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遅咲きのマクドナルド (ショートショート)

 まさか四十にもなって、マクドナルドで夜を越すなんて思ってもみなかった。

 ゼミの飲み会が終わり、気がつくと若い同級生たちはどこかに消え、ナカタさんとふたり、私は夜中のマクドナルドになだれ込んだのだった。
 五十のナカタさんは、フライドポテトのLを三つも頼んでトレーに全部開けて、どうぞ、なんて言うもんだから、シナシナとカリカリが一緒になってしまいましたよと文句を言うと、ああすみませんと笑っていた。
 鉛筆みたいな長いポテトをつまんで頬張ると、あ、これは揚げたてですと言って口をつけたほうを私に差し出してきたので、首を横に振った。

「僕はね、青春を取り戻すんだ」
「青春?」

 そう、青春。ナカタさんは唇を舐めて塩を拭った。
 ナカタさんと私は通信制大学の同級生だ。ナカタさんは印刷工場の機械工をしながら、去年、高認を取って大学進学した。

「今まで仕事しかして来なかったんだよね。だから色々と経験してみたくて」
「失った青春ってやつですか」
「いやあ」
 ナカタさんは頬を赤らめながらつぶやいた。
「落とした、かな」
「落とした……?」
「うん、落としちゃったんだ。だから拾わないとね」

 ナカタさんは、薄いチキンのバーガーを頬張った。インクのシミが爪の間に入り込んで黒ずんでいる。

「じゃあ、なにから拾いますか」
「うーん、そうだなあ」
 と言っているそばから、ナカタさんは、バーガーに挟まったレタスをトレーに落とした。それが、なんだか面白くて、私は「レタス、拾いますか」と笑った。ナカタさんは、レタスかあ……ってなんでレタス? と落としたことにすら気が付いていないようだった。

「とりあえず、合コンってやつが、してみたいなあ」
 私は飲んでいたコーヒーを噴きこぼしそうになる。
「サクライさん、この通り! かわいい女の子、集めてくれえ!」
「私は、ただの主婦ですよ? 無理です」

 だよなあ、とナカタさんが項垂れたのが、それはそれで癪だった。
「じゃあ、うちの町内会の綺麗な綺麗なご婦人をお誘いしますけど」
 私がつっけんどんに言うと、彼はまんざらでもない様子で、
「どんなご婦人なんだい? あ、そうだ。それならネクタイを新調しないとなあ」
 と、チキンのバーガーをもぞもぞと咀嚼しながら上を向いてにやりとした。彼がなにを想像しているのか、わかったようなわからないような気持ちだった。

「あの、お見合いじゃないですからね?」
 私は、くすくす笑いながら、シナシナのポテトを食べた。

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