厳しいお母さん③
※実話のため、プライバシー保護の観点から
少しフェイクを織り交ぜています。
「そうですか。わかりました。」と
私が答えると、
「今、少しお時間頂いてお話ししてもいいですか?」
と、Aちゃんのお母様はおっしゃいました。
「実は、少し前に腫瘍のようなものがあるのがわかったんです。」
「Aちゃんに、ですか?」
「いえ、私です。私の父、Aのおじいちゃん、なんですが
父は癌で亡くなっていて、その父と同じところに
腫瘍のようなものが見つかったんです。
父は、ちょうど今の私くらいの歳(40代)で亡くなっていて・・・。
来週、その精密検査を受けるんです。」
「まだ、癌って決まったわけじゃないんですね?」
「ええ、でもまぁ、親子ですし、体質とか遺伝とかわかりませんけど
もしかして私も、なのかなって思っていて。
それで、もし、そんな早く私が死んでしまうんなら
Aには、自分で生きていけるだけのことを身につけてほしいって
いい幼稚園、いい学校に進む道筋を作ってやりたいって、
気持ちばかり焦ってしまうんです。
結婚して20年も子どもができなくて、まぁそういう人生かなって
子どもは諦めていたんですけど、
この歳になって思いがけず授かった子なので
可愛くて可愛くてしかたないんです。
なのに、私が死んだらこの子は・・・って思うと
つい厳しくしてしまって、先生も私のこと怖いお母さんだなって
思われていたでしょう?
本当は甘やかして甘やかして大事に大事にしたいのに、
もうどうしたらいいのかわからなくなって。」
そう言って大粒の涙をポロポロこぼされました。
「そうだったんですね、厳しい方だなとは
思っていました。そうとは知らなかったとはいえ、
ごめんなさいね。
お母さん、怖かったね。不安だったんですよね。
もっと早く、こうしてお話ししたら良かったね。」
お母様は私の手をぎゅっと握って
子どものように泣いておられました。
Aちゃんは泣いているお母さんの膝に座って
心配そうに見上げていました。
「お母さんの気持ち、よくわかりました。
厳しいのは悪いことじゃないんですよ。
ただ、叩いたり、恐い顔で怒らなくても
子どもに教えることはできます。
だから、焦らなくても大丈夫。
時間がないって思わないでね。
仮に癌だったとしても、お父様が亡くなった頃より
医学はずっと進歩しているし、治る可能性だってあるでしょう。
まだ癌と決まったわけじゃないし、
まずは来週の検査を受けてきてください。
もしも、そうだったら全力で治しましょうよ。
元気出して、検査、受けてきてください。
Aちゃんのことは一緒に考えましょう、大丈夫!」
そう言って励ましました。
お母様はやっと、
というか教室にお通いいただくようになって初めて、
笑顔になって
「ありがとうございます。
泣いちゃってすみません。
なんか大丈夫な気がしてきました。
検査、受けてきます。
・・・こんなに泣いたのに、なんでもなかったら
恥ずかしいですね、その時は笑ってくださいね。」
「ええ、なんでもなかったら、一緒に笑いましょう。」
そう言って、見送りました。
続きます。