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すゞめ/昭咊異聞/その昔、私たちはお友達でした
先生が教室の引き戸をガラリと開けられ、わたくしたちはお話をやめました。先生は、分厚いメガネ越しにわたくしたちの方を見渡され、ふむ、と一つ頷かれました。
「全員揃っていますね。今日は点呼の代わりに、この間提出してもらった、綴り方の返却から始めます。」
そう言うと先生は、あいうえお順に児童の名を呼ばれ、赤丸のついた綴り方を返され始めました。三番目に呼ばれたわたくしは、先生の前に出ましたが、先生
オアシス−2/そこにいたのは、一人の戦士だった
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ある出立の前夜。隊商の借りていた建物が火事になった。隊商の主人が、席を離れたすきに、積み上げていた紙の束が崩れ、燭台を倒したのだ。
四角の窓から、燃え残った紙片が火の粉と灰に混じって舞っている。
隊商の主人である父は、呆然とそれを見つめ、そして狂ったように喚きだした。貸し付けた金の証書に、様々な契約書類、隊商の通行手形、仕事で必要なものも、築き上げたものも全てが灰になろうとしてい
オアシス-1/物語/小説/この町には昔、天使がいた
この町には昔、天使がいた。
少女のような彼女は、いつも石でできたこの窓台に座って、月の砂漠を眺めていた。
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「出て行け!」と怒鳴る声が響いて、日干しレンガを積んでできた、白けた家の四角い戸口から、一人の少年が飛び出した。
「あなた、そんな大声出して。ご近所にご迷惑でしょ」
「何を言ってる。こいつが使えんのは、この町の全員が知っとるわ!」
「そういうこと言ってるのじゃないわ」