クロノスタシス
久しぶりにみんなと音楽を奏でた。
楽器はベース。そしてボーカル。
場所は彼らと過ごした高校の部室。
機材以外はほとんど変わっていなく、学校の隅っこにあたる小さな教室は、高校時代の甘くて苦い青春を思い出させた。
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高校時代は勉強もできたし、部活も誰よりも練習した。
周囲から悪い印象を持たれることも少なかっただろうし、ある程度の支持も得ていた。
だから生徒会長に選ばれた。
でも、今考えればそれだけである。
結果はいつもついてこなかった。
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あの教室を卒業してから、都会に飛び出したあの時から、向暑はる何も成長していない。
久しぶりに会った彼らは夢を叶えた。
いや厳密にいえば夢の通り道をしっかりと今でも歩いている。
それに比べて、「なんとなく」で生きてきた向暑はるは、夢の通り道さえ見つからず今も彷徨っている。
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いつもの立ち位置から彼らを見渡す。
高校の頃となんら変わりのない風景。
でも、まるでこの位置だけが時間が止まっているような感覚に陥った。
出だしのG♭の音がいつもより濁ったように感じた。