプローチを教師が学校で用いるならば、児童生徒、同僚、保護者、地域の人々と関わるときに相手の置かれた状況に目を向け、相手の物語りを傾聴することがそれにあたります。相手の物語りを受容することでケアしていく。教師にとって必要なスキルです。
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ケア×プロセスコンサルテーション
ケアという言葉を深く掘り下げる本ではありませんが、プロセスコンサルテーションの大家エドガー・シャインによる「助ける」という行為について脱構築を目指す本です。
従来の「助ける」ことへの批判から始まります。シャインは、従来の「助ける」行為には、相手に依存心を生み出したり、相手の主体性を奪ったりする危険性があると指摘しています。例えば、相手の問題を代わりに解決してしまうことや、一方的にアドバイスを押し付けることは、相手の成長を妨げてしまう可能性があります。そこでプロセス・ヘルプという新しい支援の形を提案します。これは、相手が自ら問題を解決するプロセスを支援することであり、相手との「協力関係」を築くことを重視する方法です。プロセス・ヘルプを実現するための7つの原則は以下の通りです。
①純粋な動機から始める: 相手のためになることを心から願う気持ちが大切です。自分の優位性を示したいとか、恩を売りたいといった動機ではなく、純粋に相手を助けたいという気持ちから始めることが重要です。
②接触と最初のやり取りを大切にする: 最初の出会いは、その後の関係性を大きく左右します。相手の状況やニーズを丁寧に聞き取り、信頼関係を築くことが大切です。
③相手の話を注意深く聴く: 相手の言葉だけでなく、言葉にならない感情や背景にも注意を払い、共感的に理解しようと努めます。
④相手に質問する: 相手が自ら問題に気づき、解決策を見つけられるように、適切な質問を投げかけます。答えを教えるのではなく、相手の思考を促すことが重要です。
⑤無知の姿勢をとる: 自分が全てを知っているという態度ではなく、相手から学ぶ謙虚な姿勢が大切です。相手の専門性や経験を尊重し、敬意を持って接します。
⑥支援は常に暫定的であることを意識する: 自分のアドバイスや支援が常に正しいとは限りません。相手の状況やニーズに合わせて、柔軟に支援の内容を調整していくことが大切です。
⑦状況が変化したら、関係を解消する準備をする: 相手が自立し、自分自身で問題を解決できるようになったら、潔く関係を解消する準備をします。依存関係に陥らないように、適切な距離感を保つことが重要です。
共依存の関係ではなく、相手が自立することを助けることがケア。そのためにコンテンツやゴールではなくプロセスに目を向けること。教師と児童生徒の関係においても必要な考え方です。
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ケア×共感
NVC(Nonviolent Communication:非暴力コミュニケーション)は、マーシャル・B・ローゼンバーグ博士によって提唱されたコミュニケーションの手法で、共感に基づいた人間関係を築くことを目指します。「共感的コミュニケーション」や「非暴力コミュニケーション」と訳されます。NVCで大切にされている考え方は多岐に渡りますが、大きく分けると以下のようになります。
①意図の重視
NVCは、単に言葉の技術ではなく、コミュニケーションを通してどのような関係性を築きたいのかという「意図」を重視します。相手と心から繋がり、共感し合える関係性を築きたいという意図を持つことが、NVCの基本となります。対立や支配ではなく、相互理解と協力を目指します。
②NVCのステップ
NVCは、「観察」「感情」「ニーズ」「リクエスト」という4つの構成要素を用いてコミュニケーションを行います。
観察(Observation): 事実を客観的に描写すること。評価や解釈を交えずに、何が起こっているかをありのままに表現します。「あなたはいつも遅刻する」ではなく、「あなたは過去3回、会議に10分以上遅れてきた」のように伝えます。
感情(Feelings): 観察したことによって自分がどのように感じているかを表現すること。「あなたはいつも遅刻する」と言われた時に「あなたは私を軽んじている」と感じたと解釈するのではなく、「あなたは過去3回、会議に10分以上遅れてきた」という観察に対して「私は落胆している」や「私は心配している」など、純粋な感情を表現します。
ニーズ(Needs): 感情の背後にある、満たされていない普遍的な人間のニーズ(必要としていること)を特定すること。ニーズは、安全、つながり、自律性、休息、遊びなど、人間が共通して持つものです。上記の例であれば、遅刻によって「会議の時間を有効に使いたい」というニーズや、「時間通りに物事が進むことで安心したい」というニーズが満たされていない可能性があります。
リクエスト(Requests): 相手に具体的な行動をリクエストすること。曖昧な表現ではなく、具体的で実行可能なリクエストを、命令ではなくお願いの形で伝えます。「これからは遅刻しないで」ではなく、「これからは会議の5分前には到着するようにしていただけると助かります」のように伝えます。
ケアの倫理を道徳的規範として包摂しようとしたマイケル・スロートによる本です。ギリガンやノディングスのように学校や福祉の現場におけるケアという実践倫理としてのケアだけではなく、共感を軸に哲学的な規範倫理としてケアの倫理を他の哲学的考え方と比較して展開していくのがこの本全体の構成になっています。
