吾輩はぼくちゃんである
これはらむねちゃんにそっくりなぼくちゃんのお話。
3年ほど前、大怪我をした子猫が突然現れた。
ぱっと見らむねちゃんにそっくりだった為、怪我をしたのかと慌てて名前を呼び近寄ったら、一目散に逃げていった。
やや縞の黒が濃いし、一回り小さかったので別猫だと思ったが、義父はちび(義父だけちびと呼ぶ)だと言い張り、「ちび!おいで」と呼び続けた。
でも、くるはずがない。
らむねちゃんは家の中から出てきたのだから。
かなりひどい怪我だったので捕まえられたなら病院へ連れて行きたかったが、戻ってこなかった。
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それから約一年ほどだった8月11日。
その猫は突然現れた。
体も、らむねちゃんに負けす劣らず大きくなっていた。体はまだそれ程でもなかったが、丸顔で時代劇俳優のように顔が大きかった。
そしてそのうち、玄関前でらむねちゃんより少し野太い声で鳴くようになった。
私といえばまだあの日から日も浅く、涙にくれる毎日だった。
もうすぐでお盆にその猫(オス)が現れたということは、これは春馬さんに違いない。
私は信じて疑わず、餌をあげるようになった。
さすがに家族の前で野良猫に
「はるま!」
と呼ぶわけにいかず、とりあえずぼくちゃん(←東出さんみたい…)と名前をつけてみた。
うちに馴染み、らむねちゃんが受け入れてくれるなら、家で飼おうではないか。
一応、らむねちゃんがヤキモチを焼かないように見えないところまで誘導し餌をあげた。
私が走ると一緒に走ってついてくる。
かわいい。
スリスリ、にゃあにゃあ。
人懐っこい。
でもこの猫、去勢していないので他の女の子のいるお宅の前ではえげつない声を出して鳴く。
それが我が家に近づくにつれ、声色が変わる。甘えた女の子のように変えてくるのだ。
生き物は凄い。生き抜く術を知っている。
どうすれば餌が貰えるか、可愛がってもらえるか。
餌をあげるうちに、ぼくちゃんは網戸から中を覗き込み鳴くようになった。
(そういえばうちではえげつない声はださないなあ)
すると、らむねちゃんに異変が起きはじめた。
ぼくちゃんが近づいてきたら、そわそわしだしたのだ。あっちへ行ったりこっちへ行ったり忙しない。
網戸越しに目が会えば、「シャー!!」と尻尾をラスカル並に太くして威嚇する。
ありゃ~、これは相性悪いのかな?
ぼくちゃんはそれほどでもないようだが、らむねちゃんが無理のようだった。
そのうちにぼくちゃんの声が聞こえないところまで逃げるようになった。
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それでもらむねちゃんに見られないよう餌をこっそりあげているうちに、情も芽生えてきた(春馬さんだと思ってるし)その矢先。
餌付けをした事が仇となる出来事がおこった。
らむねちゃんは自分で玄関の戸を開けて出ていくが(引き戸なので)残念なことに閉められない。その開けっ放しの玄関からぼくちゃんは忍び込み、らむねちゃんがつけた匂いの場所に片っ端からマーキングしたのだ!そしてしれっと出ていっていたことが判明した。
しかも一番最初に気づいたのはらむねちゃんだった!やたらとクンクンしまくる場所をよく見ると…
何かをかけた跡とともに独特の臭いが!!!
やられた!!
猛省した私は心を鬼にして餌をあげるのを我慢した。所詮動物なのだ。恐るべし本能。
私はそんな訳で餌をあげなくなってしまったが、どこか遠くであのえげつない声がするのが聴こえると少し安心した。
これで一件落着。
にはならなかったのである。
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その年の暮、私と三男は(三男は当時高3でもう夕方早くにはリビングでくつろぐ毎日だった)出掛ける用事があり、朝早くから夜8時過ぎまで家を空けていた。
リビングに入るなり三男はらむねちゃんを探した。
と同時にぼくちゃんの声も聞こえたので私は「ごはんならあげられないの。ごめんね~」と見えないぼくちゃんに声をかけた。私は外で鳴いているとおもったのだ。それでも甘えた声で鳴きやまない。えらく近くで聞こえるではないか?
「ここか〜!!」
三男がこたつ布団をめくったそこには。
らむねちゃんがいつも居る場所にぼくちゃんが丸く収まっていたのだった。
「コラッ!!」
三男が怒鳴った瞬間、ぼくちゃんは瞬く間に走って逃げていった。
リビングにあるらむねちゃんのエサを食べ尽くし、カウンターに出していったおかずを食べ散らかし、ゴミを漁り、らむねちゃんの匂いの全てにマーキングをして臭いを残して…
肝心のらむねちゃんは何処なのだ?
どこにもいなかった。
義父母の部屋にただいまの挨拶と今の騒動の報告にいくと、ちゃんとストーブの前で丸くなっていた。
居場所のないらむねちゃんはちゃっかり自分の居場所を求めにいっていた。いつもはエサをおねだりするか、外から帰ってきての通過点の義父母の部屋であるのだが、今日はずっといるからおかしいなと思っていたらしい。
すぐにできる限りの掃除をしてらむねちゃんの居場所をつくった。
だいたい大丈夫なようにするまでに数日かかった。
それからは我が家は厳戒態勢になった。。
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今でもたまに見かけるぼくちゃんは痩せてなくてすこぶる元気そう。甘え上手だからあちこちでエサをもらっているらしい。だから「あ、大丈夫だな」と町内の皆が思っている。
あるときはどなたかのサンルームの中にいて丸まっていたので、どうしたのか聞いたら、怪我をしていたから病院に連れて行ったとのこと。
なんと幸せな野良猫なのだ!
今日も遠くで声が聞こえる。
そして、せっかくぼくちゃんはと名付けた野良猫は春馬さんじゃないと思う。