ミコノスは白と青
ミコノス島に降り立つと、もうご自慢の夕陽の時間はとっくに終わっていて、暗闇の中の小さな空港はリゾート島なんかではなく、ただの地方空港のように思えた。
仕方なくテイクアウトしたものをホテルの中で食べて、時差も手伝ってかすぐに眠ってしまった。
翌朝、ミコノスタウンに出かけていくと、見事なまでに晴れていた。世界中からここに集まる理由がなんとなく分かった気がした。
一度ミコノスタウンに入ってしまうと、もはやテーマパークのようだった。どこを歩いても白と青、そして土産屋と世界的なブランドの店が並ぶ。
道はくねくねしている割にそんなに本数が多くなくて、でもそれぞれの通りに個性があるという愛着が湧く街のつくりだ。
ギリシャに来てからは、朝食はオムレツ、昼食はピタパン、夜はギリシャワインと相場が決まってしまった。
ピタパンを胃に流し込み、風が強すぎる海岸まで風車を見に行ったり、リトルベニスを見に行ったり、一昔前の名物だったペリカンを探したり、模範的な観光客をやっていた。
他の観光地と違うのは、あまり動画を撮っている人がおらず、アジア人も少ないことだった。みんなヨーロッパからのバカンスで、リラックスをしに来ているという雰囲気が出ていた。日本でも軽井沢でカメラを回す人は少ないだろう。
それに加えて、猫たちが多く気ままに過ごしているのもこの島の特徴かもしれない。ミコノスタウンでは猫も人間も楽しそうだ。
日が傾いてしまってからは、ミコノスタウンはナイトマーケットのようだった。確かに洒落ているし、飲食店もやっているのだけれど、なぜかルアンパバーンのナイトマーケットを彷彿とさせた。
ギリシャの観光島をラオスの街に例えるのはいささか気が引ける気もしたけれど、そう思ってしまったのだから仕方がない。
夜のミコノス島はそんなにやることもない。ミコノスタウンからホテルまでは、コンクリート舗装ではなく地面が剝き出しになったまさに島の道を歩いて坂を上っていかなくてはならない。
地元のお祭りのように、明かりがついた道を少し外れると静かで少し寂れた景色に変わる。
外階段がついた建物があったので、見上げてみると階段には猫が並んでいた。間隔をあけて4匹も階段に座っていたので、少し挨拶をするつもりで階段を上っていった。日本だったらそんなことはしないのに、ギリシャの島だと他人の家だと分かっていても目の前の猫を優先してしまう。
一番上にいるボス猫に挨拶して、撫でるのが無理そうだと分かったタイミングで部屋の中が見えた。
ちらっと見えたのは、ミコノス島の地図のように見えたけれど、間違いなく黒と赤で塗りつぶされていた。
それは、ネガフィルムのようで一瞬にして鳥肌が立った。
なぜかオフシーズンのミコノス島、裏の顔を見てしまったような気がしたのだ。
冬は、あの猫たちはどうやって過ごしているのだろうか。
頭によぎった焦燥感を振り払い、ワインを買って帰った。
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