この本では、政治的側面でのケアの倫理の重要性について述べられていますが、学校を小さな社会と考えたとき、学校もまた自由主義的な考え方とケアの倫理が混在する場だと思います。そのときに、自律や成長を促す側面を強調するのか、共感的な関わり方でいくのか。もっと繊細な問題としては学校におけるパターナリズムの問題もあります。立場の上の教師が良かれと思って生徒のために生徒の生き方の方向性を定めていくこの問題に関しては、自律とケアの間に横たわる大きな問題です。この辺りを哲学的に詳しく追っていきたいときにはこの本は適切な本だと思います。
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ケア×在り方
べてるの家については、場づくり界隈ではユーモアあふれるビジョンの中で日々の日常に根ざしたケア事業を進めていることで有名です。もう少し詳しくべてるの家について紹介しておきます。べてるの家は、北海道浦河町に位置する精神障害者の方々が地域で自立した生活を送るための活動拠点です。1984年の設立以来、地域住民の協力のもと、精神障害者の方々が住み、働き、そして互いを支え合う共同体を築いています。べてるの家の理念は、「弱さを絆に」です。精神障害を持つことは決して恥ずかしいことではなく、その弱さを認め合い、支え合うことで、強くなれるという考え方です。べてるの家は、精神障害者の地域生活支援のモデルとして、全国に広がっています。また、地域住民との共生や、当事者主体による活動は、社会全体に大きな影響を与えています。
この本は、べてるの家を扱った書籍の中でも最も有名な本ではないかと思います。少なくとも僕は、ファシリテーションとは何か、人ととの関わりとは何かをこの本から学びました。対人援助の専門家として、教師はどのように他者に関わるとケアにつながるのかを考えています。つい、過度に関わりすぎてしまう。もしくは、放任しすぎてしまう。この本は、べてるの家を利用する人たちの当事者研究から、現代の対人援助職の関わり方は過度になりすぎていないかということを世に問う本だと思います。soarでのべてるの家の向谷地生良さんへのインタビューが、現在のべてるの家についての詳細も出てくるのでおすすめです。またケアをひらくシリーズでは、まもなくべてるの家の最新刊が出ます。
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ケア×学校
ケアの視点をもって実際に学校ではどのような活動が行われているのか。それが知れる本です。ノディングスのケアの倫理は学校での子どもとの関わり合いから生まれた考えですが、具体は読み手が想像しなければいけません。この本では、具体的な場面も掲載されていますので、学校現場でのケアとは何かを知るためにはおすすめの一冊です。また、学校だけでなく、他の領域での実践も掲載されています。
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ケア×対話
この二つの本に共通するのは、ポリフォニー。対話を通して、多元的な自己や場における複数の声を包摂すること、対話を続けることが回復(ケア)につながるという立場に立ちます。オープンダイアログの哲学をベースにしながら論が進んでいきますので、オープンダイアログとは何かをインストールしてから読むとさらに理解が深まります。
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正義とケア
ケアの倫理は、カント的自由主義や功利主義の立場と異なります。なので、社会について考えるときには、リベラリズムや正義の論との関係性の上で論じられる文脈が多くなります。上記2冊は、ケアの倫理にまつわる研究者による正義論の中でのケア、正義論とケア論の接合などを試みた著作です。学校に関わる以上、この正義とケアという問題提起は切っても切り離されない問題でしょう。この問題を実践的に学校の中では日々扱っていますが、それが倫理としてどのような文脈に位置付けられているかを知ることは、学校への眼差しを深める上では必須です。上記2冊は、ケアの文脈だけではなく、正義の文脈にもつながりますので、別の記事で深掘りしていこうと思います。
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ケアにまつわる良質なエッセイたち
傷とは何か。その傷を愛せるのか。専門書ではなく、著者の宮地尚子さんが様々な場所をおとづれた際などに記されたエッセイ集です。最後の章の、アメリカにおけるベトナム戦争の像については、世界史を教えている僕としてもアメリカ社会の多様性と歴史の重みを感じることのできた章でした。時折、開きたくなる。そんな1冊です。
日本のパートナーシップ制度、東京とソウルでのライドパレードのことなど筆者の経験をベースに人と人とが重なったり、ときにはずれたりしながら共に在るための共感と距離感の話です。簡単にわかるとは言えないけど、わからないとも言いたくない。この間で葛藤し、その中から丁寧に言葉を紡いでいる筆者の文体にとても惹かれました。共感がケアにつながるからといって、無理に共感しても相手に見通される。児童生徒への共感とは何か、児童生徒の自律につながる適切な距離感とは何か。この問題に葛藤する学校の先生におすすめです。
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あげ始めたら、まだまだあるし、ケアの領域は広いので関連する領域の本もついつい紹介したくなります。が、しかし今回はここまで!
学校に関わる人にはぜひおすすめする本ばかりですので、ぜひ一度気になった本があれば読んでみてください。