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さくらんぼ

あの人がくれたさくらんぼのシロップ漬け

千疋屋のちょっといいやつ

いつ食べようかって

大切で、もったいなくて

食べちゃったらいろんなことまでなくなってしまいそうだから


だけどやっぱりあの人は私の隣には立ってくれない

そうだよね、とは言ってくれない

気にしているようでいて、気にしてないから



あの時だって私を惑わせて

態度でなんて不確かなもの信じられるほど強くない

私のところへ来るなんてどういうつもり?

私はあなたのこと全然知らないのに

私の全てを打ち明けることは難くて

私とあなたの思い出って霧みたい

楽しくて笑って、日常から離れられた

だけどそれだけ

きっと私がそう感じているのだから向こうも同じ気持ちなのだろう


さくらんぼを器にあけてシロップだけ注がれて

さくらんぼが袋に詰まってなかなか落ちてこなかった

出てこないさくらんぼを無理やり押し出して

私の未練と執着とさよならするの




一粒一粒が大切で幸せでほんのりと甘い

あの人との思い出が蘇る

脇で流していた映画のBGMが妙にノスタルジックで

気分は余計になんとも言えなくなって

食べた後の消失感は消えないけど

代わりにお腹が満たされて

これでよかったのかなって思う


さくらんぼの茎と種だけが残って

ゴミの日が待ち遠しい

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